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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.216


 OECD Observer 日本語版

道路交通の安全性――誰の責任か?

ANTHONY OCKWELL
SCIENCE, TECNOLOGY AND INDUSTRY DIRECTORATE

 自動車は安全になっている。しかし道路は?必ずしも十分ではない。

 いつものお祭り騒ぎのうちにクリスマスと新年がやってきて終わった。買い物旅行,パーティ,友人や親戚の訪問が行われた。しかしこの祭りの期間中,交通事故による死亡と重傷といういつもの悲劇的な置き土産もが残された。これは世界的な問題であり,死者数は一部諸国――例えばオーストラリアやメキシコ――では減少しているものの,スペインなどほかの諸国では大幅に増大している。しかも,交通事故による死傷者数が減少しているところでさえ,その数が妥当な許容できる水準にまで下がっていると言うことはできない。そうは言えないのだ。世界銀行の予測によれば,問題に対するまったく新しい発想と態度の本質的な変化が生じないかぎり,交通事故は2020年には人間の死亡原因の第3位になるという。ということは,現在の交通安全戦略では我々は救われない,あるいは道路での悲劇は日常茶飯事となってしまった,ということだろうか。

 数字が示す物語は悲惨である。1998〜99年のクリスマス及び新年のシーズンにおける交通事故死者数に関する予備的な推計値は,オーストラリアが46人,フランスが132人,メキシコが301人,スペインが105人である。悲しむべきことに,新年のお祝いがこの数字のかなりの部分を占めている。

 残念ながら,道路での悲劇は年間を通じて起こっている。1996年にOECD諸国で13万人程の人々が交通事故で死亡した。17〜25歳と60歳以上の年齢層が最も危険にさらされている。死者数の60%以上は地方で生じている。皮肉なことに,交通事故死者数が記録的高水準に達した1970年代初め以降,自動車の安全性は大幅に向上し,道路使用者の安全性は劇的に改善されてきている。


交通事故価格の積算

 交通事故は安くなってもいない。1996年の交通事故死傷による経済的損失の合計は4,528億ドルに達したが,これはOECD諸国のGDPの2%にも達する。この数字は,いわゆる人的資本アプローチによって得られたものである。事故犠牲者による生産能力の損失推計は,労働市場価値を使用して失われる産出額を計算する。物的損害の計算には,保険金の支払い額と補償として支払われた金額が用いられた。

 交通事故のコストを測定するもう一つの方法は,交通安全性の向上のために国民がどれだけ支払う意思があるかを推計することである。このアプローチによる推計額は人的資本アプローチによるそれよりも遙かに大きくなり,同じ1996年を基準年とすれば,経済的損失の合計はOECD諸国のGDPの4%,9,055億ドルに達する。

 一部の企業は,交通事故による日々の損失や物的損害がもたらすコストの削減のために,訓練の実施やインセンティブの提供などの対策を講じている。その結果,企業によっては保険料金の低下というかたちで利益を得ているところもある。

 それでも,全体として見れば,全世界における自動車所有とモーターリゼーションの拡大を前にしては,交通安全のこれ以上の向上は困難になりつつある。シートベルト着用の義務化や無差別の呼気テスト,速度制限の取り締まり強化,自動車乗員保護装置の進歩などを通じてこの数年間に実現された交通安全の改善はすでに限界に近づきつつあるという主張がある。しかしこの見解の背後に,交通安全は実際には満足すべき水準に達しており、道路での悲劇は,移動可能性と個人的自由の拡大に対する代償として受け入れようとする意見が見てとれる。

 こうした見解は誤解に基づく。交通事故による人間的苦悩と経済的浪費は不可避的なものではない。社会が直面するあらゆる挑戦課題がそうであるように,道路交通の安全性の向上のためにどれだけ支払おうとするかは社会が決定すべきことである。当然のことながら,どのような安全性向上策も社会に何らかのコストを課す。例えば,速度制限の取り締まり強化は警察費用の増大を伴い,自動車の安全性の向上はその価格の上昇をもたらす。道路インフラストラクチャーの改善や,許容される血液中アルコール濃度の引き下げ,モーターサイクル利用者のヘルメット着用の義務化などは,当然のことながら,自由を制限するという解釈もありうる。しかしその一方で,こうした措置は安全性の向上や多額の節約を通じて自由を拡大するという議論も成り立つ。しかしこうした措置が,個々のOECD諸国でこの30年間に実現されてきたような交通安全の向上をもたらしうるかとなると(図参照),それはまた別問題である。それでも,総合的な交通安全戦略と継続的な研究は,楽観論にある程度の根拠を与える。


交通安全プログラムの整備

 簡単に言って,交通安全プログラムが効果的であるためには,以下の3つの要素を結合していなければならない。すなわち,@道路利用者の不適切な行動の危険性について一般市民を啓蒙するキャンペーン,A厳格な取り締まりの体制,B首尾一貫性のある罰則のシステム,である。これに,自動車のデザインと構造に関する要件,そして道路インフラストラクチャーの要素を付け加えることができよう。

 速度の出し過ぎと飲酒は交通事故の2大元凶である。オーストラリアでの最近の研究によれば,60km/hゾーンで交通事故に関与する危険性は制限速度を5km/h超過するごとに2倍になるという(Kloeden et al, 1998)。従って,60km/hの制限速度を10km/h超えるスピードの出し過ぎでは危険性は4倍になる。60km/hの法定制限速度で運転する際の危険性は,血液中アルコール濃度(BAC)0.02g/100mL以下で運転する場合に等しいと考えることができる。65km/hでの運転の危険性は,BACが0.05g/100mLを超えた状態で運転するときと同じである。同様に,BACが0.05g/100mLから0.08g/100mLに上昇すれば,危険性のレベルは2倍になる。

 このことは,社会が自動車運転のためにどの程度のBAC水準を許容可能とするかという問題を提起する。スウェーデンのようないくつかの諸国は厳しい路線を選択して0.02g/100mL以下の基準値を採用しており,ほかの国でも全体としてこの傾向が優勢となりつつある。もう一つの問題は罰則と罰金に関係する。それは,行為の重大性と相関していなければならないが,混乱の原因となってはならない。OECD諸国では同様の違反行為に対して様々に異なる罰則のシステムが制定されている。速度の出し過ぎないし飲酒運転は一部諸国では高額の罰金と免許停止に至る場合があるが,別の国では軽い罰金ですむ。更に,一部諸国の罰則のシステムは道路使用者に対して混乱したシグナルを送っている。ある行為形態,例えば飲酒運転は,危険性という点では同じであるにもかかわらず,速度の出し過ぎよりも許されないとされている。

 交通安全キャンペーンの担当者は,速度の出し過ぎが飲酒運転と同じくらい社会的に受け入れられないことを国民に説得しなければならない。事実,この2つの領域に焦点を当てるだけで,今後10〜15年間に交通事故死者数のレベルを最大20%も引き下げることができるであろう(Makeham and Brooks 1998, Vulcan 1998)。

 検討されるべき領域はほかにもある。歩行者は交通事故死者数の約20%を占めており,その比率は上昇傾向にある。その多くは高齢者で,この年齢層の保護を目的とした特定の政策,例えば彼らの必要性にあった歩行者通路の設置が効果的である。

 自動車と道路のデザインの改良もまた,交通事故の悲劇のレベルを引き下げるうえで重要なのは明らかである。有望な新技術としては,疲労によるドライバーの能力低下を感知する新しい技術や,最先端の走行コントロール/ブレーキ装置,衝突回避システムなどがある。しかし解決されなければならないもっとありふれた矛盾もある。例えば,自動車のフロント部分の空気力学的設計は,エネルギーとコストの節約にはなるが,衝撃ポイントが低いために歩行者にはより危険になる可能性があるという見方がある。このことは,自動車のデザインを決定してきた要因に多少の再考の要があることを意味している。

 こうした改善策はすべて若干の調整コストとおそらくは多少の規制を必要とする。しかしそれは,交通安全性の向上のために支払うに値する代償だと考えられる。産業界と政府と社会一般が得る節約は出費以上のものとなろう。それは,もっと幸せな新年の旅行と更に多くの人々の帰宅という幸せを可能にする堅実な投資である。

簡単な解決策

 OECDの「道路輸送・交通モード間連結(RTR)研究プログラム」は,1967年に開始されて以降,交通安全の改善策を検討してきた。現在進行中の作業は,特に交通事故の主要原因に対処するための交通安全政策における「ベスト・プラクティス」に焦点を当てている。プログラムはまた,高齢者の安全対策にも取り組んでおり,非OECD諸国における諸問題もまた研究の対象とされている。

 農村の道路に関する最近の研究の結果は,地方道路の安全性に責任を負う諸機関のあいだの連携の必要性を明らかにしている。警察による取り締まりが特に重要とされている。幸いなことに,道路交通の安全性の向上は,費用のかかるデザインや広報キャンペーンがすべてではない。実際,このプログラムが明らかにしたところによれば,実に簡単な施策で地方道路での事故を大きく減らすことができる。例えば,道路沿いの障害物や走行レーンの散乱物を除去することである。利用しやすい道路状況一般を作ることにより,交通事故は減らせるのである。

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