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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.221/222


 OECD Observer 日本語版

ニューエコノミーを人権に役立たせる

MARY ROBINSON
UNITED NATIONS HIGH COMMISSIONER FOR HUMAN RIGHTS

 ニューエコノミーは全世界で人権を推進することができる。この可能性をどうやって現実化するかが重要な課題である。

 OECDフォーラム2000のテーマ――「ニューエコノミーにおけるパートナーシップ」――は,一見したところ,人権の問題とは無関係であるように見える。だが我々は,人種差別と男女の不平等が何百万人にとって毎日の現実であり,拷問や恣意的な処刑,女子どもの人身売買が多くの国で今なお日常茶飯事である世界のなかで生きているのである。対処されるべきこうした深刻かつ不断の違法を前にして,人権活動家はなぜニューエコノミーについて議論しなければならないのか?

 私はこう主張したい――不寛容と抑圧の悪と戦う努力はこれからも強化されなければならないとしても,我々はグローバルな経済が人権の享受に及ぼす影響の拡大や,パートナーシップが人類すべてにもたらす恩恵の可能性を過小評価すべきではない,と。この可能性を現実化し,ニューエコノミーが提供する機会の利益を全面的に活用することは,私の考えでは,新しい世紀の始まりにおける国際的な人権問題の中心的な政策的課題の一つである。

 過去50年間に,かつては想像もつかなかったほどの規模で経済を成長させ富を創造する大きな進歩が実現されたことは,否定のしようもない。この進歩には,平均寿命や教育水準,栄養水準といった人間の発展指標の大幅な向上が伴った。

 しかし,グローバル経済と情報通信技術の革命が,いまのところ世界の「持たざる者」を犠牲にして「持てる者」――教育や経済的資源といった資産の所有者――を有利にしていることも明らかになっている。貧者と富者の間の格差の拡大を示す証拠に反論することは困難である。人類の最も豊かな部分20%と最も貧しい部分20%の間の全体的ギャップは1940年から1990年までの間に倍になった。豊かな国と貧しい国の間のギャップが拡大するとともに,各国社会の中の貧困と排除の現象もまた顕著になっている。多くの開発途上諸国において,国民の富の多少の純増を実現している国においてさえ,最も貧しい者と最も豊かな者との間の深淵は急激に拡大しつつある。経済成長がこのギャップを縮小できないとすれば,この流れを変えて,ニューエコノミーがすべての人間にチャンスを提供できるようにするためには,我々は何をなすべきなのか?


基本に立ち帰る

 必要な最初のステップは,半世紀前に制定された世界人権宣言を改めて見直してみることである。宣言は,教育の権利,社会的安全の権利,食料や住宅,健康を含む適切な生活水準の権利などを,個人の生命と自由と安全の権利,法の下の平等,移動の自由,宗教の自由などと同じ根拠に基づいてうたっている。これらの権利の保証が拘束力のある国際的な義務とされているという事実にもかかわらず,現実には我々は,こうした広い範囲の人権をひとしなみに推進することはしてこなかった。これらの権利は,とりわけ,経済的・社会的・文化的権利に関する国際条約や市民的・政治的権利に関する国際条約,子どもの権利に関する国際条約などで全面的に認められている。

 ニューエコノミーを万人に役立つものとする「権利ベースのアプローチ」は,こうした誓約の一つ一つすべてを我々が真剣に受け止めることを要求する。そのようなアプローチは,国際人権システムの規範や規準や原則のすべてを社会的・経済的な計画や政策やプロセスに全面的に組み込むことを意味する。それは,意志決定への万人の参加のために必要な条件を作り出し,ガバナンスと民主主義の制度を強化することによって,個々人に力を与えることを目指す。それは,人々が食料や健康や教育を享受できないところでは,人権に関わる文化は繁栄しないことを認識している。簡単に言えば,権利ベースのアプローチとは,あらゆるレベルのガバナンスがあらゆる人権の尊重を最優先すべきである,ということを意味する。

 国連人権委員会は最近の会議で,人権の推進と保護における適切なガバナンスの役割に関する決議を採択して,この方向に沿った重要な一歩を踏み出した。決議は述べている――人々の必要に応えることのできる,透明で責任ある,説明責任を負い,参加を促進する政府こそが,適切なガバナンスの拠って立つべき基礎であり,そのような基礎が人権の推進のための不可欠の前提である。

 倫理と適切なガバナンスの実現を目指すOECDの仕事は,経済,社会,環境,その他の領域のすべてにおいて,権力がつねに賢明に行使され,適切な決定が下されることの重要性を強調している(William Witherellの論文を参照)。しかし,適切なガバナンスと人権の間の関係は,慎重な考察と研究を要求する。国連人権委員会の決議は,すべての加盟国を招請して適切なガバナンスを推進するうえで効果的な諸活動の実践例を示すよう,私の部局に要請している。

 人権の前進のためには,まず何よりも,各国政府がその誓約を順守することが必要である。それは,優先順位を定め,政治的意志を固めるという問題である。この分野では,報告に値する肯定的な兆候がある。ますます多くの国の政府が,人権のための国家的行動計画を定め,ほかの国の模範例を追求し,協力の力を認識するようになっている。それでもなお多くの国において,深刻な資金不足や対外債務の恐るべき重圧,しばしば彼らに不利に働く国際的な金融と貿易のシステムなどのために,最善の意図だけでは不十分である。

 ニューエコノミーを人権に役立つものとするためには,各国政府や国際機関,企業,非政府組織,それに広範な市民社会のネットワークが,それぞれ単独では実現できないことを達成するために,創造的で相互に有益な同盟関係のもとで力を合わせることが必要である。


デジタル技術の発展

 そのようなパートナーシップは,当然,ニューエコノミーの主要な道具――つまりデジタル革命――に決定的に依存する。きたるべき国連ミレニアム・サミットでの報告で,コフィ・アナン国連事務総長は,適切な資源と関与が保証されるならば,デジタル革命がいかに劇的に経済の成長と発展を促進できるかを強調する。デジタル革命の最も主要な産物である情報は,これまでグローバリゼーションの恩恵から除されてきた人々の生活を左右する巨大な力をもっている。

 アナン事務総長の報告で明らかにされた情報とパートナーシップの力の具体的な現れが,開発途上世界の全域で病院や診療所,公共保健機関などの1万カ所のオンラインサイトを設立・運営する新しいヘルス・インターネットワ−クである。その目的は,各国の必要に即して,最新の保健・医療情報にアクセスできるようにすることである。このイニシアティブは,世界保健機構(WHO)とウェブMD財団が他の財団や企業と協力して主導する。

 ビジネス界の指導者たちは,ニューエコノミーを持続可能なものとするためには,価値の共有を基礎として全世界の人々の希求に応える必要があることを,ますますはっきり認識するようになっている。これは極めて重要な挑戦課題である。この課題に国連は,事務総長の「グローバル協約」のイニシアティブの展開を通じて,これまでにない方法で応えようとしている。このグローバル協約は,広範な市民社会と協力して,人権と基本的な労働基準,環境の持続可能性を前進させるための,つまりグローバリゼーションを人類の必要に応えさせるための国連の作業に,民間セクターを関与させることを目指している。人権の分野では,協約の諸原則は企業に対して,第1に人権を守り尊重することを,第2に自身が人権侵害の共犯者とならないことを要求している。

 このグローバル協約の枠内で,私の部局は,ビジネス界がこれら諸原則を実行するのを助言し,支援し,奨励することに力を入れている。規律あるパートナーシップがすべての人の教育へのアクセスの改善にいかに貢献できるかを,あるいは技術革新が食料やエネルギー,建築資材などの適切な分配をいかに助けることができるかを想像してみるとよい――そしてこれらすべてが,国際人権宣言や様々な国際条約に盛り込まれた基本的な権利の実現に貢献するのだ。

 ビジネス界は,この作業の担い手の一つにすぎないが,極めて重要な担い手である。グローバル協約は,民間セクターだけでなく,各国政府や国際諸機関,市民社会に対しても指導原則を提供しなければならない。人権の推進と保護のために我々がより効果的に協力しないとすれば,事態はどうなるだろうか? ますます相互依存を深める世界にあって私が懸念するのは,人権を万人にとって現実のものとするためにいま現在具体的な行動がとられないとすれば,これまでに多くの国によって実現されてきた進歩とあらゆる地域に広がってきた民主主義社会は持続可能とならない,ということである。かつての米国大統領フランクリン・ルーズベルトは,60年以上も前にこう言った。「我々の進歩の真価が問われるのは,すでに豊かな者の富をどれだけ追加したかではなく,あまりにもわずかしか持たない者に十分なものを提供したか,によってである」。

 どのようなパートナーシップにあってもその本質的な構成要素は人間である。人間はニューエコノミーの黙せるパートナーでいることはできない。みずからの生活の改善のために積極的な参加者であることが決定的に重要である。この目標を達成するために,人権はグローバリゼーションの時代におけるすべての重要な決定のための中心的な規準の一部とならなければならない。


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