| 世界は,次の千年の最初の数十年間に亘る長期的好況という願ってもない好機の出発点に立っている。この好機を逃してはならない。
長期的好況は,例外的な出来事である。人類の経済発展史において,あまり起こったことがない。過去130年間における2つの急速な経済成長期(一つは19世紀の後期,もう一つは第二次世界大戦後の時期)は,長期的な歴史的平均水準を押し上げるのに重要な貢献を行った。過去の長期好況を分析すると,基本的な特徴が2つある。第1に,好況の平均を超える成長速度は,より長期の1世紀に亘る流れを反映したものであることが多い。これは明確に認められる現象であり,歴史的なトレンドの周辺で変動する短期の景気循環と混同してはならない。
長期好況の第2の特徴は,特定の歴史的局面でともに作用する様々な要因が同時に生じることである。最も近時では,1950年代にこのような現象が生じた。この時期に,戦後の復興景気が,革新的技術や高度の大量生産方法の普及・発展および新しい経済的・制度的枠組みと重なり合った。このような要因の集中が,長期好況の特徴である並外れて急速な社会経済的変化と生産性の向上を触発し,持続させる。
調和と不調和
必ずしもそうばかりとは限らない。確かに,極めて長期に亘る持続的な経済発展のためには,投資,労働者の能力,取引の伸びが好調であることが不可欠である。しかし,変化を推進するダイナミックな要素は,そのプロセスを引き起こすかあるいは抑制するシステムの作用力である。
歴史を通じて,システムの機能性または機能不全の意味が浮き彫りにされてきた。システムの不調が悲惨な結果をもたらすことは明白である。例えば,ソ連の指令経済計画は崩壊し,また,1970年代後の「債務危機」は,多くの貧困国を一層貧困にした。他方,システムが機能すると,通常は,多大の利益をもたらす。このことは,北米,欧州および日本の所得が同一水準になってきたことや,過去20ないし30年の間に多くのアジア諸国が経済的に見事に成長軌道に乗ったことからも明らかである。
機能的なシステムが停滞に対抗し,時につれて変化を遂げる能力を維持することができる要因は何だろうか。答えは3つのグループに分けることができる。第1に,民主主義と競争市場とが共存共栄できる場合に生まれる願望と課題である。第2に,イノベーションを遂行し,適応する能力である。この能力は多元主義,透明性および開放性が存在する場合にのみ実現可能である。第3が,市民的自由と社会的義務の尊重などの広範囲な文化的価値観である。これは,協力と競争,安全確保とリスク引き受けをバランスさせる方法を絶え間なく探求するための基盤となる。
もとより,階層的で閉鎖的かつ不寛容なシステムも,一時的な発展,場合によっては数年に亘る発展を遂げることが可能である。このことは,特に,戦時であるとか強制的工業化の時期など,技術的・組織的・社会的な構造が上から押し付けられている場合に妥当する。しかし,今世紀の歴史が示すように,このようなシステムはダイナミズムに欠け,経済発展を長期に亘って持続させることはできない。
一部のシステムがうまく行かないからといって,すべてのシステムもそうであるとか,過去においてうまく行ったことに固執することによって機能性を保証できるということにはならない。経済のダイナミズムを長期的に持続させる方法は,時につれて変化する。19世紀のやや狭く定義された民主主義制度や経済制度は,同時代にすばらしい展望をもたらした。20世紀において支配的な大量生産,大量消費および大衆的政府の仕組みについても同じことが言える。しかし,このような制度的・組織的形態は,21世紀における状況や課題には不適切である。21世紀においては,需要の多様化に応えるために一層の供給の多様化を進めなければならない。このためには,イニシアティブやカスタマイゼーションの強化および中央集中管理の一層の緩和を図る必要がある。 長期的な経済ダイナミズムのトレンドを持続させることは,長期好況をもたらすための必要条件ではあるが十分条件ではない。長期好況の基準である世界の1人当たり所得増加率3%を上回るためには,一定の技術的・経済的・社会的要因を統合する必要がある。この目標をここ数十年の間に達成するためには,3つの重要な側面で十分な進展がなければならない。知識社会,世界市場の統合および環境的持続可能性の3つである。
第1の要素である知識経済・社会への移行については,強力な成長を促す今世紀の大量生産,大量消費および大衆政府のインパクトと緊密な相互関係がある。21世紀においては,ノウハウとアイデアの交換などの無形物の生産と消費が支配的な経済へと移行することにより,長期好況の平均を超える成長率を達成することができよう。それより困難な問題は,このような触媒要因が,急速かつ広範に変化を推進するとともに,途中の制約条件を克服するのに足るほど強力であるかどうかである。実験室での発見や製品技術の見込みがあるというだけでは,新技術の広範な普及の保証にもならないし,また,同様に重要な,人々が働き,生活する態様の革新にもならない。
いくつかの面で,変化へのはずみがついてきているように思われる。インターネットと電子商取引の爆発的な拡大のお陰で,より徹底したが,急速な移行を可能にするのに必要な枠組みの構築に関心が向けられつつある。不完全なプライバシー保護措置,支払いシステムおよび知的所有権法を克服するための世界的なインフラストラクチャーの設計が行われている最中である。このインフラがうまく行くとしたら,分散された市場競争および知識普及により移行プロセスが加速される可能性が高くなる。しかし,いたるところの公衆や企業が(需要者または供給者として)市場に入るのを容易にすることは,問題解決の一部でしかない。使い易い「適正」技術へのアクセスが限られているとか,人的資本を人間居住の組織パターンは,慣れない技術および混乱を生じさせかねない新たな経済的・社会的変化に対する恐れを大衆が克服できてのみ,定着しよう。
長期好況をもたらす第2の発展要因は,世界市場の統合が加速され,これまでより遙かに徹底したものになる可能性から出てくる。このような統合がよい結果をもたらすと考える根拠は十分にある。いずれにせよ,国内または地域内で商品,サービス,金融および技術を自由に流通させることは,長期的な成長をもたらす上で顕著な効果がある。このような統合を世界中に拡大することにより,効率的な資源配分とアイデアの競争という知識社会に不可欠な要素を強化する大きな可能性が生まれる。他方,このプロセスを阻害する制約要因が多数存在する。商業上の紛争を解決するのに既存の枠組みを用いなければならないことや,世界金融市場の変動を制御することができる制度を改革または創設しなければならないことまで,様々な制約要因がある。
更に,長期好況のために必要な世界市場の急速かつ徹底した統合は,競争の敗者に補償を与え,人権および労働上の権利について最低基準を導入するためのメカニズムなしには,政治的に実行不可能であろう。ここでは,社会的価値観が決定的な役割を果たす。市場を統合し,高度の透明性を確立するための取り組みにおいては,国家主権の維持とか他の人々の社会規範の受容が大切であるとする価値観のような問題に直ちに逢着する。
21世紀の最初の数十年に長期好況をもたらすのに貢献する第3の要因は,環境的持続可能性である。今日の産業社会と対照的に,環境を損なわないように将来の富を創出するやり方は,適切な政策がとられたなら,無形で環境にやさしい経済側面の急速な発展を促し,かつ,伝統的な生産・消費形態の環境効率を改善することが可能であろう。このような政策は,家庭用および輸送用の電力を発生させる水素燃料電池のような新テクノロジーの普及を促進するのに役立つ。恐らくそれより重要なことは,このような政策は,新テクノロジーがもたらす経済・社会生活を革新する機会を活用することにより,将来の長期好況を環境にやさしいものにするのに寄与し得ることである。
他方,環境的に持続可能性がより高い経済および社会に突き進むことは,触媒要因となるよりも制約要因となる可能性がある。消費および投資ビヘービアを変化させるために経済的インセンティブを用いると,石油ショックの際に示されたように,多大の効果が上がるかもしれないが,往々にして調整コストが途方もなく高くつく。このコストは,将来の困難な仕事を行うにはなお未成熟なグローバルな制度を用いる困難に,輪をかける結果になりかねない。この仕事には,環境を重視するグローバルな市民権の新形態の一部として,様々な権利を付与し,所得を再配分する取り組みが含まれ得る。
長期好況の始動
今日,長期好況を引き起こすための主要な要因が揃っているように思われる。ただし,その実現可能性は,第1に,長期的経済ダイナミズムの基盤となる競争市場,開放的社会,民主主義政治といった組織上の「原動機」の状況にかかっている。第2に,(知識社会,世界市場および環境持続可能性にかかる)歴史的に特定された触媒要因と制約要因との間のバランスから必要なエネルギーが供給される度合いにかかっている。長期好況を引き起こすには,できる限り多くの利用可能な触媒要因を刺激し,これらを同時に作用させることが必要である。具体的には,知識経済,グローバリゼーションおよび新たな環境は持続可能性を促すための,一貫性のある統合された政策が必要である。また,21世紀の前夜に当たって人類に与えられた可能性を最も適切に活用することが必要である。
遺憾ながら,常に機会を捉えているとは限らない。今,広く共有できる急速な経済成長を実現し,かつ,ここ数十年間の不平等と疎外のトレンドを逆転させるための稀有の好機が存在する。これらは,長期好況を現実のものにするのに必要な異例の経済・社会政策努力を行う上で,極めて適切な2つの根拠である。
*OECD Observerは,Spotlight on the Futureをまとめるのに貢献したBarrie Stevensに謝意を表する。
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