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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.216


 OECD Observer 日本語版

費用と便益の比較考量

 特定の商品に関する安全性および規制の評価において,費用便益分析は正当に重要視されていない。特に純粋リスク分析の重要性と比べるとそうである。ウルグアイ・ラウンド協定は,衛生および技術に関する紛争の解決において,経済的評価に限定的役割しか与えていない。実際,SPS協定では,特定の規制措置の経済的利益が費用よりも大きくなければならないという要件は設けられていない。しかし一部の規制措置はネットで経済的に不利になることが明らかになりつつある。費用便益分析という専門用語を用いると,規制措置は,たとえリスクを減らすことになるとはいえ,社会の豊かさ――又は福利――に対してマイナスの影響を及ぼすことになる。

 国際基準を用いた結果,貿易が伸びても福利が低下すれば,理屈に合わないだろう。適切な規制を行うには,その規制がもたらす利益と費用の点からその規制の評価を行う必要がある。多くの諸国では,害虫の広がりの防止といった衛生上の理由で輸入制限を行っているが,事前に潜在的損失の推計を行っていない。この損失は,規制が産業や消費者に課す費用に比べれば非常に小さいかもしれない。費用便益分析をもっと多く利用すれば,規制から生じる厚生の増大と,例えば貿易自由化から生じる厚生の増大を比較できるであろう。

 換言すれば,費用便益分析は,当局がその国の規制についてより適切な決定を下すのに役立つ。ある研究において勧告されているように,この方法は体系的に用いられるべきである。というのも,公衆衛生対策の費用とそれが実際に健康に及ぼす影響との間にはかなりの開きが見られるからである(1)。例えば,一人の人命を救うための費用は,プログラムにより20万ドルから1,000万ドルの開きがある。ということは,社会負担コストが同じでも,より多くの人命を救助できることを意味する。社会はすべてのリスクを同じように容認するわけではなく,また社会の選択の幅を各種プログラムの費用の比較に縮小することはできないが,費用便益分析は,規制の枠組み作りにおける重要な一段階である。実際,アメリカの医療部門における一定規模のプロジェクトでは,費用便益分析が義務付けられている(行政命令12291, 1981年)。

 また疾病または短命のコストの推計に基づく方法を利用して規制の利益を評価することができるかもしれない。次にこれらのコストを衛生規則のコストと比較することができる。実際には,これは技術的・方法論的に多くの問題を提起する。例えば,残留農薬によるガンのリスクの推計には相当の不確実性があり,経済的推計を行うことは特に困難である。その上,不確実性が大きい場合にはリスクの計算は不可能であり,従来の方法で分析を行うことは難しい。遺伝子組換え作物が遺伝子を広めるリスク,又は狂牛病等に関する長期的流行病のリスクなどはこのケースである。

 商品の質の倫理的または文化的側面を保証するための規則によって得られる利益を計測することも容易なことではない。また予想される危険を評価することも容易ではない。しかし例えば商品がバイオテクノロジーや照射を利用せずに生産されているという事実に消費者が特に価値を置いている状況を評価し,彼らがそれに対してどの程度支払う意思があるかを推計することは可能であるかもしれない。これは,消費者の満足感が技術を禁止する規制に対してどのように反応するかを金銭的に示すよい方法であろう。


(1) K. J. Arrow, M. L. Cropper, et.al.,‘Is there a Role for Benefit-Cost Analysis in Environmental, Health and Safety Regulation?’in Science, No.272, 1996年,pp.221-222


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