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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.217/218


 OECD Observer 日本語版

学習する都市:地域開発の新しいレシピ

KURT LARSEN,
CENTRE FOR EDUCATIONALRESEARCH AND INNOVATION
ELS.CONTACT@OECD.ORG

 「学習する」都市や地域という考え方は比較的新しい。しかし,ますます多くの地域的発展戦略においてその中核におかれるようになっている。学習する都市とは一体いかなるものか,又それは機能するであろうか。

 都市は死んだ。都市よ永遠に。今日のグローバル化したコミュニケーション世界で都市の死亡を言う者はその言葉を飲み込まねばならないであろう。都市とその地域は,資源,制度的基盤,近代的技術,コスモポリタン的価値の適正な混合物を提供し,21世紀の知識集約社会に対し,孵卵器,推進者たり得ることができるからである。

 学習する都市や地域の単一の定義があるわけではないが,その概念は,イノベーションを促進するイノベーションと組織についての理論を導くものである。学習する都市や地域が共通して持っているものは,イノベーションと学習を開発の中心に置こうとする傾向が明らかなことである。これらはすべて生涯学習,イノベーション,情報,通信技術のいろいろの組合せを通じ経済活動を維持しようとしている。

 「学習する都市」の「学習」という言葉は個人および組織の学習を包含している。個人の学習とは個人による正式,非正式を問わず,知識,技術の習得と理解を指している。それに単に初期の学校教育や職業訓練でなく,生涯に亘る学習を意味することが多い。学習により,個人は賃金の増大,雇用機会の改善を受け,社会もより弾力的で,最新の技術を有する労働力を有す利益を得る。


競争力の習得

 しかし生涯に亘る学習は学習都市または地域を築くのに必要な一部に過ぎない。世界的なまた国際的経済に対処することも重要である。このことはその地域の競争力を高めるため,ほかの戦略も必要になるということを意味する。この試みは個人の学習をより大きな環境に連係させることに外ならない。各機関においてもまた,イノベートし,学習することが必要であり,それをなし得るようにすべきことを自覚している。ネットワークの形成とそこへの参加は重要な要素である。それは,集団の学習と強健さは,生産物,製品過程作業組織についての継続的な情報交換と情報流動に依存するからである。連係は,通常諸々の組織の間で生じる。そこでは安定と信頼に基づいた長い間の関係を有する。しかし,町,都市,地域間そのものの間でも連係は生ずる。

 産業経済ベースから知識ベースへの転換において生じている変化はあるパターンを示している。これについては囲み欄で概観しておいた。そのうえ,学習都市とか学習地域と自認しているものを研究するといくつかの共通の要因がある。


参加は欠かせない

 第1に,すべての参加者は,これはいずれも学習および知識導入を発展の中核にしておく,明白で持続的意思を持っている。公的機関であろうと民間企業であろうと,又,教育研究機関,民間団体,或いは重要な個人であろうと変わらない。事実,彼らの共通目的,同一性,各者間の信頼は都市間で共通の価値とネットワークを作る推進力である。これは社会資本と言ってよく,学習都市の実現に欠かせない。


経験による学習

 学習する都市のもう一つの共通の特徴は,世界的な競争力を持ち,知識集約型の産業やサービス活動を創造しようとしていることである。そして,それらの仕事を地方の学習能力,イノベーション能力,変革能力に基礎を置こうとしていることである。生涯に亘る学習は,それらの正式また非正式の,あらゆる年齢と水準での訓練の中核に存在する。社会的結合と持続性また然りで,これらはすべての学習都市,地域発展の中核である。一定の共通的特徴にもかかわらず,事例研究は,各都市あるいは地域が独自のミックスを構成していることを示している。あらゆる良いレシピのように,量も内容も地方で入手できるものに合わされている。いろいろの社会・経済的環境が,歴史,文化,環境の特性が考慮に入れられている。いくつかの異なる戦略とはどんなものであろうか?各都市,地域はいかにして自己の発展と変革のモデルを築いているのであろうか?先端の情報,通信技術を知ることは重要なことであろう。しかし,社会各部門間のイノベーション,相互作用,交換を促進する学習戦略を採り入れる能力はより重要である。しかし各都市において,学習とイノベーションによって,世界市場で競争力を持つことがゴールであり,新しい世紀に向けてその能力を具えることが目標である。

 ドイツのイエナ市は経済的,文化的移行の例を提供している。1989年のドイツ再統一以前,イエナ経済はイエナが東ドイツにあったということからばかりでなく,カールツァイス光学器機複合体の強い影響を受けていた。この技術的基盤は明らかに今日の学習都市への触媒として有用であった。ツァイス複合体は全従業員68,000人の中23,000人を現地で雇った。現在ではその数は4,500人に減った。しかし今や新しい開発戦略がイエナをハイテク地域に押し上げており,約200社がすでに同地に進出している。バイオテクノロジー部門が1,000人を雇用し,なお拡大している。このような素晴らしい経済的,文化的変革はすべて注目すべき速度で起こった。ちょうど6年間に,フリードリッヒミラー大学はその学部の85%を入替え,多くの教授は今や以前の西ドイツから来ている。初等,中等教育は大変革した。チューリンゲンの全ての教師約32,000人は,専門的および政治的に評価された。

 学習地域のフランスの例はポワチエ周辺である。この全くの農村地帯は,その発展見通しを通信技術,マルチメディア,高技能労働力により達成しようとしている。「将来展望」と名付けられたテーマパークは研究と開発を,教育と余暇とに統合しているが,その戦略の核心である。これまで,パークは70社を誘きつけ,パーク内に1,500の雇用を作り,地域全体では間接的に12,000の雇用を作った。それはまた,大きな観光施設で世界中からの訪問者を招いている。開発の大部分は公的資金で賄われている。

 スカンジナビアの2カ国にまたがるエレソン地域は,伝統産業から21世紀の知識集約的産業に移行するよう図られている。これのシンボル的通路は,2000年にデンマークのコペンハーゲン市とスウェーデンのマルメをつなぐ16Kmの橋とトンネルの完成で実現するであろう。この国境地帯は,研究機関,第一級の教育機関,技術的専門知識のスカンジナビアにおける最大の集積を提供するであろう。即ち,17万5,000の企業が地域の280万人の人口から140万人を雇用することになろう。エレソン海峡の両側の地域的イノベーション組織は幾分違っていて,スウェーデン地域とデンマーク地域の協力は期待された程強くない。新しい橋は2つの地域を統合し,これら両地域を有効に一つとし,恐らく研究,教育また投資政策で友好関係の樹立を不可避とするであろう。

 スペインのアンダルシア地域は他の種類の開発モデルを提供している。アフリカに面し,温暖な気候,古代からの海港,広範な農業,豊富な文化遺産,この歴史的なメルティングポット,観光的魅力の恩恵は,ここをスペインの最も豊かな地域の一つにはしていない。同地は今や意識的にその活動を多様化しようとしている。通信,技術,研究への最近の投資は,よく整備された大学やセビリア,マラガ,カディス,コルドバ,グラナダのような都市の存在とあいまって,新会社や企業を誘きつけている。地域的協力と都市間のネットワーク化は,この学習都市地域の創出に重要な手段であることが証明されつつある。

 欧州における最大の再開発プロジェクトの一つは,ロンドンの東,ケントのテームズ側地域にある。約40億ポンドが30年以上に亘ってこのかつての工業地帯を変えようとして,投資されてきた。この地域には,かつて15,000人を雇ったセメント工場の本拠地が置かれていた。必要なインフラストラクチャーと商業的発展を計画するほかに,鉄道センターはヨーロッパ大陸との高速度の結びつきを実現するであろう。3万の新しい住宅と各種オフィスは住民を呼び,5万の新しい従業員はロンドンからもすぐ来られる。ケント州議会はこの計画が真の学習地域を作ることをかなり強調している。例えば,約20の小学校と10の中学校が民間部門の後援で建てられることになっている。以上の例は,技術的に有利な分散化論が強い場合すら,グローバル化の時代には「場所」はもはや重要でないという一般の考えに,冷や水を浴びせるものである。地理的および地域的側面は重要であり,今後もそうあり続けるであろう。場所というのは,学習都市や地域の概念を支えるものである。何故か。地理的に定められた労働市場,地域的慣習,規範,価値を共有することには多くの利点がある。供給者,顧客,競争相手すらとの緊密な交渉は利益をもたらす。Michael Storperは地域が核だとの研究で,「取引のない相互依存」を語り,地域が,学習とイノベーションの「供給要因」の中で重要であると説いている。学習とイノベーションの社会的またしばしば暗黙的な性格を考えると,パートナーが頻度の多い交渉ができ,形式ばらない情報交換が容易にできる程,近い所にいる場合,最上の活力がしばしば生まれることは驚くべきことでない。

 上記の幾多の例が示しているように,同じ場所に集まっている会社や知的機関は文化を分かち合い,社会的相互作用と学習過程を促進する理解を分かち合う,極めて多くの機会を持っている。これは時間と金の節約になる。これは関係者間の信頼を高める助けとなり,各社の便宜主義的行動を抑える。イノベーションに基本的な,正しい知識の流れも促進されることになろう。グローバル化は都市,地域,国家を外的ショックや経済的リストラクチャーに弱くするであろう。しかし,すべての都市と地域は地域的経済発展を進めるに使える資金を有している。その資金は,短期的な利益より,長期的目標を強調する持続的地域発展戦略の一部として用意されている。学習社会および学習都市または地域の小宇宙では,どの機関も知識を独占しない。このことは教育および職業訓練に深い意味をもっている。それ自身,生涯学習のための機関でなければならず,知識集約的経済組織に必要な高水準の集団方向づけとチームワークを提供しなければならない。また他の「地域的知識組織」との新しいパートナーシップを積極的に模索しなければならない。

 学習都市戦略は間接的にしか最も差し迫った高失業や社会的価値喪失に言及していないが,開放的武器として,それらはこれらの問題の克服の一助ともなるであろう。


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