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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.216


 OECD Observer 日本語版

知的所有権:正しいことと間違っていること

EVDOKIA MOISE, TRADE DIRECTORATE

 バイオテクノロジーに投資される知的資本は,保護に関して重要な問題を提起する。中にはリスクを包含する問題もある。

 バイオテクノロジー市場は2005年までに380億ドルになるものと予想される。これは儲かる市場である。しかしそれだけではない。バイオテクノロジーをめぐる論争がいかなるものであれ――新聞を読んだだけでも,いくつかの論争があることがわかる――バイオテクノロジーが我々の生活に及ぼす影響は増大している。その影響は,人命を救う医薬品が市場に出回るとか,農薬を多用せず,より確実に大量の収穫をもたらす食物が生産されるという形で現れる。特に欧州において遺伝子組換え食品が健康や環境に及ぼす真の影響について国民がよりよい情報を求めるようになったため,関連産業にとってますます利害が大きくなっている。

 現代のバイオテクノロジーは,生物学的プロセスを理解し,実用的目的のためにこれを利用することをめざす。バイオテクノロジーはそれに関する知識がなければ存在しえない。バイオテクノロジー産業は,その年間所得の平均約45%を研究開発につぎ込んでいる。ということは同産業の価値のほぼ半分が知的資本に占められていることを意味する。

 問題は,知的資本が非常に横取りされやすい財だということである。それを盗み,模倣し,無許可で販売することは非常にたやすいことである。これは製薬産業で時たま起きており,特により貧しい国が医薬品を模倣し,安値で市場に出している。

 バイオテクノロジーを扱う企業は,知識への多額の投資がそれだけの価値があり,研究結果とそれから得られる利益に対して権利を保持できると確信できなければならない。これが,特許取得が研究者にとって重要と考えられる理由である。特許は,研究者の新しいアイデアや製品を保護し,研究を続ける動機付けとなる。また特許があれば,研究者は研究結果をすぐに発表しようという気になる。特許の対象が適切であり,範囲が広すぎなければ(次の囲み記事参照),イノベーションを刺激する上で引き続き重要な役割を果たすだろう。


イノベーションか発見か

 バイオテクノロジーのイノベーションは,大学や新興企業で生まれた。これは脆弱な基盤であった。というのもこれらの組織は,その商品やアイデアを市場に出すために必要な財力がなかったからである。MonsantoやNovartisのような大企業にそのイノベーションのライセンスを与えられるようにするため,彼らは知的所有権の保護を求めた。

 しかしここに厄介な問題がある。というのも最近ではバイオテクノロジーの分野で多くの大発見が見られるが,主として1950年代から60年代に知的所有権保護制度が検討された頃には,それらの大部分は想像できないものだったからである。それらの規則を解釈し,それをバイオテクノロジーのイノベーションに適用することは,目下大きな公的問題となっている。

 バイオテクノロジー上の発明に初めて知的所有権保護を適用した時以来,極めて重要な疑問に直面しなければならなかった。それは,我々が扱っているのは厳密な意味でのイノベーションなのか,それとも単なる発見なのかである。また,従来の特許の基準をどのように適用できるのかといった疑問である。人の成長ホルモンを例に取ってみよう。それを識別すること自体はイノベーションではなかった。というのもホルモンはすでに存在しており,抽出することができたからである。しかし小人症を防ぐために子供に使用する合成ホルモンについては特許を受けることができた。

 それぞれの知的所有権制度によってイノベーションと発見の問題の扱い方に差異があるのは当然である。これらの差異が貿易に関係してくるということから,貿易交渉において激論が戦わされ,その結果,WTOの貿易関連知的財産権協定(TRIPs)が1994年に調印されることとなった。実際,それらの差異はいまだに解決されておらず,政策立案者は本年後半に再びそれらに取り組まねばならないだろう。


国民の不安は政策上の難題

 議会が直面している問題は,衛生および安全性についての国民の不安,特に遺伝子組換えによる食品についての国民の不安によっていっそう難しくなっている。またクローン羊などの科学的進歩は,人間が「自然をいじりまわしている」という警告と非難を招いた。バイオテクノロジーに関する知的所有権保護において適切なバランスをとることが国民の信頼の回復に役立つだろう。

 不安の原因の一つは,物質的な意味での所有権と知的「所有」権の混同にある。知的所有権は,実際には,アイデアの独占的利用という一時的権利であり,そのアイデアから生まれる商品の所有権ではない。特許権取得は,例えば,新しい生物形態につながる遺伝子操作プロセスに対する所有権を与えるかもしれないが,その新しい生物形態そのものの所有権を与えるわけではない。第1,羊のドリーが誕生後その生みの親に属するとしても,それは他の法律によってそうなるのであり,特許とは全く関係ないのである。

 1999年,OECDはバイオテクノロジーの分野における加盟国の知的所有権の慣行について調査報告書を発表した。この報告書が示すように,共通の慣行もあるが,異なる慣行もあり,バイオテクノロジーの地歩をより強固にするためには,これらの異なる慣行に取り組まねばならないかもしれない。

 WTOの貿易関連知的財産権協定(TRIPs)では,商品およびプロセスの発明が3つの基本的基準を満たしていれば知的所有権の保護を与えるとしている。それは,その発明が新しいこと,発明的であること,産業用途およびその他の実用的用途があること,である(特許を得たからといって,その商業的利用の許可が得られることを意味するわけではないという点に留意することが重要である)。

 WTO加盟国は,倫理的懸念を生じさせる発明,又は人間や動植物の生命又は環境に危険をもたらす発明に対して特許を与えない権利を留保する。人または動物の治療のための診断法,治療法,および外科的方法の発明については特許を認められない場合があり,また微生物以外の動植物の発明とそれらを生み出す生物学的プロセスの発明も特許を認められないかもしれない。

 これらの除外は欧州において慣習的に確立されている慣行を反映しており,欧州特許協定の条項に概ね従っている。この除外については,オーストラリア,日本,アメリカ等,特許を与えることに賛成の諸国と対立している。それらの欧州の特許条項の立案は1973年にさかのぼり,一部は1963年のストラスブール条約にさかのぼる。都合のよいことに,それらは遺伝子組換え食品の生産に対する欧州の現在の慎重な態度に合っている。


倫理面では異なるが,結果は同じ

 倫理的考慮に基づいて発明を特許の対象から除外することは,貿易関連知的財産権協定(TRIPs)の採択時には,OECD諸国を分断する最も重要な論争の一つであると思われた。例えば欧州では,一般的法令に基づく倫理的解釈が特許の決定を左右する傾向がある。アメリカでは,特定の慣行に的を絞った特定の法律が存在し,ケースバイケースで倫理的判断を下すことは一般的ではない。確かに倫理的考慮が特定の法律の土台を支えているかもしれないが,いったんその法律が実施されれば,その法律だけで特許付与のプロセスが始まることになる。

 OECDの調査が明らかにしているように,欧州の全OECD加盟国のほか,日本,韓国およびニュージーランドでは,除外を正当化するために倫理が利用されている。除外のためにそのような一般的根拠を用いることを認めていないのは,オーストラリア,カナダ及びアメリカだけである。しかし実際には,これまでのところ最終結果は同じである。

 それらの諸国の法律制度では,倫理的理由による除外は,主として人間の利用またはクローン化,もしくは発明という大儀のために正当化できないほどの虐待を伴う動物実験をカバーするものと理解されている。クローン化については,OECD諸国間で大きな差異はない。というのも倫理的考慮を特許の除外の理由とすることを認めていない諸国でも,特定の法律によりそのような特許の付与を拒否しているからである。更に他の法律や規則も動物虐待を防ぐ傾向があり,これは特許を認めている諸国でも同じである。クローン人間や動物実験に関する慣行は明らかに全OECD諸国において類似しており,異なるのはその規制のために用いられる手段である。

 しかし現状は以下の通りである。倫理に頼れば,バイオテクノロジーの将来は不確実となる。特許を認めないという倫理的決定は,短期的な政治的利益のため,または単に世論を鎮めるために行うことがあるだろう。それが隠された貿易障壁として利用される危険は常にある。一方,欧州の産業は,倫理面を考慮すれば,例えば食品生産に関する研究が妨げられ,欧州が競争上不利になるのではないかという懸念を抱いている。

 しかし先端バイオテクノロジーはまだ揺籃期にあり,倫理に基づくシステムは,幅広い解釈が可能であり,遺伝子組換え食品を含む特定のプロセスに関する知識が向上するにつれて,新たな状況に適合できるという長所がある。


植物のケースでは欠点が見られる

 倫理的論争は,たとえ実際にはその結果がOECD諸国全体で同じであるとしても,今後も激しさを増していくだろう。しかし植物に関する慣行には差異があり,食用農産物の開発に明らかな影響を及ぼしている。

 アメリカの法律では1930年以降,ある種の植物について特許が認められているが,他のほとんどの諸国では,最初は,特許法は植物の新種の保護には適していないと考えられていた。その主な理由は,毎回同じ育種法を適用して特定の植物を繁殖させることができるかどうか確実ではなかったからである。例えば,2種類のバラを交配して第3の種類を生産することは,特許に値するほど確実なプロセスではなかった。1960年代に一部の諸国で品種改良者の権利に関する特別法が制定され,新種植物保護国際同盟(UPOV)という国際協定が締結された。しかしバイオテクノロジーにより,品種改良はより確実なプロセスとなり,どのケースでもエンジニアリング・プロセスにより,毎回全く同じ植物が生産されることが期待できるようになった。通常の基準では,それは特許の十分な根拠となる。

 植物品種保護システムの対象は,保護品種の繁殖材料のマーケティングに制限されており,生産した種子を将来まくために保存したり販売できる農家(いわゆる「農民の特権」)や,特許権使用料を支払わずに保護されている種子を使用して(販売することはできないが)新しい品種を開発し,それを商業化できる研究者(いわゆる「品種改良者の特権」又は「研究免除」)は保護の対象から除外されている。これらの除外は,1991年のUPOV改正においてさらに厳しくされた。この改正はまだ発効していない。しかし1つの効果は,農民がそれまで慣れていた低価格で農業資材にアクセスすることが制限されることであり,これは特に開発途上国を悩ませている。

 国際政策立案者にとってもう一つ大きな難題がある。それは,知的所有権の規則がますます厳しくなっている世界において,先端バイオテクノロジーの要求と在来農業の要求をいかにバランスさせるかということである。

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