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ニューエコノミーについての報告書を発表

 

2000/6/27

■OECDは1999年、OECD閣僚理事会での要請を受け、経済成長の各国間の格差の要因、長期的な経済成長に繋がる要素や政策を特定するための2年間にわたるプロジェクトを開始しました。2000年6月、OECDは第一回目の報告書「A New Economy? The Changing Role of Innovation and Information Technology in Growth」を発表しました。

 以下は同報告書の日本語要約です。


ニューエコノミー?
成長における革新と情報技術のチャレジングな役割


OECD諸国における経済成長のパターン

 OECD地域の成長パターンについての分析によると、1人当たりGDPの水準は今や国によって様々である。オーストラリア、オランダ、ノルウェー、米国など一部の高所得国では1990年代に、高い伸びが見られた。さらに、アイルランドや韓国などの国も高所得水準へのキャッチアップを続けた。しかし、日本や欧州大陸の大半の国々(特に大国)における伸びは、マクロ経済の不振などにより80年代を下回った。

 1人当たりGDPの格差が拡大したのは、1つには労働利用率の格差が拡大したためである。オーストラリア、アイルランド、米国などの例が示しているように、労働利用率の上昇は短・中期的に成長に大きく寄与し得るものである。1人当たりGDPの成長率の高い国は1990年代に雇用を維持したか、増やしているのに、1人当たりGDPの成長率が鈍化した国では、雇用は停滞するか、減少した。労働生産性は90年代にある水準に集中し続けた(図を参照)が、これは、1つには雇用が伸び悩んだ国で人員削減が行なわれた結果である。

 一部の国(オーストラリア、デンマーク、アイルランド、フィンランド、ノルウェー、米国など)では、労働生産性伸び率は大幅な技術の進歩とリンクしており、これは労働力と資本の全体的な使用効率を反映する全要素生産性(MFP)の伸びによって推定される。また、経営慣行や組織の再編、そしてより一般的には、財やサービスの生産効率改善からも影響を受けている。多くの国で、MFPは資本・労働比率の向上よりも重要な労働生産性の牽引役となっている。90年代後半に、MFPはオーストラリア、フィンランド、アイルランドで加速したが、米国でも90年代初めとは打って変わって加速した。最近の調査によれば、米国の1996〜1999年のMFP伸び率は1.25%と、1991〜1995年の約0.6%に比べ2倍の水準へと加速した。

 成長パターンの実証分析によれば、成長パフォーマンスの差を生み出す最大の単独要因を特定することはできない。一部の国におけるMFP伸び率の上昇、情報通信技術(ICT)などの投資財に見られる技術進歩の重要性の高まり、技能の重要性などの指標は、最近の成長パフォーマンスにおいて技術と革新が重要な要因となっていることを示している。


成長パフォーマンスにおける革新の役割の変化

 技術進歩、革新、成長率の関係は90年代に変化したように思われる。ネットワーキング、協力、国の内外における知識の流動的フローの重要性が高まってきており、経済における組織の交流方法も影響を受けている。OECD地域の一部の国は、これまでのところ他の国より変化にうまく対応し、その恩恵を享受している。米国は特に注目に値する。というのも、米国はすでに生産性が最も高く、技術が最も進歩している国の1つであるのに、MFPの大幅上昇を達成しているからである。

 このような変貌を遂げつつある環境の中で、革新は、ますます市場誘導型で急速かつ強烈なものとなり、科学的進歩との繋がりをいっそう深め、これまでにもまして経済全域に幅広く浸透するようになっている。例えば、サービス業の研究開発(R&D)が全産業のR&Dに占める比率をOECD諸国全体について見ると、1980年の5%弱から1995年には15%強へと上昇している。カナダなど、サービス業のR&D統計が発達している国では、この比率は今や約30%にも達している。

 多くの国で、ICTは、特に最近のインターネット、ワールドワイドウェブ、ブラウザ、電子商取引などの登場以降、アウトソーシングや外部企業との協力のコストを大幅に引き下げることによって、これらの変化を助長している。ICTは、電気通信などのサービス業が本来持っている独占的性質の崩壊を後押ししている。また、ICTは、革新プロセスの迅速化と循環時間の短縮を実現する重要な技術となっているほか、経済のネットワーク化を促進し、体系化された知識とアイデアの急速な普及を可能にし、科学をさらに効率化してビジネスとの連携を強める上で重要な役割を果たしている。

 革新のコストとリスクが増大しているため、企業は専門性を強め、内向き志向からより外向き志向へと方向転換している。企業の商業戦略における調査研究の役割も変化している。革新に必要な技術の幅が広がるとともに、技術がより複雑化するにつれ、企業は必要なすべての技術分野を自前で手当することはできなくなっている。枢要な技術開発の多くは、幅広い科学と商業の知識から生まれるものである。したがって、不確実性を減らし、コストと知識を分担・共有し、革新的な製品やサービスを市場にもたらすために、専門分野を異にする企業間の協力の必要性が高まっている。

 実証的な調査によれば、企業間の協力は、技術の開発、応用、普及の面で重要な役割を果たしており、多くの場合、新しい技術の誕生に際してその事実上のスタンダードを作ろうとする意欲がこうした協力の動機となっている。その好例は、欧州における携帯電話の爆発的な普及につながったGSMスタンダード(汎欧州デジタル移動電話方式)の開発である。企業間の協力合意は、ICTの活用や導入に困難のある企業に多く見られ、とりわけ、銀行や航空会社などのように互換性と相互運用性を確保する必要がある場合に見られる。 企業提携の数が情報技術やバイオテクノロジーの分野を中心に急増していることを示すデータもある。例えば、ICT関連の地域内新規提携数は80年代前半から90年代半ばまでに3倍へと増えている。 米国の上位1,000社を見ると、戦略的提携による利益が企業の全利益に占めるシェアは1998年に4分の1に達し、90年代初めに比べ倍増している。

 特許も、国が革新と知識の源泉を求めてどこにでも向かう姿を示しており、国境を越えた特許(出願者(特許権者)が発明者とは別の国に居住しているケース)は90年代に大幅に増えている(図を参照)。ただし、特許の国際化がすべての国で同じように急速に進展しているわけではない。あるデータによれば、米国では、欧州や日本に比べると、外国の共同発明者を有する特許の比率が高く、その比率も急上昇している。

 オーストラリアや米国といった国はハイテク技術者の移民から大きな恩恵を受けている。米国がICT分野(特に人材が大きな役割を果たすソフトウエア分野)で急成長を維持できたのは、海外から多数のハイテク技術者を取り込んだためという指摘がある。したがって、移民は米国の景気拡大を可能にしている要因の1つといえるかもしれない。移民が、最も切迫しているハイテク技術ニーズの一部を満たしているからである(図を参照)。

 ICTやバイオテクノロジーなどの分野における革新はますますより直接的に科学的進歩に依存するようになっていることを示すデータが増えている。米国では、特許が保護する範囲を公的助成金による研究成果にまで広げたバイ・ドール法(1980年)をきっかけに、革新を生む過程における科学の役割が強まり、産学協同が助長されるようになった。それ以降も、この分野における一層の政策改革が革新の動きを後押ししている。例えば、米国特許の引用件数に関する最近の分析によれば、バイオテクノロジー分野における引用の70%強は公的な科学研究機関による単独の研究論文であるが、英国における科学論文調査によれば、産学共同研究論文の比率は1981年の20%から1991年には40%へと増加した。

 新たに設立された企業は、新しいアイデアや革新の重要な担い手であり、需要のパターンが不明確で、リスクが大きく、技術がまだ完成されていない新しい分野では既存の大手企業より優位に立つことができる。新規企業として始まったマイクロソフトはその代表格である。米国では、シスコなどの大手企業がシリコン・バレーに「ショッピング」に出かけ、小規模の革新的プロジェクトを丸ごと買い取ったり、出資したりしている。例えば1999年には、マイクロソフトは44社の株式(130億ドル)を取得し、インテルは35社の株式(50億ドル)を取得した。

 設立されたばかりの企業は、財政的援助のほか、しばしば経営面での支援も必要としている。現在、ベンチャーキャピタル市場が最も発達しているのは米国である。1999年には、米国のベンチャーキャピタル投資総額の半分以上がインターネット関連への投資であった。ベンチャーキャピタルの投資額では、伝統的な銀行の役割が大きい欧州は米国に遅れをとっている。日本では、ベンチャーキャピタリスト(主に銀行の子会社)はリスクを分散するために多くの企業に小額の出資をする傾向がある。1998年度における日本のベンチャーキャピタリストの一件あたり平均出資額は50万ドルであったが、一方米国と欧州ではそれぞれ470万ドル、110万ドルであった。米国のベンチャーキャピタリストはしばしば新企業の経営面にも関与するのに対し、欧州と日本では経営面に関与するケースはそれほど多くない。また、欧州と日本では、初期段階のプロジェクト開発への投資に占めるベンチャーキャピタルのシェアも比較的低水準にとどまっている。

 最近の成長パフォーマンスにおいて、革新と情報技術は密接に関連している。ICTがなければ、革新プロセスに見られる最近の変化や革新自体に対する変化は発生しなかっただろう。逆に、革新システムやより広範な経済全般における変革がなければ、情報技術の影響もそれほど大きくはならなかっただろう。したがって、革新を促進し、成長パフォーマンスを助長する政策はこの両方に取り組む必要がある。


成長パフォーマンスにおける情報通信技術(ICT)の役割

 OECD諸国では、ICTへの投資は、経済成長と労働生産性の伸びに大きく寄与している。1990年代にICT関連機器は急増した。G7諸国では(おそらく他のOECD諸国でも)、ICT投資は過去20年間に2ケタの伸びを示し、企業部門での非住宅投資総額の10〜20%を占めていた。しかし、コンピュータは広く普及しているように思われるものの、ICTの利用はサービス業と一部の製造業に集中しているのが実状である。不変価格表示(基準年は1996年)で見ると、米国の機器・ソフトウエアへの投資全体に占める情報処理関連の機器・ソフトウエアへの投資シェアは1987年の29%から1999年には52%へと上昇している。ICTは1995年以降、ICTのニューウェーブとして、ワールドワイドウェブやブラウザなどのアプリケーションを基盤に経済全体に急速に普及した。これらの技術は比較的低いコストで、その有用性を大幅に高めるオープンネットワークの中で、コンピュータや情報システムの既存の資本財をリンクするものである。

 相対的に見ても、ICT資本は経済や労働生産性の伸びに大きく寄与しており、その寄与度も高まっている。カナダ、英国、米国では、固定資本による経済成長への寄与のうち約半分はICT関連機器によるものである。韓国銀行によれば、最近の韓国におけるGDP成長の40%はICT部門の寄与によるものであるが、これはICT部門が1999年にGDPに占めていたシェアの5倍である。多くの国では、ICTのマクロ経済成長率やMFPへの寄与で計測可能なものは依然として少ないが、個別セクターの調査や全企業ベースの調査によれば、ICTの利用、生産性、GDPの伸びの間には強い相関性がある。米国の最近のデータによれば、1996〜1999年におけるMFP伸び率の上昇の約半分はICT以外の産業のものである。

 ICTは、特許数で計測した革新率が最も高い技術分野である。米国商務省特許・商標局が1992〜1999年に与えた特許総数のうち、ICT関連は31%を占めており、ICT関連の特許数は年間に約20%のペースで増えている。特許率が高いということは、ICTを効果的に利用する上で必要なICT関連のハードウェアとソフトウェアで多くの変革が行なわれていることを意味する。もっと一般的には、ICTは、他の経済部門をより革新的にするのに役立つ経済と革新プロセスにおける多くの変革を可能にしている。

 ICT関連機器の購入が圧倒的に多いのはサービス業であり、その業績は特にICT導入の影響を受けている。金融や企業向けサービスなどのサービス業がICT投資をリードし、多くのサービスが今では非常に革新的なものとなっている。さらに、サービスの取引きが可能になっている結果、サービス間の競争が激しくなるとともに、提供するサービスの質を高めるために革新への気運が高まっており、それ故サービスは競争力を維持、強化している。取引や仲介の容易化や利便性向上といったサービス改善の効果を把握するために品質面の調整を加えてサービス業の生産高をより正確に計測しようとすると、サービス業の生産性は従来の計測結果より上方修正されるのが普通である。例えば、米国の銀行業の調査によると、1977〜1994年の生産高の年間伸び率は、従来の計測方法による1.3%ではなく、7%強となる。

 インターネットと電子商取引は、特にサービス業において経済成長に大きく寄与できるように思われる。しかし、ここでも国によって状況は異なる。インターネット用ホストコンピュータの密度では北欧諸国、カナダ、米国がリードしている。1999年9月時点で見ると、米国のホストコンピュータ普及率は、OECD平均の3倍、EUの7倍、日本の8倍であった。1999年から2000年3月までの住民1,000人当たりインターネット用ホストコンピュータ追加台数は、米国の25.1台に対し、英国は5.5台、日本は4.1台、ドイツは3.0台、フランスは2.7台である。要するに、他の国が米国に追いつくのではなく、差は広がっているようである。しかも、2000年3月現在、1人当たりの高安全性サーバー(secure server)数でも、米国はEUの6倍、フランスの9倍、日本の11倍、イタリアの16倍に達している。これまで通信インフラで世界をリードしていた北欧諸国ですら今ではOECD平均を下回っている。ここでも、最新のデータによれば、米国がリードを広げている(図を参照)。

 インターネットを利用すれば既存のICT機器の品質と機能性を大幅に高めることができるので、インターネットはICT投資の一層の増加にもつながっている。インターネットは、1つには既存の通信インフラに基づく所有権のない基準を活用するため、電子商取引への参入障壁を大幅に引き下げる環境を創り出す。低コストでインターネットに接続できることや特定の機器やオペレーティングシステムに依存していないことで、特定の技術に拘束される機会費用が減るとともに、古い形の電子商取引の導入に伴う「乗り換えコスト」も少なくて済む。インターネットを通じて電子商取引を計測したデンマークやフィンランドなどの例では、発注にインターネットを利用している従業員数20人以上の企業の比率は1997年の約15%から1999年には約50%へと上昇し、受注にインターネットを利用している企業の比率もわずか7%から40%へと上昇している。

 農業では、インターネットによって正確な市場価格情報を入手できるようになるほか、新しいオンライン農産物市場の創設も促進される。建設業では、青写真の必要が減るとともに、下請け業者間のスムースな連絡が可能となる。製造業では、調達コストを削減し、供給の流れの管理を改善することによって効率が高まる。サービス業では、利便性やカスタマイゼーションなど商品の品質面での改善をもたらし、コストや遅れが少なくなるとともに、信頼性の向上につながる。

 ICTのメリットが最も大きいように思われるのは、新たな戦略の立ち上げや新たなビジネスプロセスの採用、組織の再編、従業員の技能向上といった他の組織上の資産と並行してICT投資を行なう場合である。米国で行なわれた最近の調査によれば、全企業の4分の1が、インターネットによってもたらされる変化に対応するため組織の再編を行なったと報告している。例えば、米国の耐久材メーカーは1989〜1999年に(売上高に対する)在庫率を25%以上も低下させている。これは、在庫の資金手当や倉庫への保管、需要低下に伴う値引きなどをしなくて済む節約効果を考慮に入れない数字である。


革新と情報通信技術を基盤にした成長支援政策

 革新やICTへの投資とその普及を支援する政策に関する予備調査によれば、重要なのは幅広い補完的な要素や政策である。国が急激な技術変革に対応できるかどうかは、それに相応しい一連の技能や円滑に機能する商品市場や資本市場があるかどうかに大いに依存している。これらの条件が整えば、イノベーションを生み出し、新しい技術を受け入れやすい環境を創り出すのである。米国経済に関する最新データは、ICTが、おそらく「適切な」環境のもとで、経済成長に非常に好ましい影響を及ぼしていることを示している。

 企業が革新や効率向上につながる技術に投資するのは、十分なリターンが見込める場合や競争によってそうせざるを得ない場合である。競争は技術のコストを引き下げる上でも重要である。このことは、ICTやインターネットなどの技術を経済全域に普及させる上で決定的な意味を持つ。技術革新そのものによって、電気通信市場の多くの領域では独占的性質が取り除かれているので、技術革新は競争激化と規制改革に寄与している。オーストラリア、デンマーク、オランダ、米国などは競争を活発にするために規制改革を以前から行なっている。

 ICTへの投資は、全てのOECD諸国において成長と労働生産性の伸びに大きく寄与している。しかし、ICTの導入ペースは、1つには電気通信市場自由化のテンポが違っているため、国によって異なっている。自由化の遅い国では、必要なインフラへの投資が十分に行なわれず、コストが増大している。OECD諸国の中でもうまく行っている国の多くは、いち早く電気通信市場と情報技術産業の自由化を行った国である。

 あるデータによれば、インターネットと電子商取引は、サービス業を中心として経済成長に大きく寄与することができる。しかし、インターネットの導入ペースはOECD内でも国によって非常に異なっている。インターネット用ホストコンピュータの密度では、北欧諸国や米国、カナダがリードしている。国によるインターネット普及度の違いをもたらしている重要な要素としては、規制制度、市内電話料金(課税を含む。)、ICTユーザー数の採算ラインなどが挙げられる。

 新しい分野で鍵となる技術の開発は幅広い科学的、商業的知識に依存しているため、協力関係が欠かせなくなっており、企業間の技術提携力やM&Aへの関与、貿易や外国直接投資への開放度などの全てが革新プロセスにおいて重要な役割を果たす。しかし、競争以前の段階にある研究で協力が行われる場合には、後に競争当局が果たす強力な役割とバランスをとる必要がある。さらに、OECD諸国が国際的な知識や技術の源に同じように目を向けているとは思えないので、このことが革新と技術の変化に影響を及ぼす可能性もある。

 科学と産業との繋がりはOECD諸国全体で同じように確立されているわけではない。改革が進行中ではあるが、OECDの最近の調査によれば、多くの国では規制制度とインセンティブを阻害する構造のために相変わらず協力が限られたられたものになっている。デンマーク、フィンランド、米国など、いくつかのうまく行っている国では、科学と産業の革新の間に強い繋がりが見られるという特徴があるようだ。

 産業界との繋がりを含めて、科学研究機関は技術の普及と革新にとって重要な存在である。国がグローバルな知識の蓄積の恩恵を受けようとすれば、科学の重要性はさらに高まる。科学の基礎研究はインターネットやレーザーなど社会を変革している多くの技術の源泉となっており、ゲノム研究は医療やバイオテクノロジーの進歩に貢献している。明らかに政府は科学的研究への資金助成の面で重要な役割を果たすべきであるが、科学への投資のリターンは減少していく傾向にあるので、政府としては公共投資の適切な規模を注意深く検討する必要があるだろう。

 人的資本やベンチャーキャピタルへのアクセス、行政上の規制の強さ、起業の状況など、新しい企業を取り巻くビジネス環境の違いも革新と経済パフォーマンスに影響するかもしれない。オーストラリア、デンマーク、アイルランド、米国など、OECD諸国の中でも「うまく行っている」国の多くは、新しい企業に対する行政上の障壁が比較的低い。

 金融制度の違い、特にリスクを伴うプロジェクトについてどの程度資金調達できるかということも、新興産業の革新やひいては成長に影響を及ぼす可能性がある。新興企業は資金調達方法が限られていて、事業の拡大や革新への投資を行うことができないかもしれないからである。伝統的な銀行が支配的な役割を果たしている国より、金融市場がよく整備され、ベンチャーキャピタリストが活発に活動している国の方が、革新や新興産業への資金の再分配には適しているかもしれない。

 人的資本は革新過程における重要な要素であり、革新に関する多くの調査によると、ハイテク技術者の欠如が革新に対する決定的な障壁の1つになっている。人的資源の国際的な流動性を高める必要があるが、国が教育、技能向上、人的資源管理に国内レベルで取り組む必要もある。需要が常に変化している経済においては初等教育だけではもはや十分でなく、生涯学習の重要性が増している。革新と技術革新が経済の中で果たす役割が高まるにつれ、創造力、チームワーク、経験的技能が必要とされる。

 革新と技術の変化は成長パフォーマンスを高める上で非常に重要であるが、好ましくない影響も出るかもしれない。情報技術の急速な普及は技術にアクセスできる人々とアクセスできない人々の間の「デジタルデバイド」につながりかねないと懸念されている。そうなれば、技術革新に関連した技能への偏向が強まり、高度の技能を持っている労働者と持っていない労働者の間で機会の格差が生まれる恐れがある。さらに、一部のOECD諸国では、ごく一部の人々のみが革新から金銭的な恩恵を受け、所得面での不平等が進むと懸念されている。このような好ましくない影響がどの程度出てくるかについてははっきりしない。というのも、こうした問題の多くは目新しいものではなく、米国の最近のデータによると、所得の不平等は改善され、非熟練労働者の就業率も上昇しているからである。急速な技術革新にはしばしば大規模な社会変動が伴うので、政策当局にできる最善の策は、生涯学習や円滑に機能する労働市場など、こうした変化に対応できるようにするツールや技能を人々に提供することである。

 急成長や革新に他よりもうまく対応できる国や文化があるとする見方がある。文化は人々がリスクをとったり起業や移住をする意欲に影響するかもしれない。また、それは国の制度的枠組みにも影響を与えるかもしれない。従って、文化的および制度的な要素は、政策や政策手段の移転可能性に影響を及ぼし、米国の経験が他のOECD諸国にあてはまる可能性を減らすことになるかもしれない。しかし、文化は静的な概念ではなく、例えばリスクや起業への態度は税制や規制、労働市場、教育制度の変化によって影響される可能性もある。この点では、信頼性や社会への基本的な信用といった問題も重要であり、OECDでもこうした問題について研究を進めている。

 ICTやインターネットを革新の基礎として活用するには単に機器を購入したり、学校にそうした機器や回線を設置するだけでは不十分であるということを肝に銘じておかねばならない。組織再編、労働力の流動性、製品市場の競争、新たな技能を身につけるための訓練、リスクをとって新たなことを試みようとする意欲、出所にかかわらずあらゆるアイデアに対する開かれた精神などを支える、より広範な枠組みを整備する必要がある。

 

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