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グローバル化する原子力・放射線安全問題への取組み:
 OECD/NEA事務局次長(安全・規制担当)下村 和生

 

2000年10月

 近年、いろいろな分野でグローバル化がテーマとなっているが、原子力・放射線安全の問題に関しても、この10年間の変化、すなわち、ベルリンの壁崩壊、ソ連邦解体等に伴う東西冷戦の終結、マーケット経済への移行、情報・通信革命に起因し、グローバルな問題としてとらえられるようになった。

 まず第一に、原子力施設の安全に対する取り組みである。旧ソ連邦のチェルノブイリ原子力発電所事故により放出された放射性物質は国境を越え、欧州各地にも拡散した。その後の情報開示により、他の旧ソ連製原子炉の安全性懸念も顕在化し、これに対して、国際社会は、先進7カ国(G7)、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構原子力エネルギー機関(OECD/NEA)等のイニシアティブにより、安全確保・支援に関する国際枠組み・国際安全基準の整備等を精力的に実施することで応えてきた。そして、この原子力施設の安全問題への取り組みは、旧ソ連・東欧諸国のみならず、グローバルな問題として引き続き各種の安全向上策が検討されるようになった。これらの過程で得られた最も大きな成果は、国際的活動を通じて構築された専門家のグローバルなネットワークである。

 二つめは、放射線を出す物質の安全に関する問題である。人、物、情報の移動は、この10年間で量的及び質的に増大した。欧州だけを見ても、欧州連合各国の国境は少なくなり、また旧東側諸国からの人及び物の移動が増大し、さらに情報の移動・共有は、インターネット等の普及により飛躍的に進んだ。この動きに伴い、ウラン、プルトニウムといった核燃料物質、コバルト60、セシウム137といった放射性同位元素の移動も、合法的なものに加えて、密輸、非合法投棄といった事例も増加してきた(拙稿、原子力専門誌「原子力eye」2000年8月号参照)。また、安全に対する一般公衆の興味の増大も各国共通のものとなり、蓄積する放射性廃棄物、放射線の人体への影響等、グローバルな問題として注目されている。

 上記の例以外の分野でも、多くの課題は、もはや一国の問題ではなく、グローバルな取り組みでしか問題の解決が難しくなっている。また、この10年間の筆者の国際経験で学んだひとつは、国が違っても、直面している問題の多くはよく似たものであるということである。すなわち、「私の悩みはあなたの悩み」なのである。もちろん、異なる政治、経済、社会、カルチャーのもとで、取り組むアプローチは異なるわけであるが、到達すべくゴールは同様であり、それに使う手法は、各国の専門家が持っているいろいろな能力・道具を交換することにより、また共同開発・高度化して活用できるはずである。

 この目的を達成するために、新しい時代の専門家は、国際的対応能力とともに、個々人に蓄積された専門的経験・能力・感性等を絶えず向上していくことが求められる。加えて、専門家以外の人が、今、何を不安に思い、何を知ろうとしているかなどを、的確に認知し、判りやすい言葉で解説・主張できることも求められており、まさに専門家にとって、「しんどい」時代の到来と言える。ここで言う専門家は、原子力・放射線安全の分野のみをさすのではなく、政治・社会・法律等、関連する分野をも含むが、当然、原子力・放射線の専門家がキーとなるべきものである。このような専門家は、量的にも限られており、今後、各国において新しい時代にマッチする専門家の養成がさらに望まれるわけであるが、当面重要なことは、世界レベルでの共有、活用である。そして、各国が共通する重要な課題に優先的に取り組み、その解決策について、国際的なコンセンサスを形成していくといったプロセスであろう。

 このために、OECD/NEAは、先進国の専門機関として、質的に高い専門家のグローバルなネットワークの維持・向上、及びその専門家による効果的、かつ効率的な活動を継続することが重要と考えている。加えて、原子力・放射線の安全問題に関する理解増進に関して、専門家と一般公衆の対話をどのようにすれば効率的、効果的かなどについて、新しい取り組みを開始した。21世紀への重要なチャレンジのひとつと考えている。  

 今年の7月末にパリに着任したばかりであるが、この10年間で5つの異なる国の首都に住み、仕事をしてきた。東京、ブリュッセル、ウィーン、ワシントンD.C. そしてパリである。原子力の世界で仕事を始めて、もう25年になるが、10年前には、海外への出張などはめったになく、ましてや外国で生活し、仕事をするなど考えもしなかったが、その意味から言えば、筆者及びその家族の生活もこの10年間で一変し、一挙にグローバル化したといえる。個人的にも、新しいチャレンジが続く。

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