|
シアトルにおける世界貿易機構(WTO)の関係閣僚会議とミレニアム貿易ラウンドは抗議行動に包まれた。その一部は,この多国間貿易システムといっそうの貿易自由化の将来に暗雲を投げかけた。WTOの解散要求さえあった。抗議の渦は,ある面では,その設立会議をとりしきる名誉を私が担ったWTOが世界の多国間システムのなかで最も重要な組織であるとする議論を裏付けるものであった。最もいかめしいWTO反対論者でさえ,一部はこの事実を認めた。彼らは,WTOが各国間の貿易に紛争解決のルールと透明性のシステムをもたらすうえで決定的に重要であることを認めている。
しかし,WTOは一般に最強国の側に立っていて,来るべきミレニアム・ラウンド交渉での予定される議論もその方向に歪んでいるとする,しばしば一見したところそれなりの知識をもったグループからの非難はどうだろうか。これは実に馬鹿げている。ついこの前の夏,WTOはアメリカの輸出の4分の1が偽装された補助金を得ていて,不公正な行為であると指摘し,アメリカに14カ月以内に税法を改訂するように警告した。EUに対しても同様の断固としたアプローチがとられている。従って反WTOのこうした議論には,根拠がなく,反論が可能である。WTOは非常にバランスのとれた組織であり,加盟134カ国のうち100カ国は,最も開発の遅れた29カ国を含む開発途上諸国である,というのが事実である。未加盟国は加盟を希望しており,それには十分な理由がある。
新しいミレニアム・ラウンドは,「歪められている」どころか,積極的な一里塚となる可能性がある。このことは,まずなによりも,独立してはいるがまだ貧しい諸国に当てはまる。これら諸国は,交渉と宣言だけの公正な枠組みに基づいて世界の貿易システムに参加することは困難である。非常に多くの,なかには最も優れた専門家でさえ,病気とその治療方法を混同する傾向にあることが,私には信じられない。彼らは,明らかにグローバリゼーションの概念に反対して,それをWTOとともに否定的に括弧のなかに入れてしまう。
グローバリゼーションを包括し,推進する
実際にはWTOは,拘束力のある多国間ルールの枠内にグローバリゼーションを包含しようとしている。これこそが,相互依存的な世界の恩恵が公平に共有されるための保証である。今日,こうした努力は,二国間交渉によって定められた権利や更にはより強力な国による一方的な権利の行使よりも,各国の真の主権を強化することに,すなわちみずからの運命を左右するみずからの能力を強化することに貢献している。
GATTの発足以来のこの50年間,貿易は世界の経済成長の主要な推進力であった――これはいくら強調しても強調しすぎということはない。それは,先進工業諸国と開発途上諸国とを問わず,すべての国の繁栄と開発と生活水準の向上に大きく貢献してきた。1951年以降,世界貿易は17倍に拡大し,世界の算出高は4倍になり,人口一人当たりの世界の所得は倍増した。市場の開放は,開発途上諸国がこのわずか30年間で輸出を倍増させることを可能にした。
事実,世界銀行やIMF,WTOなどによる最近の多数の研究が明らかにしているように,経済を開放してきた――我々,貿易「自由化論者」が一貫して推進してきたルールに従って――開発途上諸国は,1970年代と1980年代に年間4.5%の成長率を実現した。これに対して,貿易を閉ざすことを選択した諸国の年間成長率は0.7%以下だった。豊かな国の場合も結果はまったく同じである。年間成長率は,開放経済では2.3%,閉鎖経済では0.7%である。全面的に輸入に依存する開発という考え方がもはや信用されないのと同様,保護主義が完全な失敗だったことはいまや証明済みである。
WTO批判派の多くはものごとを誇張する傾向にある。ミレニアム・ラウンドは,いったん始まれば――私はこれを期待する――おそらく極めて重要なものとなろう。しかしそれは,ウルグアイ・ラウンドほどは革命的ではない。ここでの議論はグローバルな相互依存のプロセスを更に促進する。サービスに関する合意(GATS)は,「内国待遇」――つまり外国企業を国内企業と同等に待遇すること――をすべての分野で義務化するところまで推し進められるべきである,とする考え方があるが,これはまったくの幻想である。それでも貿易を行う諸国は,WTOを通じて,相互に協力しあいながら生き延び,繁栄する機会を与えられる。まもなく始まろうとする重要な交渉ラウンドのすべてにおいて,多国間主義の原則を推進することが我々の任務である。批判はすべて非常に重要である――ただし,我々が多大の努力を重ねて推進してきた極めて重要な多国間方式という赤子を産湯とともに流さないかぎりで。
1999年10月23日付Le Monde紙のPeter Sutherlamd論文をも参照。
|
コラム: 食糧や衣料の価格
国内砂糖産業を支援・保護するアメリカのプログラムは,1980年代初期にアメリカの全消費者に一人当たり年間約15.50ドルの負担をかけた。このプログラムには輸入関税と輸入数量割当が含まれていた。
アメリカ商務省の推計によれば,1988年のアメリカの砂糖補助金は,アメリカの消費者の食糧費を年平均で30億ドル押し上げた。
日本の農民は,1995年に生産額の77%相当に達する援助と保護の措置によって収入を得た。この措置の総額は4兆6,400億円,493億ドルと推計された。小麦とコメの生産において最も顕著なこうした高水準の保護と支援は,日本の消費者を非常に高い食糧価格に直面させている。1995年に消費者が農産物に支払った価格の51%は,世界価格に上乗せされた税金分だと推計されている。
諸研究の結果によれば,これまでにイギリスとカナダの消費者は,輸入制限のために衣料品の購入に年間それぞれ5億ポンドと7億7,800万カナダ・ドルを余計に支払わなければならなかった。
Open Markets Matter, OECD, パリ, 1998年 からの引用。
|
目次
|