|
2003/11/04
国際エネルギー機関(IEA、本部パリ)のクロード・マンディル事務局長は11月4日、「現在の流れがそのまま続けば、世界はエネルギー供給を維持拡大するために今後30年間に16兆ドルの投資資金を必要とする」と述べました。この金額は過去30年間の総投資額を実質ベースで大幅に上回り、向こう30年間の世界の年間GDPの1%に相当します。「新たな政策行動をとらなければ、世界のエネルギー需要は今後30年間に3分の2増大し、このエネルギー供給を確保できなければ世界経済はもたつくことになろう」。
マンディル事務局長は、ロンドンで開かれた「石油と資金に関する会議」でIEAの主要な報告書である「世界エネルギー投資アウトルック」(World
Energy Investment Outlook =WEIO)の最新版について紹介する中で、このように述べました。この最新版は、OPEC、世界銀行、大手エネルギー企業・金融機関等さまざまな専門家と組織が参加した画期的な共同研究の成果といえるもので、エネルギー投資必要額を燃料セクター別、地域別に詳細に計量化し、必要な資金を調達する上での障害を洗い出しています。「自分の知る限り、エネルギーサプライチェーンのあらゆる部分にわたって、世界の今後のエネルギー投資の状況をこれほど包括的に描き出そうとする試みはこれまで行われたことがない」とマンディル事務局長は述べています。
いくつかの意外な調査結果が明らかにされています。
- 世界のエネルギー総投資額の約60%(約10兆ドル)は発電及び送配電で吸収される。発電所の燃料需要を満たすための燃料チェーンへの投資まで含めると、この比率は70%を超える。
- 世界の電力セクターへの投資の半分以上は送配電が占める。
- 石油セクターとガスセクターでは生産能力を現在の水準に維持するためだけでも4兆ドルもの投資を上流で行う必要がある。
- 石炭産業の投資必要額は4,000億ドル(世界のエネルギー投資額の2%)に過ぎない。
OECD諸国も電力投資の資金調達で困難に直面します。これまでは問題ありませんでしたが、競争市場への移行によってさまざまな金融リスクが生じています。自由化は多くのメリットをもたらしていますが、他方、発電所、特にピーク時電力に対応した発電能力への投資リスクが高まっています。一部のOECD諸国では、送電網向け投資は発電所向け投資に比べると立ち遅れていますが、送電網の拡大には一般の抵抗が強いといった障害もあります。米国と欧州諸国で先般発生した停電はこの問題の重要性を浮き彫りにしています。
石油セクターとガスセクターへの2030年までの投資総額はそれぞれ3兆ドル以上(世界のエネルギー投資の約19%ずつ)に達します。世界の炭化水素の残存埋蔵量の多くは中東にありますが、中東がそのための巨額の投資資金を確保できるかどうかも大きな不透明材料です。イラクだけでも2010年までに石油生産能力を日量約400万バレルという予測水準へと引き上げるために約50億ドルの資金を必要とします。
多くの場合、エネルギー市場の改革、サプライチェーンの複雑化、世界の供給における国際取引のシェア拡大などによって、天然ガス産業への投資リスクも高まっています。ガス投資への不足が生じないようにするには、リスクが高まっている分だけリターンも向上させる必要があります。液化天然ガス(LNG)の単位コストはさらに低下しますが、LNG取引は6倍に増加するので、この増加に対応するにはこれまで以上にLNGチェーンへの投資を増やす必要があります。特に世界のガス埋蔵量が集中している中東、アフリカ、ロシアのガス産業に資金が向かうようにするためには、未だに幅広い分野で残っている外国投資規制を撤廃したり、税制改革を実施したりすることが極めて重要となります。
最大かつ最も差し迫った課題は、開発途上国と市場経済移行国が必要な投資資金を調達できるかどうかです。開発途上国と市場経済移行国の資金ニーズは、絶対額でも対GDP比でもOECD諸国のそれを上回っています。投資必要額の対GDP比は、OECD諸国がわずか0.5%であるのに対し、ロシアは5%、アフリカは4%に達しています。しかも、一般に投資リスクも、特に国内の電力プロジェクトと下流のガスプロジェクトについては、OECD諸国より高いのが普通です。エネルギーセクターは経済の他のセクターと競争して資金――大半は民間資金――を確保しなければなりません。マンディル事務局長は、投資必要額は莫大な金額のように見えるかもしれないが、適切な投資環境を整えれば決して調達できない金額ではないと述べました。
開発途上国、特にアフリカとインドの電力セクターが5兆ドルの投資資金を調達することには大きな困難が予想されます。こうした開発途上国に多額の資金が向かうようにするためには、徹底的な改革――特に料金構造をよりコストを反映したものへと変える改革――が緊急に必要とされています。
ここで予測されている投資の伸び率の下では、電力を利用できない人々は2030年になってもまだ14億人おり、現在より2億人減少するに過ぎません。世界の電力投資をわずか7%増やすだけで、こうした取り残された人々にも最低限の電力を供給できるようになりますが、電力投資を7%増やすということは、既に資金調達に苦しんでいる最貧困地域が更に6,650億ドル調達するということに他なりません。「我々は皆、2030年までに世界のすべての人々に電力を供給するのに必要とされる資金を調達できるよう努力する義務がある。さもないと、世界のどこかで誰かが、必要なエネルギーを利用できなくなる。」とマンディル事務局長は述べました。
長期的には、炭素隔離技術や水素、燃料電池、先進的な原子炉など、今日開発が進められている先進技術によって、エネルギー投資のパターンと投資必要額は劇的に変わる可能性があります。こうした先進技術をどれだけ早く利用できるようになるかは、その商業利用を加速する財政面や規制面のインセンティブに大きくかかっています。
政府はエネルギー投資の環境整備で極めて重要な役割を果たすようになります。政府はこれまでのように投資を直接的あるいは国営企業を通じてファイナンスするのではなく、民間投資を促進する政策やその環境整備を進めていくことになるでしょう。具体的には、リスクの変化や投資障壁の削減方法を特定し、政策や法律、規制の枠組み全体にこれまで以上に配慮することになるでしょう。健全なガバナンスの基本的な手段が世界の多くの国々のエネルギーセクターやより広いセクターにおいて強化、適用、尊重されるまでの道のりは遠いと見られています。「WEIOは多くの課題を特定した。WEIOは、我々が課題を理解し、その課題にすぐに取り組めば、将来を変えることができるという前提に立った政策分析ツールである」とマンディル事務局長は述べています。
|