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ニューエコノミー オア ニューエコノミックス
OECD科学技術産業局 局長 根津 利三郎
2000年2月
今流行の話題にニューエコノミーというのがある。米国経済は1992年以来好況を続けついに去る1月107ヶ月と米国経済最長の持続的景気拡大となった。しかもさらに不可思議なのは賃金上昇、それに伴うインフレが起きていないことで、失業率の下落とインフレとのトレードオフを当然視してきた経済学者に新しい問題提起をした格好になっている。米国経済の構造が根本的に変化したのではないかとの見方がでてくるのは当然で、そこから「ニューエコノミー」論が出てくるのである。但しこの概念は正確に定義されているわけではなく、人によって意味するところも同じではない。米国経済は景気循環から開放され永久に成長し続けるという極端な議論は別にしても、グローバリゼーションにより安価な輸入品が国内に流通し、価格引き上げが出来にくくなっていることが原因とする見方もあれば、第二次ベビーブームや外国からの移民の増加など人口構成の変化で説明しようとする専門家もいる。OECDでもこの問題を昨年の閣僚理事会以降 growth
projectとして筆者の所属する科学技術産業局(DSTI)を含め関係の局で研究に着手したところである。
OECDの視点からすると、当然のことながら単に米国経済のことだけではなく、加盟国全体の動向に関心がある。特に、米国経済が長期の繁栄を続け、ほかにも90年代後半に順調な経済の拡大を実現している国がある反面、日本に典型的にみられるように成長率の鈍化、失業の増加、企業倒産、財政赤字などが一層深刻化している国との格差が拡大している。大蔵大臣や中央銀行総裁、経済大臣が頻繁に集まって財政や金融政策、為替相場などについて調整しているのになぜ格差は広がるのか。実は国境を接し、通貨金融政策を一元化しているヨーロッパのなかでもオランダ、アイルランド、フィンランドなどのようなうまくやっている国とトラブっているドイツ、フランス、イタリアなどとの間で二極分解の様子を呈している。要するに世界全体が 「 勝ち組 」と「負け組 」に二極分解の様子を呈している。何故か? マクロ経済政策が機能しないとすればどうしたらよいのか
現在いくつかの答えがOECDのなかで検討されているが最も重要な視点は90年を通じて、industrial economy から knowledge
base economy(KBE)への移行にいち早く対応しえた国とそうでない国との間で格差が拡大したということである。 そしてこのKBEへの移行の推進役は技術でありなかんずく情報技術である。KBEとは経済活動の中心が電気機器、自動車などのような物的な財から、情報、映像、データ、サービスなど知的な価値の創造、消費に移行していく経済であり,そのような経済では資源配分、税制、コーポレートガバナンス、競争政策などが根本的にことなったものにならざるを得ない。日本,ドイツ、フランスなど、製造業を中心に発展してきた国がその成功のゆえにKBEへの転換に真面目に取り組んで来なかったのに対して、米国やイギリスが80年代に経済再活性化のため懸命の努力を払い,その結果が90年代になって逆転現象を生み出したのであるが、具体的にどのようなことが起こったのか、主要な点を考えてみることにしたい。
KBEの推進役はインターネットに代表されるIT技術である。米国の設備投資の四割はIT関連といわれそれが経済成長、雇用創出に大きく寄与している。さらに重要なことは、流通や金融業などがネットワークを利用することにより既存の物,情報、金の流れを短絡化、合理化することにより多くの雇用機会を不要にするとともにインターネットを利用したあらたな情報提供サービス業を生み出していることである。このような大規模な労働者の業種間移動は解雇が容易で、訓練や中途採用が弾力的に行われる社会では比較的円滑におこなわれるが、そうでない国では時間のかかるプロセスとなってしまう。総じて見ると雇用関係のドライなアングロサクソン諸国が良好なパフォーマンスを示しているのはこのような労働の移動を促進させるメカニズムが機能したからとみられている。わが国においても最近生涯教育、訓練といった話しが聞かれるようになったが、いったん社会に入った人間が現在の職種に関係のない技術、知識を習得することは難しく、またどこか悲壮感がただよって抵抗があるのに対して、米、英ではコミュニテイカレッジや、夜間の職業訓練所などが用意されており転職やキャリアアップを支援する制度が整っている。このような努力がKBEへの円滑な移行のためには不可欠である。
技術を経済発展のために戦略的に活用する、あるいは技術の経済成長、雇用創造への寄与を政策を通じて高めることが出来る、という考え方は比較的最近のものである。長いあいだ、経済学者も政策担当者も発明・発見は偶発的かつ外生的なもので、人為的にコントロールすることは出来ず、せいぜい研究開発予算、人員を増やすことで間接的に経済へのインパクトを高めることが出来る程度の理解であった。事実政府の科学技術関係省庁は予算の確保とその配分にしか関心を示めさなかったのである。しかしながら80年代に入って、どれだけ金を使ったかというインプットサイドの発想から、どれだけ世の中のためになったかというアウトプット指向の発想に変わり、その結果、技術の開発のみならず、その普及、活用をより重要視するようになった。そのためには、大学、民間研究所、国の研究機関、外国との協力、特許制度、知的所有権の保護、研究者間の交流、製品市場での競争,研究者への報酬などが影響を与えており、これらを改善することにより技術の貢献の度合いを政策的に高めることが出来ると考えられるようになっている。そして産、官、学の間の壁をいち早く取り払い、知的所有権の保護を強化し、さらには成功した研究には十分な経済的対価を認めた米国がこの面でも良好な成果をおさめつつある。
電気通信分野における民営化、規制撤廃はKBEへの移行には不可欠のステップであった。この分野は交通や金融、エネルギーと同様長らく、競争にはなじまず、地域独占の不可欠な分野として、各国において独占が認められるとともに、その弊害を避けるため政府の監督のもとに置かれてきた。80年代の中ごろから、英、米、日本で電話公社の民営化あるいは独占事業者の分割がおこなわれるとともに競争事業者の参入が認められるようになった。その結果電話料金の下落、新規参入者による多様なサービス産業の誕生など経済全体に好影響をもたらす結果が得られている。ヨーロッパ大陸でも98年1月から民営化、参入自由化が進み国境を超えた大型合併、提携が始まっているが、総じて規制緩和の効果は米英に比べ遅れている。
経済パフォ−マンスの格差は企業経営の違いからも来ている。80年代終身雇用制と長期的グループ内取引、株式持合い、メーンバンク制などに特徴づけられる日本型資本主義はKBEの時代に入って機能障害を起こしている。終身雇用制は労働力の企業間業種間移動の妨げになり、系列内取引は安価な部品の調達を不可能にし、株の持ち合いは価値を生まない不良資産の処分を送らせ、株式市場を通じての無能経営者の排除というコーポレートガバナンスの基本的機能を弱めた。技術進歩が加速的に早まり、商品のライフサイクルが短く、したがって投資回収期間も短縮するKBEにあっては、かつての長期的視点に立った経営も逆に迅速な対応の妨げになり、グループ内での相互の助け合いもぬるま湯的経営環境を醸成することになってしまった。そのようななかで、最近増えている外資による日本企業の買収は単に不良債権の処理、資本の不足を補填するというよりは、大競争時代、KBEの時代にふさわしい経営者が日本に育っておらずそれを外国から得ることに本当の意義があると考えるべきであろう。
以上は目下OECDで作業が進んでいる growth project の要点の一部である。今後さらに広範な検討が進むことになっており、別途の機会により詳細を紹介したい。
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