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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.221/222


 OECD Observer 日本語版

2020年:環境の明確な全体像

JOKE WALLER-HUNTER
DIRECTOR FOR ENVIRONMENT
ENV.CONTACT@OECD.ORG

 環境問題は国際的な課題として脚光を浴びている。主たる脅威は何か,将来はどうなろうか。

 熱帯林の破壊,砂漠化の進展,乾燥した荒れ地,何百万もの種の死滅,災害をもたらす気象パターン,窒息状態の都市,水流の枯渇,人間が遺棄した石油やその他の非消化物で満ちた死んだ広大な海洋。これは,誇張された悲惨な将来像であるが,幸いなことに,少なくとも2020年までは,世界環境がこのようなものになるとは予想されない。しかし,害われた惑星を予想するのはそれほど難しいことだろうか。

 そのような事態を回避するために適切な政策措置がとられるのであれば,確かに,このようなことを予想することには無理がある。しかし,実際のところ環境問題は悪化しており,一部の問題については緊急に解決措置をとる必要がある。適切な政策を策定するためには,我々が直面している問題の実体,このような問題を引き起こしている原因,問題の今後の見通しなどについてある程度知識がなければならない。従って,2020年の環境がどのような状態になっているかについて確固とした考え方を持つことは,極めて重要なことである。OECDは,このような展望を描くべく努めているところであり,その最終的結果は,2001年に環境大臣に提示されることになっている。報告は問題の重要な分野に焦点を絞るもので,網羅的ではないかもしれない。それでも,これは細心の注意を要する作業である。この作業においては,最近のトレンドの分析,環境の現状の評価,環境的に最もセンシティブな問題の動向や問題を生じさせる社会的・経済的要因についての予測が行われる。ただし,予測は固定的なものではない。直接的な政策措置により変化する。そこで,報告においては,環境にやさしい将来のための重要な環境政策について分析を行う。


警戒信号

 最終報告ができ上がるのは2001年4月であるが,暫定的な調査結果が出てきている。囲み記事は,いくつかの問題を単純化した形で示す。これらの問題のいくつかは,今後20年間の間に対処する必要がある。図表の中で青信号をつけた問題は,緊急性が比較的低い分野で,OECD諸国は「注意しつつ進む」ことができる。黄信号をつけた問題は不確実性を伴う問題であり,現段階で注意を払うことを要する。赤信号をつけた問題は,最も重大なもので,通常,即時の施策を必要とする。

 赤信号の一例は魚介類の乱獲である。これは全世界的な問題である。FAOによれば,世界の天然漁場の70%は,すでに枯渇したか,乱獲されているか,あるいは回復の状態にあると推定されている。劇的な政策転換が行われない限り,これらの漁場からの世界の漁獲高は,2010年には1997年の水準から12%以上減少しよう。森林破壊も全世界的なもう一つの重大な問題である。近年,OECD諸国の森林総面積は拡大しつつあるが(1970年以降4%近く),他方,世界全体の熱帯林および老成林の破壊は,驚くべき速さで進んでいる。OECDの森林を持続させるのは一仕事ではあるが,熱帯林の場合のように赤信号レベルではない。別の緊急を要する問題は,生物多様性の問題である。問題の大きさを評価するのは困難であるが,引き続き重大な問題にさらされているものと考えられる。


技術的解決方法

 環境上の問題を確認することとこれに対処する方法を見つけることとは別問題である。技術的な「解決方法」により,多くの環境上の問題が緩和された。技術の進歩の大半は,エコ効率の向上という形で達成された。製品生産に要するエネルギーないし資源の量の減少,再生可能資源の生産レベルを高めるシステムないし技術(例えば,林業・農業におけるインプット使用量の増大,魚介類の養殖,バイオテクノロジーの利用)などである。高度に管理された魚介類養殖である水産養殖の開発は,後者のカテゴリーに該当するものと考えられ,魚製品に対する需要の一部を過度に利用されている天然漁場から引き離すのに役立った。養殖は急速に拡大しており,1997年から2010年の間に全世界で35%増加するものと予測されている。同様に,産業造林も森林生産ニーズを満たす上で果たす役割を高めるものと予想されている。しかし,このような技術的「解決方法」にはコストがかかる。水産養殖や造林が天然資源に対する世界的な圧力を軽減するのに寄与するとしても,地域的には悪影響があり得るからである。従って,両者とも,我々の図表では黄信号がつく。

 遺伝子組み換え有機体(GMO)を含む新しいバイオテクノロジーは,多くの資源利用問題に対する解決方法としてもてはやされている。新しいバイオテクノロジーは,天然資源部門(農業,林業,漁業)で用いられる有害なインプット(殺虫剤,肥料)の量を減少させ,生産高を増加させる潜在可能性がある。しかし,人間の健康や生態系に対するその影響,更に将来の潜在可能性については,なお吟味が必要である。


経済成長と環境の切り離し

 一般に,環境悪化と経済成長とは歩を一にしてきた。しかし,今や多くのOECD諸国において,エネルギーや農業原料,水,金属などのその他の資源の消費量は,GDPとの対比で減少しているように見受けられる。このような消費量の低下は,経済と環境がそれぞれ向かっている方向が乖離しつつあり,経済成長と歩調を合わせた環境悪化の度合いが低くなっている可能性を示している。ある場合には,このような資源利用度の低下は,経済成長および人口増加の総体の全般的影響を相殺することにより,(相対的でなく)絶対的な環境改善をもたらすほど大きなものになっている。少なくとも9つのOECD加盟国においては,1980年から1997年の間に水の総消費量が減少した。

 他方,このようなエコ効率の改善にもかかわらず,ほとんどの場合,全般的な環境悪化は解消しなかった。OECD諸国は,1973年から1996年までの間に経済におけるエネルギー集約度を31%減少させたが,同期間にエネルギー総消費量は23%増加した。OECD諸国のエネルギー総消費量は2020年までに更に30〜50%増加するものと予想されている。

 温室効果ガス放出についても同じような状況がある。近年OECD諸国におけるGDPとの対比での温室効果ガス放出量は減少したが,絶対的な総放出量は増加した。現行の政策の下では,OECD諸国は,温室効果ガスの放出量を2010年までに更に30%増加させる可能性があるが,これは,2008年から2012年の間に1990年の水準から5%低下させるという京都議定書の全体目標から程遠い。

 ある場合には,実質的な改善の兆候がまったく見られない。これは,輸送について当てはまる。OECDにおける自動車の走行距離は,1990年から2020年の間に少なくとも65%伸びるものと予想され,旅客飛行距離は4倍近くになるものと予想されている。同様に,OECD諸国の都市廃棄物量はGDPの成長と軌を一にするものと予想され,2020年には1980年のレベルの約2倍になろう。


行く手に困難

 このような環境問題に対処するには政策担当者はどうすればよいのだろうか。まず手始めに,改善が見られた例を吟味することであろう。改善は,しばしば,価格インセンティブないし規制措置と関係する。最近の水使用量の減少は,補助を撤廃し,これまでよりコストを正確に反映する料金を適用することとしたイギリス,スカンジナビア諸国,中欧の一部の諸国などで顕著であった。同様に,OECD諸国のエネルギー集約度は,そのための政策がとられたわけではなかったが,大きな石油価格ショックでエネルギー価格が急騰した1974〜75年と1979〜82年の間に大幅に低下した。

 政府による規制や直接介入は,例えば有鉛ガソリンの段階的廃止(もとより,技術の向上のお陰で可能になった措置である)により,産業汚染の減少,最も汚染が進んだ地表水の浄化ならびに一部の大気汚染物質の減少の面で特に成果を上げた。他の場合でも,政府の政策により,消費パターンに環境上有益な変化を促進することが可能である。これは,有機農業の発展についても言えることである。有機農業は,一部には消費者の需要の増大,一部には政府の支援のお陰で,OECD諸国で急速に伸びている。

 ある意味では,御し易い環境問題は,すでに「いいとこどり」されたとも言えよう。リサイクリング,大気中の鉛の削減,水流の浄化,これらはすべて対応が進んでいる。しかし,将来の問題はこれより複雑であり,その解決のためにはより困難な対応が迫られよう。

 化学物質を例にとってみよう。ここ数十年間に産業からの化学物質の排出は大幅に減少したが,化学物質は環境中になお広く存在しており,出所が自動車運転や農業など様々な使途からのものなので,対応するのに困難がある。地下水汚染にも同様の問題がある。対応し易い地表水や点源の問題(河川や工場など)と異なり,地下水汚染は,主として農業からの排出によるものであるが,原因が様々だからである。同様に,ある種の大気汚染放出物(鉛,二酸化硫黄,一酸化炭素)は減少したが,揮発性有機化合物や亜酸化窒素放出物など光化学スモッグを助長する他の放出物は増加傾向にある。ここでも,この問題に対する規制による容易な解決方法はまったく存在しない。

 その意味するところは明らかである。今後数十年間に極めて緊急の手当を要する問題は,輸送手段の利用,廃棄物発生,汚染源の多様性およびある種の再生可能資源の過度の利用である。強固な規制枠組みは引き続き必要であるが,これまでより革新的な政策パッケージと組み合わせなければならない。さもないと,環境に対する圧力を軽減することが極めて困難になる。消費者と生産者に対してより強力な価格設定メカニズムを用いることも,前進のための一つの方法であると考えられよう。他の方法としては,自主的取決め,排出権取引,環境安全ラベルおよび情報をベースとするインセンティブなどがある。我々が行動を怠ると,2020年の展望は,我々が望むよりも悲惨なものになるだろう。


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