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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.221/222


 OECD Observer 日本語版

金融危機を管理する:
公共セクターと民間セクターの各々の役割

NGAIRE WOODS,
UNIVERSITY COLLEGE, OXFORD UNIVERSITY

 1990年代の終わりになって,世界中で,公共セクターが民間セクターの救済を求められることが多くなっている。問題の発生に備えて,両者の具体的な役割を定めておくべき時がきたのだろうか?

 この10年間に亘ってメキシコ,東アジア,ロシア,ブラジルなどで生じた金融危機は,各国の政策立案者の意識を,新しい種類のグローバルな経済問題に向けさせている。民間資本の流れが非常に不安定になっただけでなく,かつてなく広い範囲の投資家の利害を反映し,ますます多様な借り手に影響するようになった。このことは,多数の国を国境の外で起こる出来事に触発される危機にさらすことになる。その結果,金融危機に際しての調整と対応の望ましい速度と性格についてのみならず,介入と調整の負担を誰が引き受けるべきかについても,政策立案者たちの間で新たな論争が始まっている。

 1990年代の金融危機に対する公的介入から生じた問題で,最も議論が分かれるのは,公的資金によって民間セクターを救済すべきか否かである。先進工業諸国の納税者は,民間セクターで下された不適切な投資決定のつけを払わされていると感じている。更に,多くのエコノミストは,救済は,投資家の不適切な決定を誘うことによって将来の危機の可能性を更に大きくしていると指摘している。救済によって提起される更に大きな問題は,危機のコストを最も多く負担するのは誰か,である。現行政策の批判者たちは,債務国国民の貧しい層が,金融危機による社会的コストと不釣り合いに多く負担していると主張する。これが,金融危機解決のための調整の負担を民間セクターにより多く引き受けさせるべきだとする議論の一つの根拠となっている。

 公共セクターと民間セクターの間の役割分担は,現在は国際金融機関によって調整されている。それでもそれぞれの介入の帰結は不均等である。 1990年代までのIMFによる介入は,債務国が抜本的な調整プログラムを実施し,対外債務返済を順守することを優先させてきた。例えば,IMFは民間債権者への返済が滞っている加盟国には融資を拒否した。これは事実上,債務すべての返済を続ける場合にのみ,債務国政府はIMF資金を利用できる,というに等しい。もちろん,IMFにとっては,民間セクター債権者の多様な集団と各国政府の行動を調整しようとするよりも,援助を求める債務国政府に寄りかかる方が遙かに容易だった(これは今も変わらない)。

 しかし,1998年と1999年にIMFは新しい役割を主張し始め,延滞分に対しても融資を行うようその融資政策を拡大した。これにより,債務国政府が民間債権者と交渉する余地を拡大した。民間セクターに危機管理の負担をより全面的に引き受けさせるための追加的な手段も使われるようになっている。

 一つの解決策は,民間セクターを「取り込む(bail-in)」こと,つまり各国への融資期間を延長するよう債権者に圧力をかけることである。例えば,韓国ではG7の中央銀行とIMFは,より包括的なリストラクチャリング協定の交渉を韓国政府に可能とするために,欧州と日本とアメリカの銀行に対してそれぞれの融資を短期間ロールオーバーするよう強い圧力をかけた。しかし,IMF幹部によれば,韓国のケースは「簡単」だったという。「問題となったのが基本的に銀行間信用だけで,これらの銀行を一堂に集めてロールオーバーとリストラクチャリングを実施するよう各国の中央銀行に多少の道義的圧力をかけさせる」だけでよかったからである。より根本的には,韓国の例は「取り込む」ことと「救済しない」ことの相違を明らかにする。危機に見舞われた借り手に対して民間債権者に非常に高いコストでつなぎ資金を提供させることによって,国際金融機関は自分自身の負担は軽減したが,調整の負担を借り手から貸し手に大きく再配分することはしなかった。これに対して,債権者を「救済しない」より強力な関与は負担の再配分を伴う。これはほかのケースでは生じたことである。

 まったく異なった解決方法が,関係する信用手段や債権者が極めて多様だったパキスタンとエクアドルの危機に際して考案された。これらのケースでは,両国政府が国際機関の承認を得て両国の公債償還義務の事実上の不履行を宣言して,債権者に条件の再交渉を強いた。ここで作り出された先例は,ある種の支払延期ないし非公式の「据え置き」を通じて金融危機を解決することである。これは,少なくとも,その国の危機が国際金融の安定性を脅かすおそれのない比較的小さな国に適用される。しかしこのような危機の解決方法は,特にアメリカの民間セクターから激しく反対された。だが興味深いことに,現在のワシントンの空気は,危機解決のこの方法に積極的であるように見える(もちろん,裏口でのことだが)。この点をもう少し詳しく検討してみよう。

 「据え置き」に代わる方策は,IMFや民間セクターが危機に直面した国に緊急融資を行って,債権者に過度に急激な資金引き上げを思いとどまらせるインセンティブを与えることである。民間セクターによるそのような融資は,政治的には好まれるとはいえ,非常に多くの問題をはらんでいる。民間の緊急融資は,1990年代末にアルゼンチンやインドネシア,メキシコを対象にして組織された。しかし,銀行がこの種の融資をすべての国,特に貧しくて条件の悪い諸国に行うことに消極的なのは明らかである。

 更に,こうした融資とほかの信用手段との間の関係も明確にされていない。アルゼンチン,インドネシア,メキシコの3カ国がすべてIMF融資に深く依存し続けていることも指摘されなければならない(アルゼンチンは2000年3月10日に72億米ドル,メキシコは3月17日に1兆2,160億米ドル,インドネシアは2月4日に50億米ドルの引出権を承認された)。最後に,銀行業や金融業のリスクという側面からすれば,銀行はこうした融資についてダイナミックなヘッジング戦略を採る可能性が大きいという議論も成り立つ。それはある国に対するこれら銀行の債権残高を結局は同じままに残し,危機が金融の安定に及ぼす危険性を軽減するどころか,かえって深化させる――こうして公的介入が必要となる。

 信用供与のためにIMFを利用し続けること(例えば,最近創設された「緊急融資」制度を通じて)もまた問題が多い。それは,上述のように,民間セクターの「救済」であるとして政治的に批判されている。更に,IMFが条件を満たすすべてのケースに(そしてシステム危機という観点から対処しなければならないケースにも)そのような融資を拡大すべきだとすれば,アメリカその他の出資国は更に多額の資金を提供しなければならなくなる。これは,アメリカ議会におけるIMFに対する反対と敵意の現在の水準を前提とすれば,ほとんど考えられないことである。

 それでは,前進する方法はなにがあるか? 危機に際してある種の支払延期を実施するために,様々な措置の寄せ集めが提案され,真剣に議論されている。こうした寄せ集めの中で最も広く議論されているのが「集団行動条項」を公債約款に含めることである。これは,無数の複雑な法的行動を発動することなしに政府が公債条件の再交渉を行うことを可能にする(現在では,何らかのリストラクチャリング従って何らかの再交渉によって相互債務不履行および弁済期日繰上約款を発動させるためには,公債所有者全員の同意が必要とされることが多い)。

 集団行動条項に伴う問題は,すべての国の政府がこの条項をすべての公債に含めることを約束しない限り,それは信用のコストを上昇させると多くの国の政府が恐れていることである。この理由で,新規台頭市場国政府のいくつかは,民間セクターとともにこのような提案を拒否している。賛成論者は,コスト上昇の証拠はほとんどないと主張している。そのさい指摘されるのが,アメリカ式の政府公債に対してイギリス式の政府公債がすでにある程度までこの保護措置を講じているにもかかわらず,その結果として特別のプレミアムはついていないことである。賛成論者の議論によれば,政策レベルでは,そのような追加的プレミアムを回避する方法は,G7をはじめとするすべての国の政府が通常の日常的なやり方としてこの種の条項をそれぞれの公債に含めることである。しかし,現在のところ,このような措置に対する技術的な反対論が賛成論を圧倒している。

 更に野心的な提案は,IMFの合意条項(特に第[2b条)を改訂して,ある国の支払延期を承認する法的権限をIMFに与えることである。これは,一種の国際的な破産手続きの開始を導入するもので,「強力な」据え置き措置である。しかしこの提案は必要な政治的な支持をまだ獲得していない。IMF加盟国のいくつかはこれを承認しているが,アメリカはかなり強硬に反対である。IMF条項のこのような変更には,アメリカの合意が政治的に決定的に重要であり,制度的にも不可欠である。

 それでもIMFは,その限られた制度的権限にもかかわらず,エクアドルやパキスタンの場合のように,非公式の支払延期を含む債務処理にすでに参加している。そしてまた,滞納国に対する融資や,舞台裏での圧力は,危機管理におけるIMFの武器の一部となっている。将来を展望すれば,財政的制約がIMFをこの方向へと更に押しやらないとは想像することも困難である。特に,IMFがすでに,危機に直面する債務国のすべてにつなぎ融資を行うのに十分な資金をもっていないことを考えれば,それはなおさらのことである。現在の資金規模では(ほとんどのケースで)ある種の据え置きや再交渉という形で支援を提供できるだけである。

 これらの長期的なトレンドの帰結は,民間セクターにとっては多面的である。投資家には,何らかの形による支払停止が始まる前に資金の引き上げを試みることができるように,借り手政府の財務状況をよりいっそう慎重に監視することが強く求められよう。これは,このような資金引き上げによって危機の表面化が極めて容易になる,ということを意味する。加えて,正式の制度化された据え置き手続きが存在しない場合,債権者は自身の集団行動問題の解決にいっそう断固とした決意をもたなければならない。言い換えれば,民間セクターの行為主体は,危機を誘発し,深化させるような方法で資金引き上げを行う個別的なインセンティブを押さえるために,協力し合うことが必要となろう。より秩序だった解決に参加する集団的インセンティブを最大化するために,自身を組織することが必要になる。しかし,これまでの経験が示唆するところによれば,みずからを組織するためには,投資家は当局からの絶え間ない強力な圧力を必要とする。


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