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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.216


 OECD Observer 日本語版

現代バイオテクノロジーの擁護

DONALD J. JOHNSTON
SECRETARY-GENERAL OF THE OECD

 先進工業諸国では,今ほど食品が安全だったことも,平均寿命が長かったこともない。それでも,ついこの前は狂牛病をめぐる,そして最近では遺伝子組換え食品をめぐる騒ぎがいくつかの諸国でバイオテクノロジーを国民的な・政治的な論争の的に押し上げ,それに伴って規制をめぐる争いや,公然たる対決,貿易紛争などが生じている。世論は分裂し,どの議論にも一理あるように見え,その一方で混乱が深まっている。問題は,ありとあらゆる騒音のまっただ中で,「遺伝子工学」に関係するすべてのことがその明らかな利点にもかかわらずタブー視される危険にさらされていることである。

 「私は発明するのではない,発見するのだ!」というピカソの主張は,急激に発展するバイオテクノロジーの分野の今日の研究者にとってはことのほか真実に聞こえる。改めて考えてみれば,生きた細胞すべてにあるDNA連鎖は世界最古のデジタル・データテープである――それは1953年にクリックとワトソンが作りだしたわけではない。実際,バイオテクノロジーは,ずっと原初的な形だったにせよホモハビリスの時代から我々とともにあった。現在が違うのは,このデータテープが急速に,かつ低コストで解読されつつあることである。わが遺伝子工学の専門家の最初の試みにおいて,それらを編集し,接合することさえ行われている。要するに,現代のバイオテクノロジーによって世界は,創造的活動のための大きな可能性を秘めた,そして少なくとも学術界にとっては特許と利益の新機軸の可能性をはらんだ,広大な新しい領域を発見したのである。

 人間その他のゲノムを解読ないし配列する現在のプロジェクトと21世紀の知識ベース経済の到来とのあいだには密接な繋がりが存在する。新しい知識と技術は,農・食糧や医療,そして環境問題の解決のために根本的な重要性を有する。事実それは,持続可能な世界経済への移行のために不可欠である。この種の知識は,永久的で,普遍的で,撹乱的で,場合によっては反逆的でさえある。好むと好まざるとにかかわらず,それは不可逆的である。そして,インターネットのおかげで,この知識は全地球上で入手可能である。

 その応用範囲は新旧の分野で多方面に広がっている。より安全なワクチンやこれまでは不治だった病の治療法が拒絶されることはほとんどない。しかし,農業や食糧供給への応用の問題となると,一部の人々にとっては新しい知識は消化が困難である。この消化不良は,乗り気でない消費者に科学者や農民や食品加工業者の善意の意図を納得させるためのコミュニケーションの改善と透明性の向上によって癒すことができるかもしれない。消費者情報を通じた透明性の向上は,今日では普通の,全面的に尊重されるべき期待である。しかしそれは,現に実際的な問題を提起する。情報をいかに伝達するかの問題が一つである。もう一つは,どの情報が実際に「適切」で,何を義務化し,何を普通の商業的自己利益に委ねるのがベストかの問題である。

 特に食品の分野における組織の遺伝子的改変に反対する行動的なキャンペーンの結果として,一部諸国で消費者の関心が高まっている。科学が感情的な議論のまっただ中に捕らわれている。それゆえに,明確な政治的指導が必要である。問題は,短期的な政治的圧力が必ずしも常に政策を改善する方向に作用しないことである。それは場当たり的な行政的介入をもたらすことがある。それは,新しい技術に焦点を当てて烙印を押し,既存のシステムを重複させ,不必要な官僚制と不断の貿易紛争を引き起こす。どうすればこうしたことを回避できるのか。OECDに何かできることはあるのか。

 科学者たちがある種の実験の一時的延期を決めたカリフォルニア州アシロマーにおける1975年2月の会議以降,遺伝子工学の安全性について最初の激論が闘わされたが,それからすでに長い時間がたった。1980年代の安全性をめぐる国際的な論争ではOECDが中心的な議論の場となった。それは,OECD加盟諸国の科学的知識や政策的判断,深まる経験を一堂に集めた。この作業に対するOECD貢献は大きく,それは本号の「スポットライト」に要約されている。

 多数の農作物が現代のバイオテクノロジーによって改良が進められている。その特徴の評価にあたる規制当局者を助けるために,OECDでは専門家の一致した見解を論文にまとめて公刊する作業が進んでいる。現在,少なくとも先進工業諸国では,食品や医薬品,農薬,その他の新しい製品(一般により安全で,厳密に製造されている)の安全性を管理する確立されたシステムが存在する。バイオテクノロジーが約束する新しい知識と技術を,最も必要としているのはむしろ開発途上世界である。不必要な遅延は,数百万人の食糧安全保障に破滅的な影響を及ぼしかねない。

 環境面で何が問われているかについても幻想を抱くべきではない。綿花のような農作物は,アメリカだろうがインドだろうが大量の化学農薬を使う。これが環境中に滞留し,食物連鎖の中に蓄積される。現代バイオテクノロジーによって耐病性を組み込まれた農作物は,農薬の必要性を大幅に減少させる。現在のいわゆる「伝統的な」農業方式が環境を汚染していることは疑いようのない事実である。これに対して,バイオテクノロジーを利用した農業は環境汚染を減らすことができる。

 現代バイオテクノロジーの急速な発展は公共政策に対して多数の挑戦課題を突きつけている――教育,医療,研究,知的所有権(知識ベースの経済において非常に重要になっている)の面で。また,企業が新しい知識を管理し利用しようとする結果,産業の面でも。バイオテクノロジーの全地球的なインフラストラクチャー――データベースと,微生物,細胞系,種子,その他の基本的な生物学的資源の収集――を賄う資金の問題がある。誰が負担し,誰がその恩恵を受けるのか。プライバシーやデータ保護,所有権,公益性などの問題もある。問題は多数である。OECDは,各国の政策担当者が解答を見いだすのを助けることができる。知識の水車は粉をひくのをやめようとしない――やめさせたいと思う者がいるだろうか。

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