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1995年末,ハッブル宇宙望遠鏡の責任者は大胆な措置をとった。いつもは,世界中からこの何十億ドルもする望遠鏡を数分間使う貴重な権利を求めて天文学者らが激しく競争する。しかし,この時ばかりは,10日間にも亘って,望遠鏡は何もない所に向けられていた。空で最も空虚な部分にである。ハッブルのチームにとって喜ばしかったことに,得られた画像は空白どころではなかった。約3,000の物体が捉えられたが,そのそれぞれが何千億という星からなる星雲である。比較的近くの星雲の構造は見えるが,最もかすかで最も遠い星雲は,ただの小さなしみである。これらのやっと見える星雲からの光は,地球に向かって何十億年も旅してきた。全宇宙は創成からわずか120億年しか経っていないので,これらの星雲は最初に出現した星雲にほかならない。より古い,より遠くの物体を探すのは,もう無駄かもしれない。ほかに見えるものは何もない(あるいは,なかった)。科学者は,ついに,ほぼ創成期からこれまでに存在したすべての物の画像を捉えた。
また,1995年,興奮した物理学者のあるグループが,これまで何年もの間捉えられなかった素粒子,かの有名なトップクォークの発見を発表した。これは素粒子の中の怪物で,通常のプロトンの質量のほぼ200倍の重さがある。これを出現させるためには,シカゴ近辺のFermilabの10億ドルもするTevatronという世界最大の粒子加速器をフル回転させる必要があった。この発見により,物質の最も基本的なレベルを研究している科学者は,ついに,いわゆるスタンダード・モデルを確認することができた。スタンダード・モデルとは,物質の最も基本的な要素であるクォークおよびレプトンを用いて,最も小さな尺度ですべてのものを説明する理論である。
小さいことは美しくもある
この2つの大発見は,「ビッグ・サイエンス」,すなわち,近代科学が直面する最も困難な課題のいくつかに焦点を当てた高価で複雑な多年に亘るプロジェクトによる多くの勝利の中の2つである。ビッグ・サイエンスに常に大規模施設が伴うとは限らない。例えば,大規模なヒューマン・ゲノム・プロジェクトは,多くの国の多数の資金的に独立した中規模研究グループの作業を調整することである。しかし,通例のビッグ・サイエンスに関わる活動は,多額の金を支出することや,数カ国の科学者とエンジニアからなるチームを何年にも亘って運営することを必要とする。もとより,「スモール・サイエンス」を忘れてはならない。いずれにせよ,今世紀で最重要の技術ブレークスルーは,1947年12月16日にベル研究所のありふれた作業台上で行われた最初のトランジスター組立てであった。
ビッグ・サイエンスのプロジェクトやプログラムの役割や重要度は,今後とも,科学者や政策立案者の変化するニーズに基づいて変化する。現在,固体研究のような「ビッグ・サイエンス」に携わっている研究者の多くが,ニュートロン源およびシンクロトロン放射源のような極めて大規模な施設の主要な利用者となっている。保健,食糧生産または環境保護などの分野の公共政策においては,例えばゲノム・マッピングや地球監視システムのような大規模な研究の成果に対する必要性が高まっている。こうして,多くのOECD諸国で研究予算は厳しく査定されているものの,政府は,強力なビッグ・サイエンス・プログラムを維持する課題を常に抱えている。これは理由なしとし得ない,取り組むべき緊急な問題があるからだ。
空電
電波天文学を例にとってみよう。これは,科学政策が他の政策問題と相互関連し,またその性質上政府間の国際協議を絶対に必要とする典型的な例である。
天文学者は,宇宙電波源からのかすかな信号を研究するために,電波スペクトルのうち障害物が極めて少なく干渉のない部分に対するアクセスを必要とする。電波スペクトルの商業利用が大幅に普及したため,このアクセスが難しくなっている。最近まで,電波天文観測所は辺鄙な地域に置かれ,人為的な妨害を受けることがほとんどない。それでも,スペクトルがだんだん混んでくるのにつれて,干渉の頻度が高まり,貴重で高価な望遠鏡利用時間が失われるようになる。最も心配なのは,今やオンラインで入ってくる極めて多数の通信衛星からの送信である。このような送信は,ある天文現象に関して独自の情報を提供するスペクトル領域へのアクセスを完全に妨害するかもしれない。この新たな問題は地理的に隔離することによっては解決できず,人為的な妨害に対する電波天文学者の闘いに新たな局面をもたらす。この問題の重大さを実感するには,簡単な携帯移動電話機を考えてみるとよい。この電話機がずっと遠く月に置かれていたとしても,その信号波は,特定の送信周波数においては,自然に電波を発する天文物体とは異なり,空にある最も明瞭な電波源の一つとして地球に届く。商業衛星からの信号波は1億倍も強力な場合があり,その信号波の周波数またはその近辺の周波数で効果的な観測を行うのは不可能になる。現在計画されている次世代の電波望遠鏡の場合は,この問題が遙かに悪化している可能性がある。次世代の望遠鏡は,現在の望遠鏡より100倍も敏感で,ビッグバン直後までさかのぼって宇宙のほとんど全歴史を観測することが可能になろう。
既存の各国および国際的規制機関によって妨害問題に対処するのはますます困難になっている。電波天文学の進歩は公共の利益であり,また衛星サービス企業も公衆に利益を与えるので,双方が共存共栄する道を見つける必要がある。共存のための技術・規制面の制度は,全当事者間の対話,すなわち各国・国際規制機関,世界の電波天文学界および電気通信会社の間の対話によってのみ生まれる。OECDのメガサイエンス・フォーラムは,企業,天文学界,規制機関および政府からの参加者からなる非公式の専門家グループの支援を得て,このような対話の準備を行い対話を開始するためにイニシアティブをとっている。
メガ・サイエンスの将来
未来やメガ・サイエンスについて予想する場合は,科学事業の不確実性および実際の進展がほとんどいつでも予測者の予想や想像を上回ることについて言及するのが習慣となっている。20世紀の目覚しい進歩と100年前の(今からみれば)臆病な予想に鑑みれば,今後の個々の発見について注意を払いつつ,次の100年に大きな希望がもてる。それでも,1890年代の科学者を悩ませた最も深遠な問題の多くについてまだ解答が与えられていないことを思うと,いささか考えさせられる。宇宙の大きさはどのくらいか。宇宙はいつどのようにして始まったのか。宇宙が終わることはあるのか。物質の最も基礎的な構成要素は何か。空間と時間の本質は何か。地球において生命はいかにして誕生したか。地球以外にも生命が存在するか。感情はいかにして作用するか。3世代,4世代,あるいは10世代前の科学者にとって妥当であったこのような疑問は,今でも,未解決の問題である。科学自体からも新たな疑問が出てきた。どうすれば量子力学と重力を両立させることができるか。なぜ自然は,生命,更には感情の存在を可能にする(あるいは必要とする)ように微調整されているかに見えるのか。
大発見が行われた今世紀が終わりに近づくにつれて問題を複雑にしているのは,われわれの知識の中にあきれるほど大きなギャップがいくつか残っていることである。例えば,宇宙は何からできているか。結局のところ,宇宙のおよそ90%は不明のようであり,それが何でありどこにあるかについてのよい考えは出ていない。場合によっては,ほとんどの科学者がやっと解決したと主張したいような分野についてさえ,疑問が残されている。例えば,ビッグバンの理論はほとんどの学者が確実なこととして受け止めているが,ある者は,この理論構成についていくつかの欠陥を指摘しており,同理論が今後崩壊する可能性もある。高い期待や不確実性が残っているということは,「科学の終点」はまったく見えないということでもある。一つだけ確かなことがある。ビッグ・サイエンスは,地図の空白を埋める上で役割を果たすということだ
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