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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.217/218


 OECD Observer 日本語版

明日の世界を養う

PIERRE-ALAIN SCHIEB
INTERNATIONAL FUTURES PROGRAMME,
FUTURES.CONTACT@OECD.ORG

 人口爆発,急速な都市化,水の不足,縮小する農地――明日の世界を養うためには,こうした要因のすべてを考えなければならない。 食糧・農業部門はこの課題に応えることができるだろうか?

 「食糧難が,いま始まろうとしている新しい時代の決定的な問題となろうとしている。それはちょうど,イデオロギーの対立が最近終わったばかりの歴史的な時代の決定的な問題だったのと同じである」。エコノミストのレスター・ブラウンは,議論を呼んだ食糧難に関する彼の論文でこう結論づけている。彼のシナリオは過度に悲観的であると考えてよいかもしれない。現在の農業・食糧部門には,少なくとも今後30年間,食糧需要の前例を見ない増加にさえ対処できる能力があると考えられるからである。それでも,現在,世界の8億3,000万人あまりの人々が食べ物を十分に得ていない。これは,食糧の不足やその極端な高価格そのものによるというよりも,低開発と弱い購買力を反映した厄災であって,世界の人口の特定の部分,特にサハラ以南アフリカとアジアの人々にのみ関係する問題であると考えることもできよう。しかし食糧難は,次の世紀の決定的な問題ではないとしても,非常に重要な問題となろうとしていることは極めて明白である。事実,1世紀とか1000年というずっと長期間を考えれば,状況は悪化するかもしれない。干ばつや天変地異(洪水,ハリケーン,大津波,火山の噴火),戦争と革命などを含む様々な要因によって,食糧供給の不確実と途絶が生じうるからである。このような出来事は,予測が困難,あるいはしばしば不可能である。しかし,今後半世紀以内にわれわれに確実に影響する重要な変化が一つある。それは,世界人口が事実上2倍になることである(24ページを参照)。

 現実の問題としては,これは,特に貧しい諸国で1人当たり平均消費量が増大するとすれば,2025年までに食糧生産量が実際に2倍にならなければならないことを意味する。しかも,人口増加分の95%が生じるのはまさにこうした貧しい国々である。ところが現在のところ,食糧の剰余は主としてOECD諸国に集中している。FAO(国連食糧農業機関)の研究によれば,OECD諸国は2010年には1人当たり723s(全体で10億トン少し)の穀物を生産するが,非加盟諸国はわずか230s(13億トン)しか生産しない。非加盟諸国はOECD地域から1億6,200万トンあまりの穀物を輸入しなければならない。これは各国の財政資源に負担をかける。

 もう1つの重要な動向は,2025年までに世界人口の60%あまり,およそ52億人が都市に住むことである。彼らを養うためには,都市市場に適合した生産と物流管理と流通の構造が必要である。このことは,現在のところ,非加盟国の都市化とインフラストラクチャーがOECD諸国に一般的な都市モデルの後追いをしていることを考えれば,特に重要である。OECD諸国の居住パターンは,特に梱包や輸送,保存,廃棄物などの面で,極めて複雑で費用のかかるエネルギー集約的な供給チェーンを要求する。

 食糧の質もまた重要な意味をもつようになっている。先進工業諸国では肥満の問題がますます深刻になりつつあるが,開発途上世界では栄養失調と栄養不足が一般的である。WHOの研究によれば,栄養不足の問題はこの先それほど深刻化することはないと予測されるが,それでもなお極めて広範囲におよんでいる。例えば,鉄分不足の人の数は,1995年の35億人から2025年には27億人へとわずかに減少するだけである。

 OECD非加盟の一部諸国における生活水準の上昇は,また,たんぱく質の多い食事の普及を予測される。このことは,肉製品に対する需要に影響を及ぼす。例えば,中国ではすでに,肉の消費量は1986〜88年から1993〜95年までの間に1人当たり20sから38sへと増大している。肉の消費量が増えると穀物の消費量も増え,しかもその増加率は遙かに大きい。例えば,鶏肉1sを生産するのに必要な穀物は2sであるが,豚肉1sの場合は4s,牛肉1sの場合は7sが必要である。

 多くの国際機関――OECDやFAO,世界銀行――の研究が支持する相対的に妥当なシナリオによれば,2010年から2020年頃までは食糧の供給は需要よりも急速に増大する。FAOのある予測は,2010年までの産出高の年間成長率を1.8%としている。この増加率は1980年代に観察されたそれほどは大きくないが,それでも需要を満たすには十分であろう。

 しかし,非OECD諸国では,農業生産高の成長は食糧の自給を確保できるほどの水準には達しないだろう。それゆえに,例えば耕地を更に1億3,000万ヘクタール拡大して,生産高と単位収穫量を増やさなければならない。肥料の消費量は,1995年の1ヘクタール当たり平均62sから2010年には110sへとほぼ倍増する。その後は,食糧価格の低下を前提とすれば,穀物の輸入量は2020年には2億2,000万トンにも達し,肉の輸入量も1,200万トンに達する。これは1995年水準の20倍である。

 しかしこのようなシナリオの有効性さえ,他の要因のいかんにかかっている。例えば,土地の入手可能性である。都市化は可耕地を浸食しつつあり,これは今後も続くだろう。農地の減少は,次の四半世紀で15%にも達する可能性があり,このことは,グローバルなレベルで,農地が1999年の15億ヘクタールから2025年には約13億ヘクタールへと縮小することを意味する。そうなれば,需要の増加に対応するために単位収穫量を大幅に増やすことが必要となる。森林消滅の危険性を犯して,未耕地を農地にすることが必要である。ヨーロッパとアメリカは耕地を拡大しない路線を選択したように見え,アジア諸国ではこれ以上可耕地を拡大する可能性は事実上排除されている。実際,農地の拡大の可能性が最も大きいのはサハラ以南アフリカとラテンアメリカである。

 利用可能な土地はすべてが質を異にするために,2010年までに穀物生産量を20%増やすためには,新規農地の拡大と単位収穫量の増大を組み合わせる必要がある。これはすべて,水の供給が少なくとも当面,決定的な資源問題とならないことを前提としている(次の記事を参照)。水利用の改善は,コストを厳密に反映するように価格を調整することを意味する。というのは,それは農民が潅漑や散水の技術をもっと節約的に,もっと効率的にすることを助けるからである。それはまた,例えばトウモロコシに代えてサトウモロコシを栽培するなど,水需要の少ない品種の利用を促進する。

 考慮されるべきもう一つのファクターは,技術の変化である。それは,生活の他の分野におけると同じように,農業においても不可避と考えられる。目標は,生産諸要素のより効率的な組み合わせにおかれるべきである。研究・開発の前進のおかげで,明日の「精密農業」は,いまよりも耐性が強く,生産性の高い,おそらくは遺伝子を組み換えた新しい種子に依存することになる。更に将来の農業はもっと科学的な栽培方法を活用して,最も適した定植時期を選び,農薬や水や土壌などの諸要素の組み合わせを最適化する。また,天候を予測し,干ばつの危険性を監視し,穀物の熟成度を評価するために,高度な衛星モニタリング技術の活用も検討されることになろう。しかし以上を可能にするためには,農民がそのための適切な技能をもっていることが前提となる。訓練やコンピュータ操作能力,各種の電気通信手段へのアクセスなどが,科学的研究の成果や土地および水の入手可能性と同じくらい重要になる。


政府と市場

 こうしたことすべてに対して,政府の政策が重要な役割を果たすことは明らかである。しかし,市場には果たすべき役割はないのか。もちろん,ある。緊急備蓄を設けるための介入の例を取ってみよう。これは,収穫の変動の問題に対処する方法としては,相対的に費用のかかるやり方である。緩衝備蓄は価格変動に対する解決方法としても実際的でない。しかし市場のグローバル化は,こうした変動を滑らかにする最良の方法となろう。それは,時間的には,緩衝備蓄を最低限に維持することを可能にし,空間的には,少なくともある程度まである地域の剰余を別の地域の不足の埋め合わせに使用することを可能にする。追加的な生産能力を,必要に応じて一部のOECD諸国――アメリカ,カナダ,フランス,オーストラリア――や非OECD諸国,例えばアルゼンチンで開発することもできる。しかし,こうしたことがうまく機能するためには,食糧がもはや国際政治の武器として利用されないようにすることが必要である。むしろ,食糧供給を「確保する」ことが保証されなければならない。食糧の禁輸は,需給関係の最適均衡を調整し,実現するという市場の能力の妨げとなる。

 市場の歪みのもっと日常的な原因としては,政府の価格管理と,補助金や関税,関税以外の貿易障壁の形をとった政府の介入がある。このような措置を廃止することが現在の一般的な傾向である。それにもかかわらず政府は,例えば環境を保護し,市場に出回る食料品の品質に関する国民の健康上の要求を満たすなど,新しいリスクに対処するために中心的な役割を果たしつづけるだろう。

 しかし,全体として市場は,農業・食糧部門にますます大きな影響力を及ぼしつづけるだろう。そして,市場がますますグローバル化するという事実は,たとえ価格変動のリスクに関して若干の不確実性は残るとしても,長期的な価格の低下傾向を強めるだろう。地理的な分岐もまた重要である。今後10年以内に中国が穀物輸入の20〜50%を占めるようになる確率は非常に大きい。他方,例えばウクライナは,主要な穀物輸出国となることができる。この種の事態の展開の規模は,どのようなものであれ予測は困難であるが,世界市場における需給情勢がいずれにせよ変化することは確実である。この等式におけるもう一つの変数は世界ないし地域の経済成長率であるが,2020年から2025年にかけての穀物価格の低下傾向は非常に強く,それは世界のGDPがいかに急速に増大しても逆転することはないだろう。

 農業・食糧部門は,実際,将来の食糧需要の増大に対処するための諸資源を十分にもっていると考えられる。技術の変化や新技術の普及,インプットへのアクセスの改善などによってもたらされる生産性の向上は,農業・食糧産業に有利に作用する。世界的な飢餓との戦いのためには,経済的繁栄の果実のより適切な配分と市場のいっそうの効率化が必要とされる。差し当たり,極度に貧困で農業に大きく依存する諸国は,おそらく,生産高と所得の両方の向上を目指した農業開発政策の導入が必要である。他の作物への転換が困難で,あるいは土地や水の供給上の制約に適合できない諸国は,輸入を賄う十分な富を作り出すために,その開発政策を他の部門に転換しなければならない。OECD諸国の場合は,世界の他の部分からの農産物および非農産物の輸入に対して市場を開放し続けることが,将来の栄養不足を根絶し,飢餓のリスクを小さくする現在の戦いに勝利するための不可欠の前提である。


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