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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.221/222


 OECD Observer 日本語版

食糧危機への挑戦:
農業にバイオテクノロジーの居場所はあるのか?

WILLY DE GREEF
HEAD OF REGULATORY AND GOVERNMENT AFFAIRS, NOVARTIS SEEDS AG, BASEL, SWITZERLAND

 バイオテクノロジーは,信頼できる方法で開発されれば,貧しい国に自助の手段を与えることができるであろう。

 世界は,今世紀半ばには,おそらく90億人に食糧を供給しなければならないという大変な難題に直面している。国連は,当然のことながら,この難題を克服することが非常に重要な道徳的課題であると何年も前から発言してきた。この十年間に見られた大きな変化は,それが可能であることを疑問視する者はほとんどいないということである。問題は,それをどのようにして行うかということである。賢明な政策と巧みな技術を組み合わせれば,新しい持続可能な農業をもたらすことができるのだろうか。貧しい国は,尊厳ある自給手段を開発することができるのだろうか。新しい遺伝子組み換え方法を含む種子開発がこれらの難題に取り組む上で大きな役割を果たすものと我々は確信している。

 FAO(国連食糧農業機関)の予測によれば,世界の大規模な人口増加の90%はおそらく開発途上国において生じ,その多くは都市に集中するという。アジアと中南米の多くの諸国では,収量が著しく増加しているため,これまでのところ食糧生産の伸びが人口増加を上回っている。しかしこれらの諸国でも,またアフリカではなおさら,食用作物の収量を大幅に増やし,その質を高める必要がある。これは極めて重要なことであるが,食糧が環境にやさしい方法で生産されるかどうかは,あらゆる種類の投入材において,その量,タイプ及びタイミングによって左右される。これは世界のどの国についても言えることである。

 農業に精通している人々は,これまでに達成された農業進歩の価値を人々に認識させなければならない。また技術革新と科学技術を信頼性の高い方法で利用することなく前進することは不可能であることも強調する必要がある。

 熱湯はおいしい紅茶を入れることもできるが,赤ん坊をやけどさせることもありうる。これと同じように,バイオテクノロジーも適切な目標に向けられれば,公共の福祉に貢献する強力な手段となりうる。この目標とは,世界食糧サミットが農業社会に示した非常に大きな課題である。すなわち今後せいぜい20〜30年以内に飢餓を原則的に一掃する一方で,農業をもっと持続可能にすることである。持続的栄養不良の原因が生産にあるか分配にあるかという議論は間違っている。現実の世界では,両方を大幅に改善する必要がある。食糧の分配は,確かに飢餓を一掃するために極めて重要であるが,分配のための食糧生産も,農業にとって同様に大きな課題である。

 食糧安全保障の供給サイドに影響を及ぼす要素は2つしかない。より多くの食糧を生産するには,耕地を増やすか,すでに開墾されている土地で収量を増やすかである。それしかないのだ。最も困窮している人々への分配の改善を別にすれば,グローバルなレベルでは,この2つの選択肢しかない。実際には,選択肢は一つしかない。というのも耕地を増やすことは,環境の観点からますます支持されなくなっているからである。

 昨年,生物多様性保全条約(CBD)の科学技術諮問補助機関(SBSTTA)は,生息地の消失を世界の生物多様性に対する最大の脅威と位置付けた。この消失の大部分は,耕地の拡大に起因する。バイオテクノロジーにとっての課題は,持続可能な方法で収量を増やすことにより,この脅威に対する解決策を見つけることに貢献することである。

 農業が世界の環境に残す爪跡を減らしつつ,収量増大を達成する鍵は経営である。これは,近代的「在来」種子及び化学製品による「緑の革命」にみることができる。「緑の革命」は,世界の大部分の地域が,事実上耕地を増やすことなく,20世紀後半の人口急増に対応できるようにすることにより,生存に適した野生及び半野生生息地の保存を達成しやすくした。「緑の革命」は,すでにアジア及び中南米の大部分の地域において,影響の少ない投入材の使用により,農民のためによりよい生活をもたらしている。これに対し,FAOの調査が示しているように,アフリカでは,「緑の革命」のスタートが遅れたため,耕地を増やさずに食糧増産を達成することは困難である。

 この場合,遺伝子組み換え作物を他の技術革新と組み合わせれば,非常に役立つだろう。しかしこれらの技術が約束する成果を得るためには,社会に情報を提供してコンセンサスを得,これを現実的政策にまとめることが不可欠である。産業界は参加を望んでおり,そのような議論を進めているが,産業界だけではそれを推進することはできない。全関係者を含む包括的な議論を行うことによってはじめて,バイオテクノロジーの開発のための合理的法規が整備され,その適用が富める国と貧しい国の両方に適合されるようになるものと我々は確信している。

 当然,各国は,自国のニーズと国民が表明する意見に従い,これらの新しい技術の開発のための法律を制定するだろう。しかし民主的立法府は,この技術を懐疑的に見るのではなく,希望をもって見るという非常に強力な道徳的堅実性に配慮するべきであると我々は考えている。ナフィールド財団の生命倫理委員会などの独自の発言が,この討論の骨組みを構成していることに,我々は意を強くしている。我々は彼らと同意見であり,またバイオテクノロジーの利益は「魔法の解決策」ではなく,あるいは全員に必ず利益となるものでもないというロックフェラー財団のゴードン・コンウェイ教授の意見に賛成である。そして多少の差異がある見解においても,多くのバイオテクノロジー批判者が無視している洞察を受け入れている。


2つの例

 第1に,遺伝子組み換え技術は,極めて多種多様な農民達の役に立つ。家族経営農場はどこでも――北米の大草原からアフリカの耕作地にいたるまで――脅威にさらされている。しかし北米では,遺伝子組み換え種子は,大規模農家のみに役立つのではなく,すでにあらゆる規模の農家の増益に役立っている。質のよい種子は農家の資源であり,その有益な効果は規模にほとんど左右されない。実際,緑の革命が何百万もの農民を貧困から抜け出させることができたのは,このような理由からである。コンウェイ教授のもう一つのビジョンである「2倍の緑の革命」は,過去の過ちから得られた我々の教訓をまとめて,できる限り多くの農民に手を差し伸べることになるだろう。

 当然の事ながら,遺伝子組み換え種子で栽培した最初の作物は,欧米の生産者と消費者に経済的利益およびその他の利益をもたらした。企業は,投資とビジネスリスクに報いることのできる市場のために商品を開発する。そのため,企業は,先駆的技術に必要な膨大な開発費と規制当局の精査を充分に支えられる豊かな市場で活動している。そして現在,遺伝子組み換えによるビタミンA強化米や,熱帯自給用作物を含むその他多くの作物が開発されている。これらは,コスト高かつ環境に有害な投入材を減らし,その生産物の栄養価を高めるのに役立つだろう。コンウェイ教授は,最近,ファイナンシャルタイムズ紙において次のように述べている。「第三世界では約1,000人のバイオテクノロジー研究者が作物の変種,主としてコメの変種に取り組んでいる。北では論争が繰り広げられているが,開発途上国からの声は聞こえてこない」。

 第2に,確かに,これまでの技術開発はほとんどすべて,世界の最貧農家を素通りしてしまう傾向が見られた。この悲しい事実は,彼らにとってのこの技術の潜在的価値を無視する理由にはならない。遺伝子組み換え技術を最貧農家にもたらすためには,創意に富んだ支援計画が必要であろう。おそらくそれは,エイズやマラリアにかかった貧しい患者を助ける医薬品を届けるために定められた方針に沿ったものとなるだろう。米国議会は,熱帯農業研究所における遺伝子組み換え作物の研究を支援することに合意した。これは,最近そのような資金援助が少なくなっている傾向を覆す歓迎すべき動きである。バイオ安全性議定書が有効に奨励しているように,多くの諸国は,これらの開発のための適切な規制の枠組みを定めることについて援助を必要とするだろう。

 欧米では,世界を生産者と消費者に分けることが流行っているが,それは間違っている。アフリカでは,消費者の60%が生産者であり,農民を援助することは,人口の大半を援助する最短ルートである。アフリカや他の多くの地域は,富をもたらすビジネスを必死に求めている。豊富な食糧を平等に分配するためには,貧しい国が食糧を購入できるよう十分豊かにならなければならない。バイオテクノロジーは,貧しい国の農民が,国内消費用により安く,よりよい食糧を生産することに役立つばかりでなく,近代的社会を築くための所得を生み出すことにも役立つだろう。

 企業市民として,我々は,社会及び法律の枠組みが適切である場合に最も善行をなすということを鋭敏に認識している。我々は厳しい,分別のある規制を切望している。というのも,それは我々に「営業免許」を保証するとともに,我々がその一員である社会の信頼を与えてくれるからである。特に遺伝子組み換え作物の場合,我々は,進歩を支える基本的擁護論,及びそれが安全であり,秩序があり,公正であることを保証する規制の枠組みに対する国際社会及び各国の公式の支持を頼りにしている。■


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