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経済

OECDジョンストン事務総長が訪日

1998/10/13

■読売国際経済懇話会で講演

 10月11より13日まで、ドナルド・ジョンストンOECD事務総長が訪日し、小渕首相をはじめ外務、通産、経企などの主要閣僚、さらには経団連や連合関係者と会談した他、読売国際経済懇話会において、講演を行いました。また、オタワで開催されたOECD電子商取引国際会議の成果を踏まえて、グローバル情報通信インフラ整備に関するGIIC東京会議で講演しました。

 ジョンストン事務総長は、NHKの「おはよう日本」や主要紙の報道にもありましたとおり、今回の訪日では、「野球にたとえれば、現在の日本は、これまで長年にわたり連戦連勝してきた強豪チームが一時的スランプに陥っている状態。日本経済の将来のためには、国民が自信を取り戻すことが一番大切。日本は、国民の巨額の金融資産、潤沢な外貨準備、強い製造業、高い生産性、質の高い人的資源をなお有しており、現在の不良債権問題処理や、財政出動、構造改革を早急に進めれば、必ずしや順調な経済成長の軌道に回復する。自国の将来に自信を持って欲しい。」との対日メッセージを伝えました。

 以下は読売国際経済懇話会における講演の抄訳です。この講演でジョンストン事務総長は、(1) 日本経済の現状と問題点、(2) アジア経済危機における先進諸国の役割、(3) 欧州におけるユーロ導入の影響、(4) OECDの役割と展望、の4点につき述べました。

(詳しくは原文をご参照ください。)

「世界経済における日本―OECDからの展望」(抄訳)
Japan in the World Economy − An OECD Perspective
読売国際経済懇話会 1998年10月13日


1. 日本経済の現状と問題点

今日の日本が抱える問題は、他のOECD加盟国の問題と比較しても非常に深刻なものです。日本経済が再び正常に機能するようになることは、日本国民にとってだけでなく世界の人々にとっても大きな利益なのです。

日本の経済成長について、OECDでは、今年は大幅に悪化し、1999年は良くてもわずかな伸びにとどまるだろうと見ています。しかし、重要なのは、何故日本経済がこのように停滞状態に陥ってしまったのかを考えることでしょう。1991年から1996年、日本経済は年7.5%の成長を続けました。同じ時期に政府の財政赤字はGDPと同様に増加しました。つまり、この時期の経済成長はほとんど財政の拡大によるものだったのであり、言い換えれば、もし財政の拡大がなければ、日本経済はバブルの後遺症対策のために成長はまったくありえなかったことでしょう。日本のバブルは、近年OECD諸国が経験したものとしては最大規模のものでした。今日までの累積評価損は1000兆円に達し、これは日本の財・サービスの総生産額の2年分に相当します。

この不況を終わらせるにはどのようなマクロ経済政策をとるべきでしょうか?現在の低金利の下では、金融政策でこれ以上需要を刺激することはできません。日銀の努力にも関わらず、貸し渋りは一向に解消されていません。財政政策の面では、4月の景気刺激策と現在検討中の第二次補正予算が経済活動を少なくとも安定化させるのに十分であることを期待しています。しかし、これからの日本では社会の高齢化によって財政支出への圧力が高まることになりますから、今後の景気対策として財政出動に依存していく余地には限りがあります。だからこそ、いかなる財政措置であれ、その効率性を重視することが非常に大切なのです。景気がさらに悪化すれば、更なる財政出動しか方策はないでしょう。いずれにしても、財政赤字の急増を永続化させないために、こうした赤字支出が必要とされる期間を最大限短縮化することが重要です。

この点で第一の障害となるのは、銀行を取り巻く状況です。残念ながら、現在の困難を脱する容易な方法はありません。不況を終わらせるには、この問題の解決が必要条件であると、日本で広く認識されていると私は理解しています。したがって、破綻した金融機関に対処するためのより透明なシステムを設置することについて、国会で最近合意が達されたことを歓迎します。しかし、金融業界のオーバーキャパシティーを考慮すれば、どのような解決策であっても、借り手や雇用労働者にとって困難な調整は避けられないものであり、短期的には、長引く貸し渋り、倒産の増加、失業のさらなる増加、雇用不安の増大などがおこり、経済活動は押し下げられるかもしれません。これに対処するためにも、金融機関の審査およびその結果発表のスケジュールと、不良債権の処分と政府による株式購入を通じた資本注入のスケジュールを設定・公表する必要があります。これによって、消費者や投資家は将来の金融情勢につきもっと安心できる展望を持つことができるようになり、また、生き残った金融機関は不良債権のくびきから解き放たれて、本来の信用創造活動を再開できるようになるのです。

また同時に必要なのは、経済に自律的拡大を持続する力を付けさせることです。この鍵となるのが、構造改革です。私は、時代遅れの多くの規制を撤廃することで日本にもっとビジネスの原動力が出てくると思います。これは、小売り業界における規制改革や情報通信業界での部分的な規制改革、そして最近では、航空業界の定期便への新規参入などによって引き起こされた業界の成長・活性化を見て感じたことです。しかし、意思決定やその実行は、きわめて迅速に進める必要があります。OECDでは、多くの部門において規制改革の詳細な調査を現在行っています。この作業が、日本の改革の速度を上げるのに役立つよう希望しています。

改革が急がれるもう一つの分野は社会保障、特に年金です。私は、日本における貯蓄の主な動機は老後に備えるためだと理解しています。年金制度は、まず、定年退職後の所得についての不安を減ずるものでなくてはなりません。さらに、今後増加すると思われる失業や転職を視野に入れ、失業保険制度を緊急に見直す必要があります。OECDではこれらの分野でも、専門知識を集積しており、参考にして頂けるかと思います。

日本の会社制度にはオーバーホールが必要だと広く認識されているようです。年功序列制、銀行融資の役割、系列関係にはすでに変化がおこっていることは私も承知しています。しかし、この会社制度で最も変化が必要であるのは、会社監査における部外監査役の役割を強化し、世界の他の諸国と同様に、投資資金が効率的に使われることを確保することです。世界規模の企業の中には、すでに役員数を大幅に減らし、社外の役員を増やしたところもあり、これにならう日本企業がこれから増えてくることでしょう。私はこうした動きが企業の業績の改善につながると考えています。

より根本的には、日本の社会全体が、創造すること、そしてリスクを受入れることは価値あることであると認識することです。これによって、日本の将来は明るいものとなるでしょう。この点で私は、新会社設立が減少傾向にあり、低水準にあることを懸念しています。私は、ベンチャーキャピタルの供給改善についての一連の対策や、所得税の最高税率の引き下げが、この減少傾向を反転させるよう望みます。また、R&Dや教育部門での改革の動きを歓迎します。

日本についての議論を締めくくるにあたり、私が申し上げたいのは、現在の困難な調整局面が終われば、その後数年間日本は力強い経済成長を期待できることとなるだろう、ということです。構造改革を成功させるか否かは、日本の指導者が国民に対し将来の見通しを明確に示せるかにかかっています。そしてその将来は明らかに、政府と官僚の役割が縮小し、個人の創造性、責任、リスクをとることがより重視される社会となるでしょう。


2. アジア経済危機における先進諸国の役割

現在、アジアや新興市場経済諸国で起こっている金融危機は、今日の日本が苦しんでいる問題よりもさらに広範で深刻な構造的問題を露呈しました。言うまでもなく、これらの諸国の経済が回復するか否かは、必要な政策改革を自助努力で成功させられるかどうかにかかっています。OECDもこれらの国に対して支援を行いますが、OECD諸国が貢献できる最も重要なことはおそらく、OECD域内で健全な経済成長を維持し、インフレを低く押さえることでしょう。OECDがマクロ経済的に良好な状況を維持することによって、長期的には信用を下支えし、不確実性を低下させ、それによって金融市場を安定させます。危機に瀕している経済が回復するためには、輸出の増加が不可欠であり、これらの諸国からの輸出を吸収するには、OECD諸国の健全な経済成長が必要なのです。保護主義は、事態を悪化させるだけです。

OECD諸国からアジア諸国に対する直接投資の流れも重要です。投資には、技術や他のノウハウの移転も伴います。これらがまとまって、進行経済諸国における構造改革を促すのです。ですから、投資環境の改善も重要です。

危機発生前から認識されていた問題点、すなわち、新興諸国各国における金融の安定を持続させることと国際的にセイフティネットを強化すること、に対処するために、国際的協力を強めることは極めて重要です。債権分類基準、融資基準、資本比率、国際機関の資本力・支援技術など、多くの解決すべき問題があります。しかし、私は、この金融危機を克服し、長期的な国際金融制度を強化することは可能だと信じています。

<(講演後の質疑応答において、短期資本の激しい動きにどう対処するべきかとの質問に対し) 従来からTobin Tax(資本取引に0.5%以下の税を課すというアイディア)や、一定額のDepositを義務付けるとのアイディアが議論されてきている。しかし、それぞれ難しい問題をはらむものである。現在G22(実質的にはG26)において何らかの規制を行うことの是非につき議論が行われており、その結論を待ちたい。>


3.欧州におけるユーロ導入の影響
(略)


4.OECDの役割と展望

さて、OECDの役割についてお話ししましょう。上に述べた今日の金融危機や課題を見ると、国際レベルでの協力や調整の必要性は明らかです。経済のグローバル化や世界経済におけるOECD非加盟国の重要性の高まりによってもたらされた様々な変化を見れば、OECDの政策の成功や失敗を通して獲得した膨大な知識を、数多くの分野でより大きなニーズがある国々に提供するメカニズムが必要であることが分かります。経済成長、社会的安定、有効なガヴァナンスの三者をバランスさせる政策や制度を諸国が共に作りあげることによってこそ、我々が課題を克服し、貿易・投資の自由化、技術革新、持続可能な成長からの利益を得ることが可能になるのです。

OECDは、その活動を通して、財・サービス・資本の流れの更なる自由化、市場経済政策、より開放された世界経済に適応するための社会政策プログラムなどの目標を長い間支持してきました。しかし、OECDは、各国政府が健全な経済・社会政策を確立するのを支援するだけでなく、これらの政策を維持するのに必要な制度面や規制面のインフラストラクチャーの構築を支援するという重要な活動を行っています。OECDはまた、ロシアやアジア、他の非加盟国政府が強固な政策・制度を構築することを支援し、世界経済への統合の推進を図っています。

正しい政策・制度は重要です。しかし正しい選択を行うには強い政治的リーダーシップが要求されます。グローバル化する世界への適応過程は常に容易というわけではありませんが、より安全で繁栄した将来への道は、地球の全住人の生活水準が向上し、生活の質が改善するよう世界との結びつきを強化し、他の諸国と協力することによって開かれるのです。政府の指導者やオピニオンリーダーはこのことを国民に思い起こさせる必要があるのです。


訳者注:
OECDは、「環境的に持続可能な経済成長を達成する一方、社会的結束・紐帯を強化して社会的経済的弱者への支援を確保することが必要であり、この両者を達成するためには、民主的かつ効率的な良いガバナンス(統治・政治)が不可欠である。」との三つのパラダイムに関する見解を堅持してきています。

 

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