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消費者は政府が食品の安全性と品質にもっと注意を向けることを望んでいる。これは規制の強化を意味するかもしれないが,規制の範囲が明確でなく,過剰になれば,貿易や健康な生活に損害を与えることになりうる。単にリスクの評価を行うのではなく,特定の規制の費用と便益を比較考量すれば,保護貿易主義を回避すると同時に安全性を高めることに役立つかもしれない。
消費者は一般に,タバコや車によるリスクよりも食品が健康に及ぼすリスクに対して敏感である。喫煙者は喫煙によって被るリスクを許容するかもしれないが,食品,特に生鮮食品を摂取することは,本来リスクな行為ではないはずである。特に今日の近代的かつ衛生意識の高い世界ではそうである。しかし狂牛病やO−157の発生,リステリア菌等による食中毒の発生により,食品産業に対する消費者の信頼は大きく揺らいでいる。これらの不安により,特定の商品に対する需要が大きく落ち込んでおり,関係部門では,深刻な経済的打撃を被っている。
ルールがないわけではない
実際,消費者の不安は基本的な食品の安全性のみにとどまらない。食品の質とその生産方法,動物の保護,遺伝子組換え作物の利用,ホルモン,環境,倫理的・文化的差異などが公の議論において盛んに取り上げられている。政府は,当然の事ながら,消費者と産業の被るコストを最小限に抑えて食品の安全性を確保するよう圧力を受けている。これらの争点は複雑であるため,適切な政策による対応を識別することの困難さが問題である。特に,世論が強硬であり,説得力のある科学的証拠が少ないという厄介なケースではなおさらである。
それでも各国政府は対応に努めている。カナダ,フランス,ニュージーランドでは,衛生,安全,及び検査に関する広範な責務を有する食品庁を新設している。イギリスでも同じような機関の設置が提案されている。アメリカでは,関連する責務を管轄するいくつかの連邦機関が食品摂取の健康に及ぼすリスクに取り組む新たな構想が発表され,この分野における農務省の権限が拡大された。EUは,遺伝子組換え食品の表示に関する法律を制定した(Mark
Cantleyによる記事参照)。更に欧州の約40カ国をまとめる欧州会議は,食品の安全性に関する枠組み協定,各国および欧州レベルにおける食品安全機関の設置,法律の整備,検診の改善,及び情報へのアクセスの促進について勧告を発した。
問題は,リスクに対する消費者の態度および食品の安全性と品質に対する政府の取り組み方が国によって大きく異なることである。無殺菌牛乳からチーズを作ることは,フランス,イタリア,スイスでは完全に認められているが,一部の諸国ではこれが禁止されている。
殺虫剤に関する各国の規則も大きく異なる。食品安全性および品質管理システムも明細事項が異なり,貿易相手国に認められない場合もある。照射は,スパイス,たまねぎなどの一部の食品に使用されており,またベルギーなどの一部の諸国に限られており,他の諸国では使用されていない。このような取り組み方の違いは,必然的に貿易相手国との間の紛争に発展しうる。
各国の規則が貿易や豊かで健康な生活に及ぼす影響についての数量的推計は少なく,そのような推計が存在する場合でも,それらは常に論争の余地がある。にもかかわらず,米農務省は,最近,各国の規則がアメリカの食品輸出に損害を及ぼしている約300件のケースを識別し,その影響は年間50億ドルの売上損に相当すると推計した(1)。関税などの伝統的貿易障壁が撤廃されるにつれて,規則の数が増え,複雑化していることは明らかである。基準や手続きは,貿易を促進する具体的かつ透明なルールを定めることになるため,輸出業者にとっては役立つが,その一方で国際競争を減らし,市場をゆがめ,企業,特に外国企業の市場参入を妨げることになる。
ケージ等の道具を用いた子牛のバタリー飼育の禁止等,一部のOECD諸国ですでに確立されている家畜の健全な育成に関する新しいルールを定めれば,この規則を遵守しない商品の輸入を禁止することが可能となる。従って,国際的ルールの強化,食品産業のグローバル化,食品に関する競争の激化,及びバイオテクノロジーの利用の増大により,食品の規制をめぐる貿易紛争が今後いっそう広まるリスクがある。
1994年ウルグアイ・ラウンド協定の一環として,衛生・植物衛生(SPS)協定および技術的貿易障壁(TBT)協定がまとめられた。これらは規制当局の保護貿易主義を防ぐとともに国際基準の使用を奨励することを目的としている(囲み記事)。主要な輸出入国はその義務を遵守しており,WTO加盟52カ国から700件以上のSPS措置が報告されたが,多くの低中所得国は,まだ1件も報告していない。
WTOの貿易紛争解決手続きによりSPSに関する数件の紛争が解決されたものの,これらの協定ですべての問題が解決されたわけではない。例えば,インドは,一部の豊かな国とSPS協定により課せられる衛生措置は,事実上北米および欧州への輸出を阻むことになるため不公正であると主張している。同様に,一部の諸国は,欧州連合とアメリカが狂牛病に対して取っている予防策は過剰反応であり,輸入を制限していると抗議しており,特にこのウィルスに汚染されていない地域ではそのように感じている。
旧来からのケース
特に欧州の一部の諸国では,出所の正しさという名の下に,又は伝統的商品を保護するために,生産方法に対する技術的制限を課している。これらの制限は,輸出業者にとって障害となっており,国内生産者が革新的技術を導入することを妨げることになるため,彼らが競争上不利になる可能性がある。もう一つの問題は地域の伝統的商品の知的所有権に関するものである(Evdokia
Moiseの記事を参照)。ワインの銘柄はこのよく知られた例であり,それは引き続き欧州とアメリカの争いのもとになっている。
紛争が生じると,それは長引く可能性がある。畜牛に成長ホルモンを使用することをめぐるEUとアメリカとの意見の対立はすでに10年間も続いている。EUはそのような物質の使用を認可することを拒否しているため,その使用が認められている第三国からの輸入が制限されるという影響が生じている。この紛争は1998年の控訴において解決され,EUは1999年5月までにその勧告に従うことを約束した。
実施は困難
国際基準を実際に実施するには,それ自体の問題もある。ある国で採択した措置が国際基準と異なり,おそらく国際基準に達していない場合,SPS協定では,科学に基づくリスク分析を実施することが明確に義務づけられている。しかし容認できるリスクとは何かについての合意はなく,リスクの計算方法をめぐる論争が続いている。SPS協定では,適切な科学的証拠が不充分な場合,暫定措置を採択することを認めているが,この「予防原則」は,一部の消費者団体にとって限定的すぎる。
科学技術により可能となった新しい生産方法は消費者の不安を高め,食品規制という点から見た科学とその解釈に対する不信感がこの不安をさらに増幅している,政府が食物連鎖の全段階において食品の安全性と完全性を脅かす可能性のあるすべてのリスクを考慮することが極めて重要となっている。
各国は,非常に限られた状況において,TBT協定に基づいて行う場合に限り,文化的,倫理的,又は宗教的理由により,より厳しい規制を導入することができる。その場合,異なる表示を認めることにより,それらの規制が考慮される。価値観の問題はデリケートとなりうる。
食品は単に好みの問題か
様々な消費者団体の正当な価値観を無視すれば,市場において非常に否定的な反応が生じ,貿易自由化全般に対する彼らの支持が次第に低下していく可能性がある。しかし倫理的議論を考慮しすぎても,あらゆる貿易障壁を正当化することになりうる。というのも自らの利益のために行動する圧力団体がそれを利用するからである。
技術的・衛生的障壁に関する紛争の解決において経済的費用と便益を考慮するための現行の取り決めは不明確である。規制を廃止することの厚生コストが規制を存続させることの厚生コストを上回る場合にはその措置を擁護できるという主張は,TBT協定の下では認められるが,SPS協定の下では,ほとんど(たとえできるとしても)認められない。費用便益分析の使用については,理念上の理由と実用主義的理由から異論がある。そもそも食物のように個人的な事柄について,利益の概念をどのように定義したらよいのだろうか。
明らかに全体的なルールなど不可能である。もちろん規制当局は,徹底的経済分析をこれまで以上に指針とすべきであり,競争促進政策の実施の場合と同じように,ケースバイケースで決定を下すようにする一方,社会の福利が十分に考慮されるようにすべきであろう。
(1) D. Roberts and
K. Deremer, アメリカの農産物輸出に対する外国の技術的障壁に関する概観,米農務省経済調査局,営利農業課,スタッフペーパー AGES-9705,ワシントンD.C.,1997年。
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国際基準
ウルグアイ・ラウンド,特にSPS及びTBT協定の実施は,食品の安全性及び品質に関する国際基準の使用に向けて大きな弾みをつけた。国際基準の使用は,国際機関,特にCodex
Alimentarius Commission(国際食品規格委員会)の重要性を高める。国際食品規格委員会は,人の健康保護のための基準を定めており,また世界貿易機関(WTO)が安全性の基準および慣行に関する貿易紛争問題に関して助言を求める主要機関のうちの一つである。
衛生・植物衛生協定(SPS)では,人及び動植物の健康を守るために貿易制限を行う政府の権利を認めている。しかしそのような措置は,透明で一貫性がなければならず,国際基準または科学的なリスク評価に基づいていなければならない。各国間の扱い及び輸入品と国産品の扱いが平等でなければならない。またSPS協定では,各国がそれぞれの規制(実質的同等の原則)を相互に認めることを奨励している。食品に関しては,食品に含まれる添加物,汚染物質,有毒物質及び病原体から生じる健康上の危険(食品安全性)を網羅している。
技術的貿易障壁協定(TBT)はSPSよりも範囲が広く,技術的規則,自主基準,遵守評価手続き,その他SPS協定で網羅されていない措置をカバーしている。同協定は,各国の措置を透明にし,正当な目的をもたせ,貿易に対する制限を最小限に抑えたものとすることをめざしている。関連国際基準の遵守が奨励されている。TBT協定は,食品に関しては,包装,成分,表示,並びに品質要件を網羅している。
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