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 OECD Observer 日本語版

コーポレート・ガバナンス:市場の力が果たす役割

IRA M. MILLSTEIN
SENIOR PARTNER, WEIL, GOTSHAL & MANGES LLP

 コーポレート・ガバナンスの経済的な役割――およびガバナンスの改善――に対する関心が,20世紀の最後の10年間に世界中で顕著に高まって,現在に至るも衰える気配を見せていない。その理由は多くある。まず,あらゆる形態と規模の企業が経済と社会の領域を組織するうえで支配的な役割を果たすようになっている。そして,巨大な多国籍企業は,いまやある者にとっては,各国政府の多くよりも遙かに強い影響力をもっている。また,財貨とサービスの流れ,そして――更に重要なことに――投資資本の流れに対する規制障壁が劇的に低下している。それから,非常に巧妙になり,膨大な資金を擁する株式投資家が,効果的なガバナンス(株主の権利,企業の透明性,経営の説明責任)を投資リスクの低さに関連づけるようになって,ガバナンスの改善を求める市場圧力が高まっている。最後に,アジア危機後,国際的な政策立案者たちは効果的なコーポレート・ガバナンスが低コストでがまん強い株式資本へのアクセスにつながることを認識するようになった。

 こうした流れのなかで「コーポレート・ガバナンスのグローバルな収斂」をめぐってアカデミックな論争が生まれた。グローバルな収斂に疑問を表明する側は,議論を以下のように組み立てる傾向にある――すべての企業,すべての国が単一のコーポレート・ガバナンスのルールを採用するのか,それとも個々の企業や国はそれぞれの社会に固有の価値と文化を表現する多様性に富んだやり方に従い続けようとするのか? 当然,このような複雑な問題を,明快ではあるが極端に単純なやり方で組み立てることは,議論を深めるよりも議論の参加者を両極分解させる。そして,このような問題ではしばしばそうであるように,真実は両極端の間に期待される。グローバルな現実はこうである。収斂とは効果的なコーポレート・ガバナンスの基本要素の共通の理解と受容へと向かう動きを意味するとすれば,収斂は進行しつつある。それでもなお我々は,おそらく,すべての国とすべての企業が同一の法的,行政的枠組みのなかで同一のガバナンスのルールと行為を採用すると考えることはできないであろう。絶対的な一致は,不必要であり,およそ健全とは言えない。

 私見では,ガバナンス原則の収斂とガバナンス行為の多様性は矛盾するものではない。収斂とは,私にとっては,ガバナンスの各国のルールと行為が共通の国際的理解へと向かう現に進行中の動きを指す。市場の力に触発されてそれぞれの国と企業は,低コストの資本を引き寄せるために,企業の透明性と株主の保護を更に強めようとしている。コーポレート・ガバナンスのガイドラインやベスト・プラクティス規範の多彩さは,収斂と多様性の両方を強調している。これらのガイドラインやベスト・プラクティスの相違から,各国をそれぞれ別々にしている固有の国家的状況と,その背後にあってより根本的な相互運用可能性を示唆することの多い諸原則の両方を検討することができる。

 OECDの「コーポレート・ガバナンスの諸原則」は,各国の枠組みと文化の相違を尊重しながらも,その背後にある一連の共通の原則を明らかにしている。この「諸原則」はコーポレート・ガバナンスに関するOECDビジネスセクター諮問グループの報告書,「グローバルな市場における競争力の強化と資本調達(Improving Competitiveness and Access to Capital in Global Markets)」から引き出された。この報告書のもとになったのは,国際的なビジネス指導者や機関投資家との一連の討論である。諮問グループは特に,文化とビジネス環境の多様性にもかかわらず,どのような保護措置が国境を越えて高く評価されているかを明らかにしようとした。

 報告書は以下の諸点を明らかにした。ガバナンス・プラクティスは,変化する諸条件に合わせて常に発展しており,今後もこれが続くと期待される。企業と行政の行為は国や文化により大きく異なっており,コーポレート・ガバナンス・プラクティスは,所有権と規制の構造,ビジネス環境,競争条件,企業のライフサイクル,その他無数のファクターの相違に応じて変化している。それでも,こうした相違にもかかわらず,各国からの参加者の意見は,ガバナンスの基本的な共通の諸原則を定式化することは可能で,それぞれの国や国民,企業が利用可能な株主資本を求めて競争するにつれ,こうした基礎のもとでの収斂はありうる,という点で一致した。資本を求めるグローバルな競争が激化するとともに,投資資本が効果的なガバナンス・プラクティスを採用する国民経済や企業へと通じる道に従うようになるのは当然の理である。そのような行為には,許容可能な行政的インフラストラクチャー,説明と開示の基準,十分な投資家保護,経営陣の独立した責任ある監督を可能とするような取締役会の行為などが含まれる。

 ビジネスセクター諮問グループのメンバーは,企業の使命をめぐる哲学の相違についても検討した。その結果,効果的なガバナンスの最終的な目
的は企業を成功に導くことである,という点で一致した。競争に勝つこと,資本を引き寄せること,投資家に有利な見返りを提供すること,こうした必要性が公開取引される企業すべての市場における現実である。これは,企業の目標として社会が何を押しつけようと変わらない。雇用の創出,納税,財貨とサービスの提供,国民消費への貢献,株主への利益の還元など,企業の主要な目標が何であれ,企業は成功しなければならない。そして,成功するためには,有利な金利で資本を調達し,効率的で説明可能なやり方で事業を遂行しなければならない。

 ここからコンセンサスの派生的論点が一つ出てくる。ある国ないし個々の企業が株主に見返りを提供することを目指さない企業目標を採用している場合,そのような「多様性」はそれが開示される――従って投資家が情報に基づいた決定を下せる――限りで結構なことである。ある国のシステムがときとして株主の利益を犠牲にして従業員の雇用確保を重視する,あるいはある企業が法律の求める以上の社会的責任を引き受けていて,このことがコストを引き上げて本来可能な利益を減少させている,といったことが投資家に明らかになれば,市場はそのような投資にそれにふさわしい格付けをすることができる。このレンズを通してコーポレート・ガバナンスを見れば,効果的なコーポレート・ガバナンスの基本要因にほとんど異を唱える余地がない。

  • 公正さ:株主の権利保護と,資金提供者との契約の履行可能性を確実にする。

  • 透明性:企業の財務状況に関する適切な情報のタイムリーな開示を要求する(企業の所有構造に応じた,国際的な会計基準と比較可能な開示要件は,この面で有益である)。

  • 説明責任:ガバナンスの役割と責任を明らかにし,経営上の利益と株主の利益を整合させる任意の努力を支持し,客観的判断が可能な取締役会によって監視する。

  • 責任:社会の諸価値を反映する法律や規則に企業を確実に適合させる。
     

 私にとって以上が,国境を越えて受け入れられているコーポレート・ガバナンスの核心的価値であり,これらの価値が表現されている限りで収斂を見ることができる。しかし,それらの表現方法は,各国が――そしてある程度まで個々の企業が――決めることである。市場が求める投資家保護の要求は,各国の「コーポレート・ガバナンスにおけるゲームの規則」の収斂を促進し続けるであろう。OECDの「コーポレート・ガバナンスの諸原則」――この4つの核心的価値を拡大したものだが――は,特に企業の業績とガバナンスに関する情報の透明性と投資家に対する企業の説明責任に関して,加盟各国がそれぞれの法律システムと社会的期待を再検討し,基準の共通化へと向かう動きを促進している。


 .諮問グループはOECDの正式の下部組織を構成するものではなく,そのメンバーは個人の資格によるボランティア参加である。諮問グループのメンバーは以下のとおり。Michel Albert(フランス),Sir Alan Cadbury(イギリス),Robert E. Denham(アメリカ),Professor Dieter Feddersen(ドイツ),Nobuo Tateisi(日本)。Ira M. Millsteinがグループの議長を務めた。

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