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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.217/218


 OECD Observer 日本語版

未来:政策立案者が考えなければならないこと

WOLFGANG MICHALSKI,
DIRECTOR OF THE OECD INTERNATIONAL FUTURES PROGRAMME
FUTURES.CONTACT@OECD.ORG

 次の世紀は,経済と社会とテクノロジーの巨大な前進を約束している。しかし,政策立案者はそのリスクをも知っておかなければならない。

 テクノロジーと経済と社会の変化の積極的・肯定的な相互作用を促進する政策――これが,21世紀の課題に応えるために,各国政府が実行しなければならない政策である。これから生じようとしている全地球的な根本的な変化が,その深さにおいても規模においても,農業社会から工業社会への移行がもたらした変化にも比すべきものであることは,ほとんど疑う余地がない。このような根本的な転換をまたとない機会と捉えて,それをうまく利用することが,われわれの直面する課題の核心である。その報酬は,目を見張るばかりの技術進歩,比類なき水準の社会参加,そしておそらくは,世界経済をこれまでの平均以上の高度成長の新しい軌道に乗せる新たな長期的ブームである。

 すでに今日,広く普及するテクノロジーの広範囲に亘る前進は,医療,農業,小売業,通信,娯楽の世界に革命的な変化をもたらしはじめており,われわれの生活と労働,余暇の過ごし方に根本的な影響を及ぼしている。新しい生産方法の普及とグローバリゼーションが急速に進むにつれて,生産力が大幅に向上し,これまでは周辺部に取り残されてきた多くの地域や国が世界の経済システムに統合される可能性が生じる。更に,大幅に改善された生活の非物質的側面での充実は,個々人の選択の可能性の拡大や社会的な相互交流の新しい形態,創造性の新しい機会にその表現を見いだす。実際,先進工業諸国における経済活動のこのような非物質化と,開発途上諸国における国民1人当たり所得の増大が,諸政策の適切な組み合わせによって,われわれを持続的なグローバルな成長の時代に導いてくれるのである。


未来の可能性と新しいリスク

 しかし,進歩による可能性とともに,困難とリスクもやってくる。これは政策立案者にとってだけではない。まず,OECD諸国のほとんどにおいて人口の高齢化が進んでいる。高齢者の比率が高まるにつれて,年金制度や医療保険,社会サービス,財政などに対する圧力が全体として強まり,特にいくつかの諸国ではこれらが極端に強まる。開発途上諸国では,人口の急速な増加が続き,広範な貧困と食糧不足の問題を深刻化させるであろう。このことが,特に若年層の間での失業の増大とあいまって,移民圧力を大幅に強める。

 地球温暖化や海洋汚染,真水の不足,都市の混雑,その他の問題を解決する努力が強化されるにつれ,グローバルな,また局地的な環境問題がますます前面に出てくる。今後数十年間のうちに,工業化の進む諸国はますます大量のエネルギーを消費するようになり,温室ガスの排出においてますます大きなシェアを占めることになる。人口の増加と経済の拡大,そして気候の変化は,2025年までに30億もの人間を水不足に直面させかねない。

 情報・知識経済への移行とグローバリゼーションのプロセスは,国際的な相互依存関係の深まりとともに,各国の経済政策の操作の余地をせばめ,しばしばその有効性を弱めている。これは,通貨・財政政策との関連で,すでにマクロ経済レベルで生じていることである。しかもそれはミクロ経済レベルにもあてはまる。一国での競争政策はますます効果をあげなくなっている。過度に高率の課税や極端に厳しい環境基準は,投資対象としてのその国あるいは地域の魅力を簡単に掘り崩してしまう。

 政策立案者たちを悩ませる制度的な問題も存在する。本質的にもっぱら国家レベルでの産業社会を機能させることを目標としてきたゲームのルールや社会制度は,グローバルな情報・知識経済の登場とともに,急速に不適切になり,これと両立しなくなりつつある。競争法規や,安全規則,プライバシー保護,教育や社会保障の制度などはすべて,われわれがこれから迎えようとしている社会において意味と価値をもちつづけるためには,全面的な改革はともかく,調整は必要としている。積極的なやり方で進歩を促進するためには,いくつかの分野で新しいルールが必要とされよう。

 約束された多様化の進行は,知識経済の最大の魅力の一つであるが,同時にそこには憂慮すべきいくつかのリスクが潜んでいる。例えば,多大の政治的努力がなされなければ,知識と経済的能力に対して働く同じ変化の圧力が,社会の新しい分岐を生み出して,不平等化と細分化を深刻にする恐れがある。技術の「インサイダー」と「アウトサイダー」の間で,情報と知識にアクセスできる者とできない者の間で,新しい社会・経済環境に容易に適応できる者と適応が困難な者の間で,二極分化が進行しかねない。その結果,所得と富の分配は更にいっそう不均等となり,この問題に悪循環を生じさせる。

 技術に関しても考えておかなければならない問題がある。社会がますます多様化し,分権化し,ネットワーク化され,技術依存的になるにつれて,問題を複雑にし,不安をいだかせ,有害でさえある故障が生じかねない。コンピュータやネットワーク,これらを動かすソフトウェアに対する依存の深まりは,社会的インフラストラクチャーのますます重要な部分(医療システムや下水処理施設から航空管制や金融取引システムにいたる)をシステム全体に亘る故障の危険にさらす。


価値観と思考様式

 このような実際的な問題に加えて,もっと抽象的な,しかしそれにもかかわらず根本的な性格の,倫理,価値観,思考様式に関連する問題が存在する。新しい経済的,社会的パラダイムに向かう長期的な発展のごく初期の局面にあってさえ,現在の文化的,倫理的規範に極度のジレンマが生じる。ますます大きくなる外部世界やまったく新しい革新的技術の影響にさらされることは,異質のもの,新しいもの,未知のものを許容する人間の能力に著しい負担をかける。

 しかし,逆戻りはありえない。グローバリゼーションのプロセスと情報・知識社会への移行は堅持される。それゆえに,真の問題は,危険とリスクを管理して封じ込める一方で,技術と経済と社会における将来のダイナミズムがもたらす成果を残らず収穫して適切に共有するために,いかなる政策がとられるべきか,である。

 最も一般的なレベルでは,家計と企業と政府が創造性と実験の文化をもつことが必要とされよう。革新と変化を進める個人および組織の能力と自由を拡大するために,多大の努力が必要である。経済,社会,技術,環境の各面で不断に進行する変化を常に認識し,これに対応することのできる,価値観と習慣が形成されなければならない。これは特に,現在の勢いが維持され,更には強化されなければならない政策分野と,根本的に新しい想像力に富んだアプローチが必要とされる政策分野を明らかにすることを意味する。


市場の自助努力を助ける

 国内政策に関して言えば,インフレ抑制と健全財政をめざすマクロ経済政策の伝統的な方向性は,不安定を緩和し,投資と技術革新と実験,そしてリスク負担を促進するための安定した枠組みを確保するために,将来も維持されなければならない。そして,需給パターンの変化に対する経済構造の滑らかな適応を容易にし,資源がその最も効率的な用途へと確実に配分されるように,構造的調整を促進する努力が継続されなければならない。このことは,財貨とサービスには競争的な市場が,資本には開放的で透明な市場が,労働力には弾力的な市場の創設を意味する。等しく重要なのは,しばしば均等な財貨とサービスの直接的な提供者から,より多様でより分散化された市場主導の生産の調整者へと,政府の役割を転換させつづけることである。

 社会的,経済的な変化はすべて,教育にも明らかな影響を及ぼす。旧来どおりのやり方による教育政策の末梢的な改善ではまったく不十分である。労働力構成の変化は,経済の国際化の進行や技術の前進,新しい創造的な労働組織モデルの普及などとともに,技能と資格に対する将来の要求に応えるために,人的資本に対する巨額の投資を要求する。生涯に亘る学習への転換を行うためには,教育の組織方法や人間の知識の認定方法について想像力に富んだ新しいアプローチが必要である。政府が教育を半ば独占することを前提とした,供給主導で高度に制度化された現在のシステムは,将来においては,提供される多様な教育機会を学習者が自分で計画的に選択できるような,需要主導・クライアントのアプローチに道を譲らなければならない。

 高齢化は,この先,多数の困難な課題を政策に課す。しかし,たとえ高齢化が政策問題とならない場合でも,いずれにせよ,想像力に富んだ多大の努力が求められる。それは社会的支援や年金,保健医療のシステムを,高度に多様化した,おそらくは更に不確実性の高い,明日の社会の必要に対応して確実に調整できるようにするためである。リスク分担と社会的連帯の昔のシステムの多く,例えば,工業化社会には基本的には適切だった弾力性のない年金システムは,知識ベースの経済と社会を機能させるためには不可欠の,より高度な適応性と創造性と多様性を窒息させかねない。必要とされているのは,社会的「支出」から社会的「投資」への発想の転換である。これは,労働と貯蓄と投資のための明確なインセンティブを提供する公的,私的な,またその混合の新しい想像力に富んだアプローチをもたらす。このようなアプローチは,広範囲に亘る多様なリスクに対応でき,しかも同時に,モラル・ハザードや貧困の罠の問題を回避することができる。

 国際的なレベルでも,これまでの努力が維持され,あるいは強化されるべき政策分野と,想像力に富んだ新しいアプローチが要求される分野がある。貿易と投資と技術移転の多国間システムのさらなる発展は前者のカテゴリーに入る。例えば農業のような,過去の自由化論議が十分に徹底していない分野では,そのさらなる深化が必要である。また,いまだ多国間の枠組みの外にある分野では,この枠組みの拡大が必要である。この後者には,国際航空輸送を初めとするいくつかの重要なサービス部門や,いまだ何百もの二国間協定によって縛られている国境を越える投資などが含まれる。

 しかし,グローバル化した情報と知識の社会と経済を作り上げることは,伝統的なやり方を遙かに越えるとてつもない仕事である。無形資産とグローバルな市場の重要性を考慮して,競争や知的所有権に関する法律と行政の根本的なオーバーホールが必要とされている。インターネット,そして特に電子商取引のためのグローバルな政策的枠組み作りのために,新しい地平が切り開かれなければならない。後者のためには,消費者保護やプライバシーの保護,支払いの確実性,身元の確認,競争的な市場条件の確保といった諸問題にグローバルな解決が必要とされる。バイオテクノロジー開発に関しては,新しい国際的なルールが案出され,国際的に合意される必要がある。遺伝子変更有機体の認証手続きと取引に関する国際的な合意は,とりわけ対立の激しい問題となろうとしている。最後に,国際資本市場の適切な機能や,気候変動の潜在的可能性への対処といったグローバルな問題の処理のためにも新機軸が要求される。

 これは実に気が遠くなるような課題であり,そこに含まれるリスクは巨大である。しかし,適切に処理されるならば,積極的な政策的対応は,生活水準の向上や社会的参加の拡大をはじめとして,万人に対して多額の配当をもたらすはずである。その名に値する長期的ブームが生じる確率はそれほど大きくないかもしれないが,それを生じさせるチャンスは現在のわれわれに与えられているように思われる。それを実現させるのはわれわれ次第である。未来に対する開放的な,目標を明確にした,積極的なアプローチによって,おそらくわれわれは,21世紀の世界経済を真に例外的な高成長の軌道上に送り込み,ついにはグローバルなレベルでの比類なき物質的豊かさの未来を見いだすことができるだろう。


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