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「未来はこれまでとは違う」。これは,アメリカの野球選手でにわか哲学者の「ヨギ」ベーラが,変化する時代についてかつて語った言葉である。今日これは,シアトル関係閣僚会議とその後の貿易システムが直面する挑戦課題について,貿易交渉の担当者が抱く印象でもあるだろう。
意見が対立する分野は驚くほど広い。ある意味で,これは逆説的であるように思える。というのも,一方で貿易交渉の担当者は,いまほど役に立つ手段をもっていたことはなかったからである。WTOは,しっかり確立された,テスト済みの制度である。アジア危機が起こったときも,保護主義に頼ろうとする動きはなかった。農業とサービスをめぐる交渉には,ほかの多数の協定の見直しもそうだが,あらかじめ用意されたメニューさえ存在する。しかも,1996年にシンガポールで定められた前向きの作業プログラムに沿って前進があった。
そうとすると,この躊躇と分岐はいったいなぜなのか? 答は簡単ではないが,問題の一部は全体的な指導力と決意の不在にある。グローバルな貿易交渉における伝統的な指導的役割をアメリカが放棄したことが,おそらくはその一因であろう。加えて,ほかのOECD諸国政府が,WTOに対する一般市民の否定的な対応のいくつかに影響されて,いくらか後退しているという現実もある。WTOは,不当にも,グローバリゼーションの暗黒の邪悪な道具と広く描き出されている。他方で開発途上諸国は,WTOの環境保全等を目的とする提案に深い疑念を抱いている。これは新しい貿易障壁を設けるための,偽装された試みにほかならないのではないか,というわけである。彼らは,自国からの輸出に対する伝統的な障壁を打ち破るための新しい交渉と,これまでの協定を実行するための援助を求めている。
いまこそ,各国政府がイニシアティブと長期的視点を取り戻すべきときである。社会のいっそう広い利害を考慮して,特定の圧力集団の利害にとらわれないようにすることが,各国政府の責任である。我々の社会のすべての関係者に,貿易システムに対する新たな信頼感を植え付けることが必要である。これには,WTOの信頼性を防衛することが含まれる。おそらく困難な仕事であろう,だが実行されなければならない仕事である。
市場アクセスのための障害の除去が次のラウンドでも核心に位置すべきである――この議論には十分な根拠がある。ここでこそWTOとその前任者GATTはみずからの有効性を証明してきた。WTOの経験は,開発途上世界が何よりも必要としている重要な成果を達成する助けとなろう。各国には,重要な交渉の行く末について様々に異なる思惑がある。特に農業の分野でそうである。しかし,貿易障壁の分野がこの先の重要な障害となると考えなければならない大きな理由は存在しない。
市場アクセス交渉は,農業に関してであれ,繊維や工業関税に関してであれ,信頼関係を築くうえで決定的に重要であろう。ここではOECD諸国は,仕事に真剣に取り組んでいること,重要な問題が放置されはしないことを示す,具体的な実例によって導かれるべきである。言い換えれば,すべてが交渉の対象となる,ということである。
WTOの諸協定の実施状況の検討は,いっそう広範な貿易ラウンドに関するコンセンサスの形成のための必要な妥協となるかもしれない。しかしこれには,慎重なアプローチが必要である。結局のところ,ウルグアイ・ラウンドの合意は苦痛に満ちた困難な交渉の結果だったのであり,その多くは開発途上諸国の利害の検討に費やされた。あれこれの協定の内容の再検討は,新しい帰結が最初のそれよりも前進となるという保証を開発途上諸国に約束するものではない――実際,もっと悪くなる可能性さえある。しかし,だからといって実施状況の問題がまったく無視されるといったことがあってはならない。シアトル会議は,特定の実施状況の問題の検討に時間を割いて,適切な結論を引き出さなければならない。可能な限り個々の国の必要性に応じた実施方法を見いだすことが重要である。
ルールと機会
将来の貿易交渉で決定的に重要な第3の問題はルールの制定である。ここには,時として利害の厳しく対立する問題が多数ある。ルール分野は貿易交渉の通常のギブ・アンド・テークの配慮よりも上位におかれるべきだと議論があるが,政治の現実はしばしばこれとは違ったことを物語っている。投資や競争といった問題がシアトル会議の議題に採用されるかどうかは,一部諸国が伝統的な市場アクセスの問題についてとる立場に影響する。
多国間貿易システムの長期的な信頼性と活力の問題が非常に重要である。システムのルールは,長期に亘って有効であるためには,地域的な貿易協定の急速な多様化を含む世界経済の変化に対応でき,しかも最も広い意味での持続的な発展に貢献できるものでなければならない。
ゲームのルールの意識的な精密化に代えて訴訟と紛争解決を通じて貿易政策を推進することは,長続きのするやり方とはいえない。このような紛争解決手段がWTOの厳密性を欠いた不適切な基本ルールに基づいて微妙な国内規則に触れることが多くなれば,それだけ,世論のみならず政策決定者自身をもWTOから遠ざけてしまう危険性が増す。
前兆はすでにある。シアトルとその後の貿易交渉は,信頼性のギャップを埋め始める絶好の機会である。このプロセスの帰結が,新たな貿易制限ではなく,貿易機会の拡大であれば,信頼性の回復は可能になる。貿易と労働の例をとってみよう。WTOでこの問題を取り上げる目的は貿易制限の促進ではなく,労働条件の改善努力であるということが,また推進されるべきは新しい制限の脅しではなく,積極的な誘導であるということが明確にされないかぎり,積極的なパートナーとしてのWTOを前進させることは現実にはあまり期待できない。
かけられているものは非常に大きい。それゆえに,全面的な失敗は政治的に許されない。ウルグアイ・ラウンドが明らかにしたように,大規模な貿易交渉のダイナミックな力は決して過小評価されてはならない。世界の貿易システムを前進させるために,我々は更に10年間待つことができるだろうか? おそらくできまい。シアトル会議のいかんにかかわらず,グローバリゼーションは急速に進行しよう。各国首脳は,その名にふさわしいミレニアム・ラウンドを開始するこの機会をつかまなければならない。そして,経済的に弱い国の利害が重視されるならば,結果は我々すべてにとって肯定的なものとなろう。
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