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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.216


 OECD Observer 日本語版

日本の改革の障害を取り除く

AKIRA KAWAMOTO
TRADE DIRECTORATE

 日本の改革は,この国の制度的機構の中に取り込まれれば,その効果を失いかねない。従って,そうならないように断固とした行動が必要である(1)

 日本経済の困難は今までに十分に明らかになっている。GDPは1998年に実質で約2.6%減少し,1999年も目立った改善は期待されない。失業率は日本の基準からすればおそるべき高水準にとどまっており,円は上昇傾向にあるにもかかわらず金融機関の苦難の物語は終わりそうにない。ジャパン・プロブレムのアジア市場に対する影響,そして世界に対するそのドミノ効果は深刻で,根底的な構造的問題の解決の必要性がかつてなく明らかになっている。少なくともこのことは日本の国民と政治指導者によっても認識されていて,すでに一部の改革が日程に上っている。事実,日本政府は日本における規制改革の広範な検討を行うようOECDに要請している。本論文の執筆時点でこの検討は進行中で,最終報告書が春の終わりには提出される予定である。

 日本の問題は極めて深刻である。日本経済の構造的問題の多くは組織構造の次元である。これは異例のことではない――ほかのOECD諸国は長年に亘って,成長を阻害する旧来の慣行の廃止という圧力にさらされてきた。しかし、日本の組織構造はことのほか硬直的で,その変更のためには不屈の努力が必要である。

 日本政府がその直面する諸課題を過小評価する何らかの危険性があるというわけではない。日本政府はすでに,1995年に制定された規制緩和行動計画の実行のために多大の資源を投じてきた。初期の試みは十分な成果を上げている。実際,それはほんの数年前ならほとんど考えられなかったほどである。例えば,政府は2つの大手金融機関を,介入して救済するかわりに破綻するに任せた。その規制緩和政策はガソリン価格の大幅な低下をもたらし,国内航空事業には35年ぶりにスカイマーク社の新規参入があった。政府から独立した機関である経済戦略会議は,最近,公共サービスを改善し,更には巨大な公共信託基金を廃止する大胆な勧告を発表した。

 こうした変化は,明らかに政府の信頼性を高めている。しかし,困難に陥った金融部門の問題を解決する最近の新しい試みにもかかわらず,前途に横たわる更に困難な改革を実施する政府の能力には疑問が残っている。

 日本における最近の政策的努力を実現させた主な原動力は,これまでは世界の貿易相手国からの圧力の高まりだった。これは一つには,貿易相手国が日本の国内の規制環境をみずからの貿易上の利害と直接関係すると考えたためである。しかしこうした圧力で実現できることには限界がある。日本は,主体的に行動して,みずから目標を定め,その実現のための最善の方法を決定しなければならない。変化を妨げる障害が明確化され,精力的に除去されなければならない。その実行過程で,改革アプローチの有効性がチェックされ,プログラム全体に新たな勢いをつけることが必要である。そうでなければ,持続的な回復という目標は達成されない。


詳細すぎる改革計画

 最初に検討されるべき問題は「規制緩和行動計画」そのものである。それは1995年に順調なスタートをきり,いくつかの重要な変化を実現するうえで中心的な役割を果たしている。実際,航空会社の新規参入を認める決定はこれによって可能になった。しかし,行政専門家の観点からしてさえ「行動計画」の規模の大きさと詳細さは過剰である。1998〜2000年の計画には現在のところ600項目もの改革案が含まれている。しかも,これまでの例からすればこの数字は今後さらに増える可能性がある。個々の詳細はそれ自体としては意味があるかもしれないが,その全体が経済をどこに導こうとするのかはほとんど伝わってこない。ほんの一例を上げればエネルギー部門の改革計画である。ここでは発電事業が公開入札に開放される。関心の高さにもかかわらず,その結果として電力価格が低下するのか,あるいはそのことが意図されているのか,いまもって確かでない。行動計画の全体にわたって同じような不透明性が存在する。結局,改革の結果としてもっと競争的で市場指向の日本が登場するのかどうかは不明である。

 この行動計画には,それを前進させ,それに全体像と一貫性を与える確固とした政治的意思が欠けている,という議論もありうる。その内容,その意味,その目的が問われなければならない。例えば,競争やあるいは労働市場に対する「計画」の全体的な影響は? 今後3年間続くことになっているこの「計画」は,ある意味で,隣合って働く個々の部品の専門家が,作っている自動車が本当に動くのかどうかを考えていない,そんな自動車工場に似ている。

 日本の改革は,競争力や透明性などの全体的な目標が明確化され,前面に押し出されれば,いっそう強固なものとなろう。金融サービスの分野では,無数の規制緩和措置,例えば外国為替に対する制限の廃止などが導入されている。しかし,新しい金融商品の認可手続きや関係規則の制定過程の不透明性が,いまだ適切に解決されていない重要な問題として残っている。行政当局の裁量権とその事前承認の必要性が新しい試みを妨げる第1の原因の一つとなっているだけに,これは憂慮すべき事態である。その結果,政府省庁が真の競争の促進に本当に取り組もうとしているのか,金融市場は確信がもてないでいる。つまるところ,企業文化に火をつけるという話は非常に結構であるが,企業は実際にそれに点火する競争を必要としている。

 運輸や通信などの様々な市場への新規参入の制限を意図した本質的に差別的な「需給調整」条項の廃止は広く歓迎されている。しかしここでも,市場競争が実現されるためには,事前に解決されなければならない問題が残っている。そのいくつかは日本にのみ独特のものではないが,このことはその解決を容易にするわけではない。例えば,日本の主要電気通信会社であるNTTはいまも国内ネットワークを支配していて,この市場への新規参入は参入コストの高さのゆえに困難である。改革に責任を負う行政機関が競争の促進に明確かつ全面的に努力しない限り,最も積極的な改革計画でさえその影響は弱められ,新規参入を阻害し,おそらくは長期的投資を消極的にさせる。


政策決定の迅速化

 緩慢で小出しになされる政策決定が日本では特に問題である。これが日本の制度的構造の特徴である。もちろん,どの国の政府であっても,改革を実行しようとすれば,社会的混乱を回避し,多様な利害を調整しなければならない。改革はしばしば,政治的地雷原をすり抜けて実行されなければならない。しかし日本では,規制機関や省庁が引き延ばし策を弄するための余地があまりにも多すぎる。彼らは,競争的改革の精神とは真っ向から対立する利害の持ち主である。その証拠は,やはり金融部門において明らかである。東京大学経済学部の堀内昭義教授は最近,不良債権処理の異常なまでの遅さを指摘している。その原因の一つは弱小金融機関の倒産を防ごうとする金融当局の試みにあると,教授は推測している。

 規制緩和に関連する問題の政策決定手続きは非常に煩雑である。普通,新しい規則や改革は規制緩和委員会に提案される。長い審議を経て,当局は長期的ないし根本的な問題には手を触れないように注意して,当たり障りのない変更について同意する。彼らは,その必要があると判断すれば,拒否権を行使して改革を停止させる。このような長々しい手続きの影響についてはいくらでも例を上げることができる。例えば,大型スーパーマーケットの出店を制限していた大型小売り店舗法の廃止が昨年実現するまで,アメリカの最初の要請から10年以上が必要だった。もう一つ例をあげれば,行政改革会議での長時間の審議の後1998年に最終的に合意された国内造船カルテルの廃止がある。注目すべきは,同時に過渡的措置が合意され,これによってカルテルが更に15年間実質的に生き延びることになった。

 この緩慢さの背後には,政府のやり方の根本的な変更に断固として抵抗する強力な集団の策動がある。一般および地方の政治家,業界,そして行政機関からなるいわゆる「鉄の三角形」である。このような結合関係は日本に独特のものではない。実際,この言葉はアメリカの政治学からきた。しかし,日本の鉄の三角形はことのほか強力で,ほとんどの場合,政府官僚が主導する。鉄の三角形を構成する諸機関は,高度の専門知識をもった有能なスタッフに高い地位と安定した職歴を約束する傾向にある。

 鉄の三角形は公的セクターと民間セクターの両方をカバーし,地方レベルにさえ根を張っている。それは,多くの場合,関連業界に対する影響力を各省庁に保証する法的な枠組みないし基本法令によって支えられている。しかも官僚は,規制対象の産業を支配するために公共の福祉の向上を理由とすることができ,特定の法的規定を根拠とすることができる。しかも日本には,規制当局との見解の相違を解決する競争監視機関ないし行政/司法仲裁機関が存在しないために,こうした裁量権が日本の政府機関をことのほか強力にしている。


天 下 り

 行政機関の力がこれほど強力であるために,産業界はその庇護下にとどまろうとする強力なインセンティブを感じる。そのために最も好まれる方法が,退職したばかりの政府官僚を企業が自社の取締役に迎えることである。政府以上の高位は存在しないことから,このやり方は「天下り」と呼ばれる。表は,規制対象の業界の取締役会に占める「天下り」役員の比率が,そうでない業界,例えば自動車産業よりも高いことを示している。官庁出身者を役員に任命するという慣行は,鉄の三角形を強化する方向に作用する。

 公的セクターから民間セクターへの転職はほかの諸国でも行われているが,「天下り」の慣行が特異なのは日本が終身雇用に固執しているからである。このことが官庁にとって,毎年退職する職員に就職先を見いださなければならない圧力となる。最近のスキャンダルがこうした慣行に疑問を投げかけているが,元政府官僚の受け入れを促進する根本的なインセンティブが変わらないかぎり,「天下り」がなくなることはない。


外に向かう

 日本経済の諸問題に取り組む政策決定者は,改革を始めようとするならば常に,背後に横たわるこのような組織的構造を考慮しなければならない。政府と民間セクターの相互間の長年の慣行を変えることはどこの国でも困難である。しかしこの変化がなければ,ほかの改革政策も頓挫してしまう。

 幸いにして日本の問題は,いかなる手段をもってしても克服不可能というわけではない。ただしそのためには何らかの新しいアイデアが必要である。ヒントを得るために政府は地方で起こっている変化に着目することができる。アメリカの連邦政府は,例えば航空産業の規制緩和にあたってこのアプローチを活用した。それはカリフォルニア州で実施されて成功していたのである。

 国内のイニシアティブに依拠することも重要であるが,国際的な解決策もまた有益でありうる。欧州諸国の経済政策の担当者は,第二次世界大戦後の一時期,惰性で行動していた。欧州共同体,そしてのちには単一市場と通貨同盟を創出しようとする試みは,各国をそれぞれの泥沼から救い上げて,貿易と資本の流れを自由化し,成長を促進する助けとなった。日本の政策決定者が直面する問題は欧州のそれとは多くの点で様々に異なっている。しかし,日本の問題はその国境の外の市場に影響を及ぼすというまさにこの理由によって,恒久的な解決策を求めて外に向かうことは積極的な第一歩となる。それは日本と世界の経済にとって有益である。


(1) この記事で表明された見解は著者のものであって,必ずしもOECDの公式見解ではない。



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