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ほとんどの完全食品は,これまで特定の規制の対象となったことはないが,遺伝子組換え作物の出現で,これが変化しつつある。ではそのような商品の規制のきっかけとなるのは何か。新食品の安全性を確保するためにどのような実用的な手段を用いることができるのだろうか。
近年,生命科学を解明した急速な知識の高まりと精密機器は,本質的に生命を扱う2つの中枢産業,すなわち食品産業と医療産業を徐々に不可避的に変化させつつある。研究施設,農業および医療産業の下流では,成績向上と競争力アップが見られ,多くの場合,消費者によりよい価値と質をもたらしている。医療および食品部門は沸きかえっており,バイオテクノロジーの進歩がもたらすおびただしい量の新しい知識やデータの吸収に努めている。
しかしこれらの進歩は,一方ではこの2部門間の大きな違いを際立たせている。医療部門は厳しく規制されている。というのも,その製品は,リスクと利益をバランスさせなければならない状況において,しばしば生命を脅かす事態に対処するからである。このような状況は,医師,製薬産業,規制当局に対し,最新の知識に十分に精通していなければならないという倫理的義務を課す。新しい情勢に通じていないことは不行き届きということになる。
食品部門も生物学的現象――動植物の飼育・栽培,感染や病気からの保護,その生産物の改良・流通,それらの生産物を細菌やその他の汚染から保護すること,その味覚,品質を改善し,消費者に受け入れやすくすること,栄養やその他の効果を研究すること――を扱う。食品産業も新しい知識や技術を利用することができ,主要な食用農産物および畜産物に関するゲノム・プロジェクトが進められている。
しかしそれ以外ではいくつかの違いが見られる。食品は身近な存在であり,見慣れたものであるため安心感がある。我々は毎日食べなければならず,また我々は習慣によって行動する生物であるため,最新のイノベーションは,必ずしも我々の望むものであるとは限らない。しかも我々が食べるものの大部分はこれまで特定の規制の対象になったことがない。イノベーションは疑いを生じさせる場合があり,規制はこの疑いを晴らすよりもむしろこれを強めることになるかもしれない。従って,国民の心の中では,食品の目新しさは,医療の進歩よりも微妙な問題である。
OECDは20年間に亘りこれらの問題や矛盾に取り組み,問題点を明らかにし,経験の国際的共有や最適な慣行の普及を促進してきた。そしてその作業からいくつかの規制の動きが生まれた。
専門知識,アイデア及び熟知性
生物学的安全性の問題について従来用いられてきた評価方法は今でも適切であるというのが当初の基本的結論である。医薬品およびワクチンの生産・試験,労働者の安全性,食品の安全性,植物の育種,殺虫剤,農産物検疫等の分野において,膨大な経験が蓄積されている。安全性の評価は,改良を加えた生物体に関する既存の知識を参考にして行うべきであり,導入した改良とその所期の用途について明確な情報を提供すべきである。一つの重要な基準は,その生物体についての熟知性である。工場の発酵タンクの中でも,農地でも,食品摂取の習慣においても,長年に亘る安全な使用の歴史は,安心感を与える実用的な出発点となる。このため当初は組換えDNAや生物体の遺伝子組換えという新技術が焦点になっていたが,1980年代末には,生物体そのもの,特定の改良,および所期の用途に焦点が移っていった。安全性の評価についての責任は,生ワクチン,遺伝子治療,農作物の環境に対する影響,食品の安全性等の問題に取り組む各省庁に課せられている。
規制のきっかけ
食品部門の規制監督または安全性評価は,長い間,残留物,汚染物質,加工補助材,包装材料,表示等の問題,要するに食品自体の主要要素以外の事柄に焦点を合わせてきた。我々とその祖先が炭水化物,脂肪,タンパク質,ビタミンの必要を満たすために摂取してきた様々な動植物製品やその他の製品については,これまで一般に関心が払われなかった。
食品照射やはっきりと識別された酵素添加物の使用などの先端技術や新技術が利用可能になってはじめて,食品の主要成分とそれらに適用される技術プロセスに国民の関心や規制当局の注意が向けられるようになった。このことは基本的な枢要な問題を提起する。つまり,我々は我々が摂取する未加工食品または加工食品――その多くはつい最近我々の食生活に入ってきたものである――の大部分についてこれまで規制を行ってこなかったため,どのような論理的根拠に基づいて生産品や加工方法の最新のイノベーションについて規制を開始すべきなのかということである。何を新たな規制のきっかけとすべきなのだろうか。
この問題は,特に国際貿易にとって,また世界貿易機関(WTO)の衛生および植物衛生対策に関する協定などの国際法律文書の規定条項にとって重要な意味をもつ(Wayne
Jonesによる記事を参照)。
これらの問題を解決するために,多くの諸国では新食品(先端バイオテクノロジーにより得られる新食品を含む)の安全性評価において実質的同等の原則を適用することが最近の慣行となっている。欧州連合では,この原則が法的効力をもち,1997年に採択された新食品・新食品成分規則(NF
& NFIR)に組み込まれている。この規則は全EU加盟国に対して拘束力をもち,いくつかの点で重要であり,最近では食物連鎖への先端バイオテクノロジーの適用をめぐる論争の中心となっている。
問題のある用語
この規則の実施に対しては批判が生じている。というのもこの規則は生産品の特質と安全性に明確に焦点を合わせているが,必ずしもその生産品を生み出した技術を考慮に入れていないからである。また同規則は,生産者または販売業者に対し,適用した技術について消費者に明確な情報を提供する義務を課していない。国民が遺伝子組換え食品に対して不安を抱き,情報を要求するようになったため,欧州委員会は,1997年に遺伝子組換え作物を含む生産品または遺伝子組換え作物から生産された商品を市場に出す場合に特定の表示を義務付ける指令を採択した。遺伝子組換え作物を含む食品または食品成分,もしくは遺伝子組換え作物から生産された食品または食品成分はNF
& NFIRの対象となるが,在来食品と実質的に同等であると判定された場合には特定の表示をする必要がない。これは,実質的同等の正確な意味について欧州内でかなりの論争を招いた。
科学者と供給業者は,法律は安全性の問題に専念すべきであると主張し,生産過程において用いられる特定の技術をそのような義務の範囲に含めたり,除外する論理的根拠に疑問を投げかけている。
一方,国民が不安を抱いている分野では政策が優先される。これは現在一部の欧州諸国で繰り広げられている論争に明白に現れている。遺伝子組換え作物の問題が出現する前から,食品の安全性に対する消費者の信頼は狂牛病によりすでに揺らいでおり,この危機に対する規制当局の対応のまずさに対して国民の不満が広まっていた。このように対処の難しい状況では,専門家レベルにおける国際的話し合いにより,問題を解明し,誤解や極めて重要ではあるが小さな差異の生じる余地を少なくすることが絶対に重要である。OECDはこの目的のための貴重な話し合いの場となっている。
実質的同等は必ずしも簡単に立証できるわけではない。1997年3月にフランスのAussoisで開催された研究会において,新しい食品および加工プロセスに関する実施上の問題についていくつかの異なる見方が明らかにされた。例えば,比較は同じ条件下で栽培された密接に関係のある種――理想的には親――との間で行われるべきであるという点が強調された。環境要素が植物の表現型に影響を及ぼす可能性があり――全く同じ種子を異なる状況で栽培すると異なる植物が生育し,その栄養の特質も異なるかもしれない――またいくつかの異なる場所のデータを比較すれば役立つだろうという点が指摘された(次の記事参照)。
適切な質問
政治的立場から発せられる質問は議題の範囲を定めることになる。つまり我々は何を,なぜ,どのように規制すべきかということである。規制の目的が国民の安全を守ることなのか,国民の不安に答えることなのか,それとも販売される食品の安全性に対する国民の信頼を維持することなのかを考えることが極めて重要である。これらの各質問は相互に密接に関係しているとはいえ,かなり異なっており,遺伝子組換え食品の規制という状況において,この事実は明白であると同時に面倒なことになる。
先端バイオテクノロジーにより得られる作物や加工食品の普及に伴う規制は大きな問題となっている。OECDは,政治,農業,環境保護および消費者の安全に関する見解および経験に基づき,相互理解を深め,実践的効果をめざすコンセンサスをまとめるための適切な環境を提供している。今こそ明確な原則が必要とされている。実質的同等は一つの有用な手段であり,それらの原則を確立するのに役立つだろう。
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実質的同等性
OECDの専門家グループは,1980年代の研究を参考にし,1993年までに主要な概念を確立し,発表した。それは,先端バイオテクノロジーの応用により開発された生物体から生産された食品および食品成分の安全性を判定する最も実際的アプローチは,それらが在来食品(もしそのようなものが存在するとすれば)と「実質的に同等」であるか否かを考慮することである。これを立証するためには,伝統的な親生産品または生物体の成分および特質と新しい成分および生産品の特質についての知識が必要となる。
実質的同等性を遺伝子組換え食品の安全性の評価に適用するための原則は次のとおりである。
- 新種/遺伝子組換え食品もしくは食品成分が在来食品と実質的に同等であると判定されたならば,安全性および栄養面でのそれ以上の不安は取るに足らないと考えられる。
- 実質的に同等であることが立証されたそれらの食品は,類似の在来食品と同じように扱われる。
- 新食品または新種の食品または食品成分があまりよく知られていない場合,実質的同等性の概念を適用することは難しい。そのような新しい食品または食品成分は,類似の物質(例えば,完全食品やたんぱく質,脂肪,炭水化物などの食品成分)の評価において得られた経験を考慮に入れて評価する。
- 生産品が実質的に同等と判定されない場合には,識別された差異についてさらに評価を行う。
- 新しい食品または食品成分の比較の基準が存在しない場合,つまりこれまで同等物または類似の物質が食品として消費されていない場合には,新しい食品または食品成分は,それ自体の組成および特性に基づいて評価すべきである。
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