|
不法な移民と地下経済を同一と見る傾向がある。又,移民の流れを統制することがその両者への解決とする傾向が見られる。これらの考え方は間違っている。
現在,OECD諸国の移民政策論議は不法移民に関心が向けられるようになったので,政策立案者は特に慎重でなければならない。もっぱら,移住そのものの法的位置と不法移民規制のために採られる肉体的統制に集中するのでなく,秘密裡の移住の真の経済的意味を綿密に調べることが大切である。不法移住が地下経済を助けているのだろうか。そしてどの程度不法移住者の雇用が国民の就業と賃金に影響するのだろうか。
これらの疑問に答えるためには不法な移住が実際どのように定義されているかを知ることが一助となろう。範囲は極めて広い。ある国に不法に入国した多くの者とは別に,多くの移民は,ある国に合法的に入国したが,そのビザを超えて滞在したり,滞在許可を更新していない。又このグループには,季節的労働者で契約が切れても帰国せず,収容所入りを拒む者がいる。
何時不法移民となり,終わるかは,各主権国家の定めることである。そして各国の出入国制限や,労働市場への参入を定める法的条件は,国による差はあっても法規を通じてである。制限と一定の寛容性が同時に存在しないと,不法移民というようなことはあり得ない。アメリカやカナダのように移民に開放的な国では,不法入国は移住への一つの選択肢のように思われる。今日のヨーロッパのようにより制限的な国では,不法入国は家族再建の場合を除いて唯一の選択といえる。
滞在期間は境界線を引く役割をも果たす。移住はある日には合法的な,次の日には非合法となり得る。多くの移住者にとって,不法とは合法的地位を獲得するための一時的地位である。フランスでは1960年代,労働契約を保持する不法移民が,その状況を合法化し,労働許可を獲得した。しかし,不法はまた永久的状態になりかねない。というのは合法性が与えられないからである。あるいは,ギリシャ,イタリア,ポルトガル,スペインで最近行われたように一回限りで繰り返されることはない措置として合法化が行われたためである。
未登録移民問題の検討は移民個人に限られるべきでない。むしろ複雑なネットワーク組織に対処すべきである。労働者移動経路の組織は非常に大規模である。1998年アメリカの入国帰化局は約1万の労働者を密入国させた組織を暴いた。同年
200万枚偽造の身分証明書がロサンゼルスで押収された。
不法移民が極めて多様なことは,移住の人道的又は犯罪的側面に対する正確で迅速な判定が不可能であることを意味する。又,この多様性は,不法移民の数を正確に測定することを難しくしている。一部OECD諸国は不法移民数の公式数字を公表している。その数はアメリカで400万から500万と測定されており,人口の約1.5%である。この数は,ギリシャで約30万(3%),イタリア(0.5%)
となっている。しかし,非合法人口の測定はデリケートな作業で,法的定義と統計的手法の問題を含んでいる。それでも,多くの評価が行われているが,これらの多くは正に「当てずっぽう」であり,適当な科学的調査における統計手法によるものではない。政治的情勢が関わってくる場合,選挙期間中や外国人嫌いの風潮があると,意図的な過大評価がされがちである。また,一般にそう信じさせるよう歪められ,移住管理政策の信頼性を保とうとされる。いずれにしても,そのような大まかな測定は,困難で不完全ではあるが,科学的調査手続きを使用した統計的計量努力とは同一視できない。
雇用者の特権
不法であることが移民の意図的な選択であることは少ない。合法化の機会が訪れた時,基準を充たす人の多くは熱心に申請を行おうとする。事実,不法移民の利益は雇用主の側に帰しがちである。雇用主は,必死に職を得ようとし,ほとんどの場合,その地方の水準より低いわずかな賃金で働く用意のある移民の不法状態から利益を得ようとする。不法労働者の雇用は,雇用主に,福祉貢献やその他の賃金以外のコストの支払いが少なくなるといった利益をもたらす。不法移民の「福祉の魅力」は労働者より雇用主において遙かに大きい。労働者の不安定な状態と交渉能力の低さのため,長時間労働とか,各種ボーナスの不払い,時には賃金の不払いといった形での差別慣行に極めて弱い。
未登録の移民にとって地下経済は唯一の職を探せる方法である。しかしこのことが,認められていない外国人労働者が地下経済の存在する理由であるということを意味するわけではない。そのことを説明するため,人は正規の経済分野における重い租税負担とか,労働時間規制といった制度的硬直性による一連の理由を挙げることができる。社会的態度もまた一つの要因である。南欧の一部国家,例えばスカンジナビアの諸国は大きな不法部門に寛容である。しかし,地下経済の存在が,特に不法労働者移送ネットワークが働いている場合は,不法移民の雇用機会を増やすことは確かである。
賃金支払いについて,不法移民は直接的に影響するであろうか,どうもそうでないようである。Douglas Masseyによるアメリカとメキシコにおける4つのメキシコ人社会の観察による研究は,不法状態は必ずしもそれが低賃金の理由でなく,間接的影響を持っていることを示している。断絶や短期滞在と重なって,又,不法移民が低賃金部門が職を求める傾向と相まって,不法及び合法的移民も共に,賃金水準を下げている。フランスで1960年代時限的合法化が行われ,雇用主は両様の戦略を採った。彼らはすでにフランスに存在し,合法化を待っている外国人を雇い,それでは労働力の必要を充たせない場合は,合法的移民をも採用した。雇用主のリスクは,不法移民が間もなく必要な承認を得るまで限られたものであった。しかし,非常に長くかかる正規雇用のための採用の法的制度はしばしば無視され,移民は最初に提供された職に就くが,その職は通常賃金水準の最底辺である。その法的地位が定まると強い産業成長と労働不足の中で,彼らは困難が少なくなり,労務契約が最低賃金に結びついている合法的仲間よりもより高賃金の職に就くことができるようになった。
地方人への圧迫
ある社会の最も弱い労働者の賃金と雇用に対する不法移民の影響は極めて微妙である。例えば,最低賃金を取り上げてみよう。最低賃金あるいは他の保証された所得を上げることは事実上,非合法移民に拍車をかけるように作用する。それは,国籍を有する者へのより高い最低賃金は,雇用主が不法移民を雇う魅力を増やすことになる。これは,合法的移民と国内の低賃金所得者にも同様の押し出し効果を持ち,特に失業の高い場合は,彼らの労働に関る優位性を削減し,彼らの雇用の安定性を妨げる。これは,そのまま新移民の就職を制限する政策を支持する議論となる。
労働市場における競争の問題は不法移民の社会コストとの関連で考えなければならない。財政的には,未登録の外国人労働者とその家族は,コストどころか,その国の財政への圧迫とはなり得ないと言えるであろう。不法移民に関連した唯一の真のコストは,例えば学校教育のように地位の如何にかかわらず,提供されるサービスである。しかし無料の福祉サービスが不法移民を誘引するという考えは,多くの国で不法移民はそのようなサービスを容易には受けられないので,議論の余地がある。又,不法移民が国境管理に関する全てのコストに関っているとは考えられない。要約すれば不法移民がその国の財政への負担となるためには,移民抑制コストが財政及び社会的支出と収入のバランスを超えなければならないが,それは起こりそうもないことである。
実を言えば,労働市場研究はこれまでのところ,経済分析の主題として不法移民を認識し包含する特有なものを見つけられればよかったのである。それは恐らく,特にアメリカでの不法移民研究の大部分が,不法移民の雇用を技能のない移民の雇用と同一視することで終わったからであろう。この両者の相違は,問題に対処する政策立案者に,移民の未登録という状態それ自身に対する統制に集中するより,不法移民が賃金と労働市場へ与える影響により関心を持つべきであることを,示唆している。
目次
|