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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.217/218


 OECD Observer 日本語版

高齢化への対応

 アメリカ経済の長期的な見通しは,一つの要因,すなわち,高齢化および人口構造の変化に対処するためにどのような政策をとるかに大きく依存している。以下Richard Herdによる。

 「経済だって?馬鹿なことを」というのが近年のアメリカの政治における誇らしげな合言葉だった。しかも,それには十分根拠があった。しかし,この合言葉を今後とも妥当させるためには,人口問題をなおざりにしてはならない。今後40年間にアメリカの人口構成には大きな変化が生じる。高齢者が大幅に増加する一方,労働人口の伸びが鈍化する。労働年齢の者1人に対して,65歳を超える者の数がほとんど倍増する。アメリカでは出生率が比較的高く,また移民も入ってくるので,アメリカの高齢化は他の多くのOECD諸国に比べると遙かに緩やかなものになると予想されている。それでも,経済的な影響は重大である。

 また,主として労働力の伸びが鈍化することから,景気拡大も鈍化しよう。そうなると,高齢者の消費が労働人口より多くなるので,個人貯蓄が長期的に減少し続け,資本流入にもかかわらず,資本ストックおよび生産性の伸びの低下につながる可能性がある。これは,生活水準に影響を及ぼそう。


負担の吸収

 アメリカにとって幸いなことには,民間部門では年金貯蓄産業が発達しており,少なくとも他のOECD諸国に比べれば,財政に対する負担は軽い。最も重要なのは,国民が退職に備えて資産を蓄積するよう1978年に導入した401(k)/確定拠出型退職手当制度が成果を上げていることである。1997年末で1兆8,000億ドルを超える額が401(k)やその他類似の制度に投資されているが,これは,社会保障信託基金の資産のほとんど3倍に相当する。この「成功談」の2つのプラスの側面が注目される。401(k)の制度により,転職の際に退職貯蓄を維持するのが容易になったので,労働弾力性が向上した。第2に,退職のための投資方針決定について,個人の責任を重くした。

 しかし,財政に対する負担もある。公的な予測によると,今後40年間に,高齢者に対する社会保障年金支払いおよび医療コストは,それぞれGDPの2.25%および4%の率で増加する模様である。このため,保険計理上の見積もりによると,2034年には,社会保障信託基金の資産はゼロになる。他方,社会保障やメディケアでは多額の赤字が出るかもしれないが,連邦予算の他の部分は大幅な黒字を計上するはずである。極めて長期的には,政策の変化がないとして,社会保障およびメディケアは,GDPの0.8%および1.3%に相当する赤字を出している可能性がある。高齢者のためのメディケイドの増加も赤字をGDPの0.3%分増加させ,結局,高齢化による赤字合計は,GDPの2.4%に達する。他方,予算の他の部分は,議会が大統領の支出計画を支持することを前提として,GDPの1.6%に相当する減税を行う余裕がある。このことは,政府部門を全体として見ることの重要性を示している。予算の高齢化に関する部分だけを見るのは不適切である。

 予算の他の部分の全般的な余剰により今後の社会保障を賄うことができるとしても,社会保障とメディケアの双方を賄うことはできない。両プログラムに,帳簿上の調整だけでなく,構造的変化を加える必要がある。しかし,財政に加える必要がある調整分は,過去6年間に見られた税制改善と比較してそれほど大きくなく,GDPの1%未満にすぎない。

 社会保障を救うための大統領プランは,社会保障の寿命を延ばすための準備金の創設を伴う。このプランは,統合予算(社会保障を含む)の黒字を確保し,国内貯蓄に寄与するはずである。これは,予算黒字を維持し,更には増加させることがいかに困難なことか国際的な経験からも分かっているだけに,望ましい措置である。

 これまでのところ,非常に長期に亘って社会保障をどのように保証するかについては,まだ提案が出されていない。このためには,次のような選択肢をいくつか検討する必要があろう。すなわち,退職年齢引き上げの加速,平均余命への退職年齢のリンクおよび生活費調整の引き下げである。また,大統領プランの一部は,社会保障基金の一部の株式投資から高い収益が得られることにかかっているが,これはまったく不確実な要素である。更に,大統領プランのこの部分は,アメリカの全上場会社の4%を政府が保有することにつながる可能性があり,コーポレート・ガバナンスの問題が出てくる。

 大統領プランのもう一つの要素である全国民貯蓄口座の創設は,低所得家庭の貯蓄を引き上げる一歩となろう。2059年後も高齢者の福祉を保障するために,計画されている任意個人貯蓄口座に上積みすることは適切な措置であろう。同年には,計画されている資金移転があったとしても,信託基金は底をつく。このため,任意口座を義務的なものに変えることも考えられよう。

 現政策の最大のギャップは,メディケアにかかわるものである。連邦職員の医療手当制度をメディケア改革の基礎として用い,メディケアを管理されたケア枠組みの方向へ段階的に持って行くことも適切な方法のように思われる。この点で,メディケア委員会の委員長の提案は合理性があるようだ。他方,州政府および連邦政府が提供する長期的ケア・サービスを統合し,高齢者のための家庭ベースおよびコミュニティ・ベースのケア・システム(ただし,在宅介護に対する厳格な管理を必要とする)を支援する面でも,改革が必要である。労働力への参加を増大させることも,高齢化のコストに対処するための資源を増加させる一つの方法である。すでに,広範に亘る改革により,生活保護該当者が大幅に減少し,また,好景気のお陰で,貧困層の雇用が増大した。最貧困層の状態を永続的に改善するためには,教育機会を向上させることが必要である。調査によると,その達成のための一つの方法は,異なる学校区の間の支出の極端な格差をなくすことである。

 他の面では,金融規制の基礎となる法制の改革が必要である。大恐慌時代に制定されたグラス-スティーガル法は銀行とその他の金融機関との間に障壁を設けているが,これを取り除くべきである。更に,デリバティブ店頭市場と先物取引所との間の人為的な障壁も,統制された取引所の一部の活動に対する禁止措置を緩和することにより,除去すべきである。

 このように,なすべきことは多々ある。しかし,いろいろ考慮すると,適切な政策をとるための選択の幅は狭く,時間も限られている。将来において,人口問題をアメリカ経済の考え方や戦略の中心近くに置くことが賢明であることは疑うべくもない。人口問題をなおざりにしてはならない。恐らく,人口問題にも何か賢明な座右の銘があろう。


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