OECD プリント

OECD対日経済審査報告書1999年版 発表

 

1999/12/8

 OECD対日経済審査報告書1999年版が、12月8日発表されました。

 以下は、OECD対日経済審査報告書1999年版の「評価と提言」の非公式仮約です。OECDの経済開発検討委員会が、この報告書の審査を実施しました。審査対象国及びECを含む29の加盟国が、この委員会に参加しています。本報告書の出発点は、OECDの経済局が用意した草稿ですが、次いで、委員会の審議に基づいて、修正されています。

(注)[見出し]は読者の便宜上付されています。

[はじめに]

 全体の評価は、前回の審査において出された悲観的な判断よりも良好なものであることは確かです。日本経済は多分、過去四半世紀の最悪の不況の角を曲がったのです。銀行システムは資本構成が強化され、現在再編成中であり、金融の監督が改善されて、金融市場は近年になく活性があります。消費者とビジネスは、元気を取り戻しています。回復は尚脆弱なものであるにもかかわらず、生産の増加については今年も予想の対象期間中も共に、潜在成長率前後になりそうです。財政刺激策は、ですから、民需主導の経済成長が確実になるまでは、止めるべきではありません。また、ゼロ金利政策についても、デフレ懸念が払拭されるまで、十分な流動性を供給するため継続すべきです。しかし、一旦経済が明確な回復軌道に乗れば、できる限り早期に、必要な財政再建を模索するべきです。資源の配分において、政府よりもむしろ市場の役割を支えることによって、まちがいなく国の将来のためになる主要な構造改革の決定及び他の決定事項の実施においても、進歩が見られました。この過程を後退させるべきではありません。次の10年間において国の経済を再び活性化する能力は、それにかかっているのですから。


[回復は堅調か]

 現在、日本経済の最近の下降が止み、わずかで脆弱ながらも回復が始まっているようです。本調査では、この改善の証拠を検討し、また、まだ明らかなリスクと不確定要因及び回復をより確実なものにするための短期的な政策の必要事項を検討します。回復は、金融面の政策手段及び大がかりな財政刺激策によって、促進されました。しかし、公共部門の巨額の負債の蓄積のために、中期に渡る大幅な財政の再建が必要であり、支出の削減と歳入増の両方が必要になってきます。後者を最も効果的に達成するには、税制の大幅なオーバーホール(分解検査)が必要です。もっと一般的な言い方をしますと、当局は、中期的に経済を回復させるために、広範囲に渡る構造改革を進めるべきです。

 経済状況の転回は、1999年晩春までは、一般に気づかれないままに進行していたにしても、1997年と1998年の下降の最悪の事態は、1998年の終わりには、明らかに脱しました。実際これは、外的、金融、財政による早期のマイナスのショックが組み合わさった結果、1998年中停滞に陥っていた経済にとって、歓迎すべき変化でした。ピーク時の7四半期前から約51/4パーセントにものぼる年末時の生産の累積減少は、1970年代以来最も深刻でした。産業界は、減少する売上に対応して、キャッシュ・フローを維持するために、支出を削減しようとしました。以前ほどまれではなくなった解雇以外にも、これにより、残業が減り、賃金が下がり、ボーナスが減り、これらのすべてによって可処分所得と家計の支出が減少しました。不本意に解雇される労働者の増加と失業率の容赦のない上昇により、仕事についての不安が増大し、失業率は、戦後史のなかで初めて米国のそれを上回りました。これにより、家計の支出の弱さが増幅され、また、ますます深刻になっていく財政の状況という視点から、ヘルス・ケアの費用、年金の価値、及び税負担が将来どうなるかということを巡る不安もまた、それを増幅しました。海外部門でさえも、国内経済の下降の緩衝の役割は、ほとんど果たしませんでした。貿易相手国全体の輸入が少し増えているにもかかわらず、輸出が減ってしまったのです。

 現在までの1999年通年の指標によると、その持続可能性にはある程度の疑問が残るものの、景気はごくわずかながら上向いています。しかし、経済指標が回復の早期に矛盾する動きを見せるのは良く見られることです。特に労働市場の指標については、まだ赤ランプが付いています。失業率は5パーセント近くにまで上昇し、しばらくはその辺にとどまりそうですが、失業率の動きは、常にビジネスサイクルにおいて、生産よりも後れるものです。景気の上昇が早期の政策緩和に負うところが大きいということは、疑う余地がありません。過去1年半に渡る膨大な予算による刺激策及び、ゼロ金利政策という世界初の企て、加えて、銀行システムの効果的な安定化(少なくとも現在までは)と多額の新規公的融資と信用保証の組み合わせが、遂に、消費者と投資家の両方に、最悪の事態は避けられて、景気の転換が手中にあると確信させるに十分な策であったことが判明しました。自信が戻り、金融市場にはずみがつき、家計支出が直ちに回復しました。一旦その結果としての売上増が過剰在庫の最後の痕跡をきれいになくせば、穏やかな産業生産の成長が夏から始まることは明らかでした。

 穏やかな成長は、1999年後半にも続いていいるようです。家計においては、貯蓄率が下がって支出が増え続けているようです。経済運営が、短期的にも長期的にも、慎重に行なわれていると確信しているからです。ビジネスにおいては、今年は投資を切り詰めるという早期のプランを放棄してはいないものの、切り詰めの規模は確かに縮小されており、政治、金融、及び経済の各分野において見られる新しい楽観的なムードを反映しています。住宅建設は、今年は、今までのところ、着工が活発に行なわれていることを受けて強含みに推移するでしょう。日本のアジアの近隣国において進行中と思われる景気の力強い回復、ヨーロッパにおける上昇の兆候、及び米国の引き続き強い輸入需要ゆえに、円高にもかかわらず、輸出も幾分上向くことができるでしょう。

 全体として、1999年は暦年でも年度でもGDP(国内総生産)の実質成長率は、およそ11/2パーセントとなりましょう。これはたいした数字ではないかもしれませんが、以前の予測と比較してみるべきです。たとえば、昨年の本調査では、1999年の成長はかろうじてプラスでしたし、今年の春に出された予想は、ほとんど全部、マイナスだったのです。


[経済の概況は?]

 縮小と拡大の要因の強さを吟味するのは、並はずれて困難であるために、2000年以降の経済の動向をつかむのは、さらに難しいことです。縮小に主要な影響があるのは、会社のリストラです。そのような手段を取る必要があるのは、目新しくはありません。それは、1980年代の資産価格のバブルの遺物の一つなのです。しかし、持続不可能な人員、固定資産、及び財務の不均衡と遂に対決することとなったのは、ごく最近のことです。会社は、それを深刻に受け止め始めています。会社は労働力を削減していますが、その規模は過去の同程度に厳しい不況時以上のものではなく、解雇が再び増加しているとはいうものの、大体同じ手段(主に出勤日を減らす)を用いています。にもかかわらず、もし一般に言われている過剰雇用の規模の推定値(225万人の労働者又はは雇用の31/2パーセント以上)が信頼できるものならば、総労働報酬への減少圧力は、以前の回復期よりも強くなり、雇用の増加を遅らせ、一人当たりの実質報酬の増加を抑制します。同様に、製造業における稼働率の低下、趨勢成長率が年率1パーセントよりは4パーセントの経済にふさわしい投資のGDPシェア、資本生産性の並はずれて急速な低下は、広範囲かつ多様なセクターにおける過剰資本の存在を示しています。過剰資本についても推定値が気になりますが、景気の影響を取り除いても、40〜60兆円(概算で、資本ストックの3〜5パーセント)の範囲に集中しています。

 この不必要な資本の大半が外部資金から調達されたので、会社セクターの貸借対照表に過剰な債務があり、収益が株主に適正に配当を与えるには不適切なものであるのは、驚くべきことではありません。既に数十年に渡って、負債比率は低下しているのですが、特に非製造業の会社では、長期の売上高成長の低下を相殺するには不十分でした。企業が人事、営業、管理の費用を売上高に比べて絶え間なく増やしたために、収益性が極端に低いレベルまで低下しました。多くの場合、その結果倒産が起こっていますが、不況によりその頻度が増え、平均規模が大きくなっています。生き残っている会社は、戦後のどの時期よりも荒っぽく投資を切り詰め、合併、工場閉鎖、及び資産売却を通じてビジネスの合理化を図り、今後の資産と株の収益を欧米の標準まで増やすことを約束することによって、金融市場からのプレッシャーに対応し始めています。これらの収益の目標額を達成するためには、景気回復で期待される分をはるかに上回る売上の増加と差益の増加の組み合わせが必要になってきます。連結会計や連結課税、及び企業分割に適用される規則の緩和への動きが期待されていることもあり、マネージャーが収益性に集中するような企業統治と年金管理の変化を進めることによりこの目標の達成は容易となるでしょう。倒産に関する改革もまた、現在使用されている資源の再活用の一助となるでしょう。マクロ的には、所得と生産における労働のシェアは、景気変動による変化に加えて、3パーセント前後低下しなければならないでしょう。それはチャレンジングなことではありますが、調整段階が少なくとも3〜5年はかかりそうなので、政策環境が十分にサポートしてくれるものであると仮定すれば、この調整は回復を止めてしまうと恐れるほどのことはないでしょう。


[拡大要因は何か]

 幸運にも、幾つかの拡大要因を挙げることが出来ます。まず、リストラのほとんどが、総労働力の20パーセント以下を雇用している既存の大企業によって行なわれるということを認識するべきです。伝統的な大企業が労働者を放出するという類似のプロセスが米国でも20年近く行われてきておりますが、それは、最初の段階では成長をスローダウンさせたものの、経済の成長を妨げてきたということはありません。将来における経済拡大は、ダイナミックなセクターにおいて新しい会社を生み出し、既存の小企業を成長させる能力に基礎を置くものでなければなりません。そのために必要な条件の多くは、前回の審査で詳細に論じたように、次第に整いつつあります。加えて、政府は、企業のリストラを容易にし、テクノロジーの革新を促進し、民間セクターがもっとビジネスのベンチャーリスクを取ることを奨励するような数多くの変化を導入しました。たとえば、合併、吸収、被雇用者のバイアウト(買い取り)を容易にすること、政府がスポンサーになっている民間の研究者に知的所有権を与えること、起業やベンチャーの会社に対してローンと債務保証を提供することなどが挙げられます。これらは、規制改革の促進なしに小企業セクターをジャンプスタートさせるには不十分だとしても、経済活動を刺激するには役に立つはずです。次に、深刻で長い不況の後には、家計部門の健全な財務状況とあいまって、消費支出をしばらく持続させることのできる程度の抑圧された需要の多大な蓄積があるでしょう。第三に、外国市場の状況が過去2、3年よりも順調になることが見込まれます。10年ぶりに、世界のすべての主要地域で、潜在成長力、あるいは、それ以上の成長が始まりそうなのです。

 現在の財政政策と金融政策のスタンスが予測の今後約1年間ほぼ変わらないと仮定すれば、経済は、リストラの結果生じた調整の負担に耐えることができ、不況に逆戻りすることはないと判断されます。しかし、今回の回復がその力強さにおいて1994〜96年の回復に匹敵しないであろうことは、まず疑いの余地はありません。あの時点では、問題のほとんどは成長することにより脱却できると幅広く信じられていたので、調整は先送りされました。来年の予測環境においては、実質GDPの穏やかな増加が期待できるにすぎません。今年の11/2パーセントという数字に似たものになる可能性がかなり高いでしょう。しかし、たとえば、リストラの加速や、過剰な円高や新たな金融不安などの結果生じる家計や企業の自信の再喪失によって上記数字を下回る結果になるという重大なリスクが存在します。この当然の結果として、更なるビジネス投資計画の大幅なカットや所得創出のプロセスにおける危険な後戻りを生み出す可能性があります。しかし、広範囲の可能性のうちの中間シナリオは、可処分所得の大幅な増加はないにもかかわらず、個人消費と住宅投資が最近の幾つかの四半期に築かれた勢いを一部維持したまま、家計の支出に主導されて成長が続くというものです。輸出増加のリバウンドもまた需要の維持の一助となるかもしれず、製造業における意図的な在庫の積み増しもしかりです。来年には、金融緩和政策が持続し、金融機関のバランスシートが改善を続ける限りは、特に伝統的セクターの大企業により、多様な形での大きなリスク・テイキング(リスクを取ること)が行なわれる可能性があり、資本形成の早期のリバウンドが可能になるでしょう。これにより、ダイナミックなセクターを始め全体的に、企業投資が増加する可能性があります。公共投資の予想される削減は、特に2001年においては、限られた抑制効果以上のものがあるとは思えません。このようなシナリオにおいては、経済全体の生産能力と生産のギャップは、失業率が(進行中の解雇のために)高レベルで安定するとしても、わずかながら縮まるでしょう。従って、穏やかな物価の低下圧力が持続し、労働の分配率は、1999年の大幅な減少の後、更に僅かに減少するでしょう。1999年度第2次補正予算が組まれると仮定して、一般政府赤字は、2000年には景気の影響の調整後も安定したものとなり、2001年には多少減るものの、どの基準をもって比較しても、多額のまま残ると思われます。最後に、明年の貿易における石油関連の悪化にもかかわらず、経常収支黒字は、(為替レートが変わらないという仮定の下で)主にアジア市場への輸出の急速な増加のために、再びGDP比3パーセントを少し上回るところまでじりじりと増加すると予想されます。


[金融政策と銀行セクターはどうか]

 そのようなシナリオにおいても、現在の金融政策の設定は、ほぼ適切と思われます。金融当局が直面してきた懸念事項は、予想対象期間中わずかに軽減することになるでしょう。物価は依然じりじりと下がり、円は、投資家の信頼の回復と持続的な資本流入によって、しっかりと支えられるかもしれません。長期金利の上昇は、ゼロ金利政策が将来必要なくなるという期待を反映しています。また、結果として生じる利回り曲線の急上昇は、全体的に、通常の景気回復期に見られるものとなるでしょう。しかし、いわゆる「流動性のワナ」と見られる状況下で十分な刺激策が取られているかどうかの論争はありましたが、日本銀行は、その金融緩和策を十分に金融市場に浸透させることを確保するために、一層の努力を傾注するに至っています。融資はわずかに縮小し続けているものの、金融市場はほぼ安定を取り戻し、それは株価や円の再上昇や、日本の銀行へのローンに対する悪名高い「ジャパン・プレミアム」が消えていることに、反映されています。残る主要な問題点は、現在の極端な政策をいつ止めるかということと、明示的なインフレのターゲットを定めることで何かが得られるかどうかということです。前者は、財政政策と銀行システムがどのようになるかということに依存します。しかし、回復が進行して信用メカニズムが次第に正常に戻ってきたあかつきには(中間シナリオでは、来年には)、日銀が翌日物は除いて、これ以上がんばってゼロ金利にしておかないようにすることが最善かもしれません。一旦ゼロ金利の抑制が解かれれば、インフレ−ション・ターゲッティングの採用により、日銀の外部とのコミュニケーションが増え、物価安定に寄与する可能性はありますが、少なくとも当分の間は無理でしょう。

 金融政策は、経済活動をサポートするに当たって、公的金融機関の低金利による融資の増加や、信用保証システムの拡張によって、大いに助けられました。正常な状況下では、これらの措置はどちらも必要ありませんが、深刻な不況の最中に銀行システムが機能障害に陥ったという事情があったので、正当化されました。しかし、民間セクターのリスクは、長期的なモラル・ハザードを避けるという意味から、異常な環境下でのみ、公共セクターによって引き受けられるべきです。従って、これらの措置は、銀行システムの自己資本が充実し、適切な監督システムが導入されて、一旦民間の金融機関が力を取り戻せば、公共セクターの融資のシェアを永続的に増大させないために、また、金融システムにおける公共セクターの役割を一層拡大しないためにも、次第に縮小されることが最も望ましいでしょう。

 昨年は、進展する金融危機へ政府が対処するに当たって、一つの分岐点となりました。二つの大銀行が効率よく国有化され、他のほとんどの銀行が、不良債権問題を解決するために、更なる多額の公的資金の注入を受けました。監督権限が新しい庁に移転され、同庁は直ちに信頼を獲得して、基準の判定も厳重になりました。日本の納税者には高い授業料になったものの、もはや「粉飾決算」や詐欺的行為によって、罰せられることなく金融上の損失を隠すことはできなくなるでしょう。倒産した長期信用銀行二行だけで6兆円超(550億ドル)の債務超過があり、閉鎖の時点まで一般に知られていた額をはるかに超えるものでした。総計では、政府の最終コストは、1998年の法律で正式に認められた7兆円を多分越えるでしょう。その結果、政府は、銀行のバランスシートを浄化する仕事を終えるために、追加資金の認可を国会に求めるものと思われます。しかし、支払能力のある大銀行への資本注入を行なう中で、グローバルな規模の事業展開の為の足堅めをするために確実に必要な経営改善への注文をつける機会を逃がしてしまったように思われました。海外事業の縮小、取締役数と営業費の削減は改善計画に盛り込まれたものの、管理職の成功報酬の導入や、合併による生産能力の削減については強く主張されませんでした。幸運にも、現在重要な再編成が進んでいるようですが、これにより新しい大銀行が、これまで不足し過ぎていた情報テクノロジーに多額の投資を行なうことができるはずです。しかし、営業費は既に低レベルにあるので、削減してもあまり役に立たないでしょう。むしろ、たとえば、大規模ローンの証券化を通じて、既存の資産から多くの収益が生み出せない限りは、信用リスクの査定により適正な貸出し金利が設定されない限りは(まだ改善の兆しはありませんが)、銀行は目標収益を達成できず、政府の関与が無制限に続くことになるでしょう。更に、政府が遂に銀行セクターの問題の幾つかに決着をつけることになったと思われる一方で、生命保険会社の中に倒産の可能性のあるところがあり、現在監督上の関心が高まっています。実際の金利と保険会社が契約者に約束した金利の差額(「逆ざや」)のために、財務状態が悪化しているのです。要するに、金融セクターは安定しましたが、新たに生まれ変わるまでの道のりはまだ長いということなのです。


[財政政策は?]

 いっそう論議をかもしている問題は、どのような財政政策を設定すべきかということです。政府は、経済が1997年に起きたことの繰り返しで再び立ち往生しないことが確実になる状態まで、拡張的政策のアクセルを踏み続けて行く意向と思われます。現在の状況は、当時のものではないとは言え、現時点の回復はまだ薄っぺらなもので、正と負の力の間の微妙なバランスで支えられています。今、財政再建のプログラムを実行することは、そのバランスを悪い方に傾けてしまうかもしれないのです。事実、当局が個人消費の再度の低迷に対処するために利用可能な政策ツールに限りがあり、かつ、相変わらずデフレに対する危険があるため、十分な公的需要による追加保証を求めることになるのです。従って、慎重に立案された補正予算は、回復を持続することが最優先課題であることを示すために正当化されるのです。その際、ばらつきの大きい公共支出の質に慎重な注意が払われるべきで、そして、最大の利益が得られる可能性の高い領域に重点が置かれるべきです。

 しかし、長期的配慮を無視することはできません。すでに去年の審査で経済開発検討委員会が警告したように、国家財政の悪化のために、反循環的な財政政策は最早利用できない状況からそれ程遠くないところに来ており、2005年度に中央及び地方自治体の財政赤字がGDPの3パーセントになるよう目指すことすら、充分に野心的ではないのです。その時以来、国家予算のまさに38パーセントを国債で調達しなければならなかったのです。地方財政は、自治体が連帯責任を持っているものの、驚くほどほとんど情報のない悪名高い「第三セクター」の会社を考慮に入れなくても、更に悪化しているのです。そして政府関係機関の財務状況の不透明性にもかかわらず、その債務は最近GDPの約3分の2に達するまで悪化しています。すべての(公的金融機関を除き)公的セクターの債務は、年金、銀行救済と信用保証に関わる偶発債務を除いてすら、1998年3月末にはGDPの129パーセントに達しました。狭い定義での一般政府部門の債務(グロス)は、明年末でGDPの114パーセント(ネットベースでは45パーセント)に達する見込みになっています。そして、日本は2001年までにOECD諸国の中で最も高い債務のGDP比率を持つ国になると見込まれています。相当な額の政府所有の資産がありますが、それらの価値を正確に算定することは困難ですし、純債務の動向も同様に懸念されるべき状況です。

 この状況を少なくとも10年のうちに持続可能なもの(債務のGDP比の安定化によって決められる)にするためには、、最近発表された年金改革を織り込んで考えたとしても、大規模な財政赤字の削減を必要とするでしょう。前の審査で強調されたように、それは可能な限り多くの歳出カットにより行われるべきでしょう。無駄の多い公共投資を合理化することでかなりの節約ができるように思われます。しかし、医療支出の増加率を下げることや、官庁の規模を縮小することも、考慮されなければならない他の手段です。それに加えて、社会保障の拠出額増加を見込んでも、それでもまだ、その他の収入増加によって賄わなければならない部分が、恐らく非常に大きく残るでしょう。税収のGDP比率を必要に応じて増やすことを可能にする為には、税制の大幅な改革を必要とするでしょう。経済への歪みを大きくすることなく、あるいは所得分配の目的を著しく危うくすることを避けながら、同時に十分な税収の増加をはかるということは確かに政策当局にとっては大いなる挑戦であるでしょう。


[税制に問題は無いか?]

 全般的に見て、今日まで税制は全体的にうまく合理的に働いてきたように思われます。経済主体の大多数の人たちにとって、限界所得税率及び課税ベースの弾性値が共に低いことから見ると、全体的な歪みは、他の殆どのOECD諸国のそれと比較して、恐らくあまり高くないと思われます。

 特に、人的資本形成を含めての潜在労働力及びマクロレベルでの貯蓄と投資決定のいずれも、課税によって著しく妨げられてはいないように思われます。こうした特徴は、最近、労働所得の最高限界税率が65から50パーセントまで(地方税を含めて)下げられたことによってさらに強くなり、その結果、大まかに言って、日本も他の主要国と同列に並ぶことになったのです。非課税となる所得レベルの下限はOECD で最も高い国の一つであり、そして一定の税率の対象となる所得の幅も広いので、すべての個人所得者のおよそ95パーセントが、税金と社会保障負担で所得の20パーセント以下しか支払っていません。従って、労働に対する実効税率は米国と英国に相当するレベルにあり、OECDの中では一番下に位置しています。以前にかなり高かった企業の実効税率も、最近9パーセント減少して、今は、他の多くのOECD諸国のそれらとほぼ同じレベルか、あるいはほんのわずか上に位置しています。同様に、損失準備金の繰り延べや計画されている連結課税導入などの改善によって、企業のリストラの助けとなるでしょう。付加価値税(VAT)を採用しているOECD諸国の間で、日本は最も低い標準税率を、しかも非常に広い範囲の商品及びサービスに適用しています。また、VATは税収を上げることにおいて、そして異なった租税ベース間のバランスをとることに貢献することにおいて、有効であったという意味で成功でした。

 しかし、日本の税制に問題がないという訳ではありません。その改善の必要性は、将来においてGDPとの関係で十分に税収を上げなければならない必要性に応じて、増加するでしょう。課税ベースは一部で狭く、重要な非中立性が他の部分で存在します。個人所得税制で与えられる税額控除はベースを狭めるので、結局収税力を弱め、垂直的にも、水平的にも不公正を増し、そして一部のグループ、特に扶養配偶者の労働市場への参加誘因をゆがめています。ベースを広くする可能性は、さらに多くの制約があるものの、ボーナスが部分的にしか含まれない社会保険料、そして、小規模小売業者のための免税限度がOECDの他の諸国と比べてずっと高いレベルにあるVATシステム、に存在します。企業の資金調達誘因にも非中立性があり、 留保利益と新しい株式に比して、債務への節税が他の国よりむしろ大きくなっています。また、土地と不動産の課税についても非中立性があります。相続税は、農業用地をはじめとする土地の市場価格をゆがめ、主に小数の都市農民の利益になっています。資本利得税や取引税と同様に不動産保有税も、非能率な土地利用の一因になっています。個人貯蓄に対する税金の扱いは、特に年金預金の場合、日本の世代構成がアンバランスである事を考えると、他の主要国と比較して、やや不合理であるように思われます。税管理面では、日本はOECD諸国の中で、納税者識別番号システムを採用していない数少ない国のひとつとして際立っています。

 日本の租税制度の分析から得られる重要な結論は、近年の傾向を逆戻りさせることですが、必要とされる収入増のかなりの部分が個人所得の課税ベースを広げる事から得られる、と言うことです。正確な見積もりは容易に入手できませんが、控除等の減免税措置による歳入欠陥がGDPのおよそ10パーセントになりうると想定することは、非現実的な話ではありません。従って、これらの措置の半分を取り除くことのみでも、際立って財政ギャップを埋めることに貢献するでしょう。控除等により若干の経済的、社会的に正当な政策目標を達成することができますが、対象を定めた所得移転によって、これらの政策目標をいっそう効率的に達成することができます。他方、税率を引き上げることによって税収を増やすと言う代替手段は、歪みが極端に上昇する傾向がある為、経済に大きな害を及ぼすでしょう。もうひとつの重要な提言は、VAT率の増加及び、より重要性は低いものの、課税ベースの拡大によって、いっそう完全に消費課税の可能性を利用することです。この税は、貯蓄と投資の決定に関して、水平的公平性と中立性についての、いくつかの魅力的な特徴を持っています。消費税の増税と個人所得税減免措置の削減の両方が、人口高齢化の負担と現存の国債の返済負担を、世代を通してより平等にするでしょう。有意義な税制改革の実行を成功させるためには、広い範囲の手段を同時に適用し、より高い税負担は広く分け合うようにして、不公平感が最小になるようにすることを必要とします。十分に広範囲な情報システムの導入は、納税者識別番号を含めて、個人所得情報の正確性を改善することができます。それによって税と所得移転システムの効率と有効性を上げて実施することが出来るのです。また、特に賃金労働者と自営業者の間に見られる広範な不公平感の軽減にも貢献できるでしょう。しかしながら、ますますグローバル化する環境下では、透明性や実施面での改善があっても、ある程度の水平的不公正さが資本と労働所得の間に持続する可能性が高いのです。というのも、移動性の高い資源に他国より高く課税することには限界があるからです。


[改革のアジェンダはどうか]

 公共部門を改革する努力を重ねることで、税収を増やす必要を減らすことができるでしょう。透明性を高めることの必要性については認識されており、このため情報公開法が成立し、規制の変更に関するパブリック・コメント制度が導入されることとなりました。これは、政策や活動に関する内部の査定や評価が増えたのとあいまって、政府の経済運営の質を高めることに資するでしょう。すでに決定されている各省及びその他様々な機関の再編成も、公共部門の実際の経費節約につながれば、効率を高めることになるでしょう。さらに広い意味で、政府の改革は、たとえこれまでの進歩が限られ、かつ、経済における公的所有の割合が驚くべき高いレベルのまま続いてきたといっても、経済における中央政府の役割を低めて、市場と地方政府にもっと大きな役割をまかせたいという願望がその根拠になっています。民営化についても多少は行われていますが、明確な戦略は作成されておらず、そのために計画性に欠け、売却収入中心になっているように見うけられます。例えば、NTTを政府がいまだに所有していることを正当化する理由は見当たりません。PFI(private finance initiative: 社会資本整備の民間事業化)は、モラルハザードのリスクを少なくするために国会で修正された為に、質的に劣る公共工事計画を少なくしてゆくことに役立つでしょう。同様に、財政投融資の今後の改革は、競合する公共機関に、より市場志向の資金配分をさせることを狙っています。追加的な財政上の規律により、公共機関の支出の平均的な質を押し上げるはずです。さらに、EUにおいて先に信奉された「サブシディアリティ」の原則のように、地方分権が最適レベルでの意思決定につながることになれば、中央政府はより小さな役割を認めざるをえなくなるでしょう。いずれにせよ、中央・地方政府間関係の今のシステムはあまりにも父子主義的のように思われ、そのために地方政府の財政規律をゆるめる重要な誘因になっています。

 政府の社会保障政策も、主として国民の高齢化につれて維持が困難になっているため、見直しの対象になっています。公的年金制度を改革するための最近の法案は、長期的に保険数理上のバランスが取れるような合理的妥協の結果を示しています。2013年から退職年齢を徐々に引き上げ、給付金を若干カットし、賃金よりは物価にスライドさせることによって、この計画では、出費増の時期を遅らせ、これをしなければそれが迎えるはずの額から将来のピークの額をほどほどに減額できるようにしています。さらに、(GDPの約1/2パーセントの代償で)一般歳入からの資金を三分の一から二分の一に増額することが検討されています。しかし、意図した医療制度見直しの進行状況は失望させられるものになっています。明年4月に改革を実施するつもりでいたにもかかわらず、重要な決定はほとんどなされていません。不必要な診断上の検査や薬の過剰投与の証拠があるにもかかわらず、変更が望ましいことについて政府はまだ医師たちを説得できずにいます。他方、来春の介護保険の導入は、現在、重度の介護ベッドを占拠している高齢者を、より適切な施設へ動かすことにより費用節減につながります。

 企業年金も積立金不足の大きな問題をかかえており、ある推定では80兆円(約7,000億ドル、GDPの14パーセント)になるともいわれています。政府は、積立金不足を明年から報告しなければならないようにして、以後15年間でなくすようにしなければならないと決定しています。企業はその年金計画に持ち合い株式を出すことができるようになるでしょうが(コーポレート・ガバナンス上の問題となる可能性あり)、利潤への負担は依然として相当なものになるでしょう。政府が支持しているやに思われるもう一つの、非常に重要な提案は、米国の401(k)制度に沿った確定拠出型年金制度の導入です。税制上優遇される拠出金の年間上限額が現在討議されているように高く設定されれば(約4,000ドル)、財政上への負担は無視できないものになる可能性があります。但し、年金のポータビリティーを増し、そのため中堅キャリアの雇用市場を深くする点では利益が大きいでしょう。


[その他の構造改革はどうか]

 当局は、その他の構造改革も色々と計画し、実施もしようとしています。そのうちの重要なものをいくつか簡単に検討してみましょう。ほとんどが経済を活性化し、期待される中期的な成長率を押し上げることを狙っています。この成長率は、よく知られている人口構成の変化のために低下しています。一般の理解を得るには長い時間が必要なことを考えると、その相乗効果が遅滞なく発揮されはじめられるように、合意の得られた改革ができるだけ早く行われることが最善であることについては、疑いの余地はありません。しかし、いかなる場合も、いったん決定されたら、議論を蒸し返して改革を遅らせるようなことがあってはならないし、利害団体が拒否権を与えられるようなことがあってもいけません。今の状況では、経済建て直しのプロセスをさらに進めるためには、活力のある分野への新たな参入を約束し、労働者の収入不安を和らげ、資源配分をしやすくするような改革を優先させることが賢明でしょう。

 金融市場の自由化は、構造改革の取組みのバックボーンとなります。金融制度改革法の実施は予定通り進んでおり、変更の多くがこれから2001会計年度までの間に実施されることになっているとはいえ、すでに効果は容易に目につきます。変化は広範囲に及んでおり、これは大いに歓迎されます。未だ健全な基盤に立っていないようにみられる唯一の改革の側面は、顧客に対する保険です。証券業界では完全なリスクの受け皿の利点を得るために、二つの顧客保護基金は最終的には合併に応じなければならないでしょう。生命保険制度はほぼ確実に資金不足です。また、銀行預金保護の正常化のためのスケジュールは、全額保証が集中的な改革の期間中だけしか受けられないことが事前にしばしば通告されているにもかかわらず、攻撃にさらされています。このデリケートな領域で勧められる一つの一般的な戦略は、モラルハザードの問題を少なくするために、リスクを考慮したプレミアに向かうことです。

 規制改革も、政府が長いこと注目してきた領域です。というのも、最近の「日本の規制改革に関するOECD審査」で指摘されたように、経費や物価を世界レベルにまで下げたり、国内需要を刺激することも可能になるからです。最近の最も重要な進展は、事前に介入するよりは、事後的に監督する規制制度に向かおうとする戦略的決定でした。また、これが全面的にかつ一貫して実施されれば、非常に重要で有益な変化になるでしょう。もう一つ注目すべき動きは、公共料金の設定方法の修正でしょう。上限はあるものの、価格の柔軟性が導入され、情報開示の義務が導入されるでしょう。そのようなシステムは、すでに電気通信分野で発表されています(基本的な近距離サービスを除く)。電気通信業界では、最近のNTTの分割が持ち株会社を採用しているため、その競争効果はまだ不確実のままであるとはいえ、接続料の値下げ等、海外や新しい国内の企業が既存の企業に挑戦する能力を実質的に押し上げるいくつかの変化の結果としても、競争が増すでしょう。電力会社は数年来、独立発電業者による競争入札から恩恵を受けるようになってきて、これからは大口需要者は彼らへの供給先を選べるようにもなるでしょう。こうした変化が、OECD審査で提言された他の変化(例えば、送電網へのアクセスを開くなど)によって補充されたなら、価格を国際的に比肩しうるレベルまで下げるという政府の目的が実現可能になります。交通機関の様々な分野でも料金設定の自由が益々増えてきて、需供調整の規制も消滅しつつあります。全体的にみて、数年以内に日本の規制の状況は急激に変化するだろとうといっても差し支えないでしょう。

 政府は、失業率の上昇、失業期間の長期化、全体に占める非自発的な失業状態の割合増等、主として最近の労働市場が悪化していることを受けて、多数の対策を取ってきました。長期的な雇用調整助成プログラムがやや拡充されたものの、この計画は調整を助けるよりは、調整を妨げているとしばしば非難されてきました。過去1年間に、政府は、起業時の雇用、専門学校での就職関連教育訓練、地方政府の臨時の仕事、高齢労働者の雇用等を、特に失業率の高い地域や新分野、成長分野で助成してきました。これは、景気循環的問題に対処するのに資金を使う方法としては、単に失業給付金を余計に支払うよりは良いようにみられます。しかし、関係者、特に高齢者の多くは長期間仕事が見つからない為、結果は思うほど満足のゆくものではなくなるかもしれません。従って、年齢グループ別に給付の仕組み、期間、対象の変更をすべきかどうか判断できるように失業保険制度が見直されるべきだというのは、全く当を得ています。民間の就職斡旋事業の最近の自由化で、すべての労働者は恩恵にあずかることができそうですが、これと平行して臨時雇いの斡旋事業における職種にかかわる制限を緩和することが不必要に抑えられてはなりません。

 農業では、市場にずっと大きな影響力を持たせようとすることには、明らかに躊躇があります。最近採択された、食糧、農業及び農村に関する基本法は、その指導原則で競争には触れてはいませんが、食糧安全保障が第一であることや、農業の多角的機能と農村開発に言及しています。このアプローチの代価は、全般的に高くしかも近年低下の傾向はほとんど示していない生産者の助成レベルであり、納税者、そして特に消費者には金銭的に重い負担になっています。食糧自給のための明確な目標は、現在設定の作業が続いており、長期間続いた下降傾向を逆行させようとするものになりそうです。そのような政策は、かなり厳しい環境にもかかわらず、消費者が望む以上のものを生産することを必要とするでしょう。こうした政策は、より多くの介入により、日本の納税者にそのコストを負担させるか、または、生産効率を格段に大きくして、規模の経済を実現するために、必然的にかなりの農地統合整理を伴うようなものになるでしょう。新たな参入、合理化、他の用途への土地の転用を遅らせている様々な土地や税にかかわる政策がなかったなら、農業人口が高齢者に集中していることを考えると、後者の戦略の方が容易に採択できるでしょう。

 また、政府が市場メカニズムを環境保全の目的に利用しようとしているようには見受けられません。最も重要な政策努力は、京都議定書のもとでの国の義務に応じて、生活用式を変えることによって、エネルギー需要の増加を抑え、主に原子力と天然ガスへのエネルギー・ミックスの移行によって排出を抑えることが求められており、これらを通じて温室効果ガスの排出を1997年のレベルから13パーセント以上削減することなのです。自動車の排気ガス削減への戦略には、排出レベルに応じて自動車使用関連の様々な税を設定することも含めていいでしょう。しかし、ますます競争の激しくなる市場では、燃料の代替や節約に必要な誘因となるような炭素ベースの燃料税のシステムの採用なしに、日本の企業が道義に訴える説得や自発的な対策に充分に応じるかどうかは、不明です。家庭ゴミの処理を重量や袋の単位で有料にすることも、消費者に彼らの購買パターンの全ての費用を認識させるのにかなり効果があるでしょう。


[関連図書]

OECD Economic Surveys: Japan 1999 
(ISBN 92-64-16995-4) \3300 pp.304

Economic Outlook No.66, December 1999
(ISBN 92-64-16167-8) \5340 pp.280

 

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