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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.221/222


 OECD Observer 日本語版

ニューエコノミーにおけるイノベーション

MARTIN BAILY
CHAIRMAN, US COUNCIL OF ECONOMIC ADVISERS

 旧来の経済の消費財産業は,ニューエコノミーの推進要因となっている。

 現在OECD諸国の成長見通しは,過去10年以上の間で最も明るいものになっている。失業率が引き続き低い中で,インフレ率が低いのが当然のようになっている。情報とコンピュータの技術は急速に進歩し,グローバリゼーションが進む現代において,国境を越えて手軽に伝達される。「ニューエコノミー」と呼ばれるものは溢れている。


経済は基本的な面で変化している

 情報および通信のコストの劇的な低下とグローバリゼーションの進展とが相俟って,企業,産業および経済の性格を変えつつある。これらの要因の影響は部分的にしか理解できず,時折,矛盾ないし道理に合わないように見える。

 情報経済は,規模の経済および先発者の優位が存在する経済であり,大きな市場シェアを持つ大企業の拡大を招く可能性がある。グローバリゼーションは,多くの産業において買収,提携および合併をもたらし,世界中で独立した生産者の数を減少させた。

 このプロセスは,通信コストの減少により促進される。通信コストは,最終消費者に向けた商品およびサービスの生産,交換,流通のために人々が協働するためにかかるコストである。新しい諸技術により通信コストが激減しており,そのため,生産性が向上し,世界中に広がる価値連鎖全体で活動の調整が行われる。

 同時に,ニューエコノミーは,小規模の革新的な企業の重要性が高まったことと,競争は激化こそすれ後退はしないとの認識が普及したことと結び付いている。通信コストの減少により,価値連鎖のある部分で比較優位を持つ新規参入者が,その部分において直接競争することが可能になる。既存の会社および産業は,新しい競争状況に適応しないと,市場や利益を失いかねない。先発者の優位を創出し,テクノロジーの部門で大きな市場シェアを獲得した企業であっても,その研究開発やイノベーションのための作業にアウトソーシングを利用したほうが有利になる場合があろう。このような企業は,市場を捜し回って小規模の革新的な新企業を見付け,それからこの小企業を買収するかまたは技術のライセンスを取得しようとする。

 アメリカのダイナミックな小企業が規模の優位を持つ巨大企業と共存できたのは,ハイ・リスクの新規企業に資金調達(特にベンチャーキャピタル)が可能だったことが主な理由である。資金調達ができなかったとしたら,小企業に対するイノベーションのアウトソーシングといった事態は起こり得なかっただろう。


ニューエコノミーと旧来の経済は互いに推進し合う

 ニューエコノミーにおける発展は,旧来の経済に属する産業を劇的に変化させている。伝統的な製造業では,コンピュータに支援された設計および生産を行っている。小売業者は卸売りの機能を統合し,レジのスキャナーからメーカーへの新たな注文までの伝達ルートを開発する。高級専門店チェーンは,規模の優位を獲得するためにリンクした小店舗を経営する。トラック運送業者は,インターネットを用いて荷物の所在を確認し,帰路にトラックが空になるのを防ぐ。農家は,降雨状況や作柄について衛星情報を利用する。

 旧来の経済がこのように強い影響を受けているとするならば,旧来の経済の多くの会社の株価が低迷しているのはなぜだろうか。考えられる答えの一つは,競争が真に強化されたことである。新しい技術の力を生産的に利用する能力は,生存に不可欠であろうが,旧来の経済の企業に特別の優位性をもたらすとは限らない。市場価値の増大は,新しい技術もしくはブランドまたは支配的な市場ポジションの無形資産と関係があるように思われる。 最近アメリカのサマーズ財務長官が述べたように,ニューエコノミーは高度にシュンペーター的である。イノベーションは一時的な競争上の優位を企業にもたらし,一定期間大きな利益を上げさせる。その後技術は変化していくので,イノベーションを続けないと新たな利益は得られない。

 ニューエコノミーを分析する際,ハイテク部門で生じていることが往々にして過度に重視され,アメリカにおけるニューエコノミーの急速な成長はこの部門のみによるものであると結論付ける傾向がある。このような見方は,ニューエコノミーの成長を推進する旧来の経済の役割を無視するものである。競争力があるダイナミックな旧来の経済は,ニューエコノミーが提供する製品やサービスに対する需要を生み出した。コンピュータおよび通信の能力を大幅に強化しようとする消費財産業の欲求により,イノベーションを促進する市場が創出された。

 規制またはゾーニング法による制約を受け,伝統的な家族経営小店舗の時代にとどまっている小売部門は,最新のコンピュータや通信に対する市場にはならない。他方,ダイナミックで発展する小売部門は,事業システムの改善および新しい種類の事業を可能にする強力な新しいツールを求める。このような例は,アメリカで頻繁に生じている。ドイツは,全般的なソフトウェア開発のセンターとしては大した成功を収めていない。しかし,一つの重要な分野で成果を上げた。ドイツの強力で競争力がある輸出志向の製造業部門は,企業資源計画ソフトウェアに対する需要を創出した。このソフトウェアはドイツで開発されたものであるが,現在,アメリカを含む全世界で利用されている。


急速な成長は続くだろうか

 コンピュータ技術の進展は,まさに劇的だった。1944年,マークIコンピュータの処理能力は1秒当たり3インストラクションであったが,現在では1秒当たり4億インストラクションを超える。1970年,最新のコンピュータの値段は約470万ドルで,平均的なアメリカ人労働者の生涯賃金の15倍に相当した。現在,それより10倍以上の能力があるパソコンの値段がわずか1,000ドルで,平均的労働者の2週間弱当たりの賃金にしか相当しない。

 新しい技術の基本的な構成要素であるマイクロプロセッサーのお陰で,製品の質が向上し,価格が安くなり,効率が高まった。現在,メモリーチップは,1970年代初期の25万倍ものデータ受容力がある。これは,1,600冊の本を1ページに詰め込むのと同じことである。1メガビットの情報(320頁の本1冊に相当)を貯蔵するコストは,1975年の5,275ドルから1999年の0.17ドルへと,25年足らずの間に5,275ドルも低下した。現在,光ファイバーにより,米国議会図書館の全蔵書の内容をわずか40ドルで全国に伝えることが可能である。

 このような驚くべき発展の速度を持続することは可能だろうか,また,生産性の向上を持続することは可能だろうか。我々には分からないが,有望な兆候がある。コンピュータの能力の向上と通信の容易さの向上とを組み合わせることによる利益が,やっと出てき始めている。B2B電子商取引は,年伸び率80%以上で成長するものと予想されている。研究開発や特許に関するデータによってイノベーションのペースを評価するのには問題があるかもしれない。しかし,このような評価方法には限界があるものの,双方のデータとも,技術の進歩が持続し,更には加速することを示唆している。アメリカにおける民間の研究開発は,過去5年間に亘り年率11%で増大しており,特許出願件数も,同じ期間に50%以上増加した。


アメリカとその他のOECD諸国:若干の比較

 OECDは,経済成長について重要な調査を実施している。1980年代および1990年代のOECD諸国における成長の源泉を探るものである。詳細な結果はその内に入手できるようになろうから,実施過程にある作業の結果について先取りすることはしたくない。そこで,この問題について2つの簡単な省察を加えるにとどめることとしたい。

 第1に,データに制約や矛盾があり得ることを前提として,1995年後にアメリカで生じた生産性改善の急激な加速は,他の主要なOECD諸国では見られなかったようである。このことは,驚くに値しないかもしれない。いずれにせよ,ニューエコノミーにおけるデジタル革命は長年に亘って進行していたのであるが,これがアメリカの生産性統計に反映されるようになったのはここ5年のことにすぎない。アメリカ以外の国に生産性の急上昇が生じるようになるのも時間の問題だろう。

 第2に,アメリカ以外の諸国は,ニューエコノミーから得るところがアメリカより多いが,得るための障害も大きいかもしれない。すべてを考慮すると,アメリカは,他のOECD諸国よりも規制体制が市場志向型で,労働市場も弾力性が高い。従って,産業の変化・発展も,アメリカは他の国に先行した。ニューエコノミーのイノベーションは,非効率的な伝統的企業を飛び越えることにより,アメリカよりも他の国における方が高度の成長をもたらす可能性がある。他方,社会的調整や労働再配分の必要性もより大きく,達成するのが遙かに困難であるかもしれない。過去の政策が構造変革や経済発展を遅らせたように,他のOECD諸国においてニューエコノミーの成長や発展を遅らせるかもしれない。


ニューエコノミーのための政策

 情報革命は,健全な経済政策と相俟って,ニューエコノミーに必要な材料を提供した。経済成長を生じさせるのは,化学反応を起こさせるのと似ている。適切な要素がすべて整っていなければならない。混合比率も正しくなければならない。政策は,それだけでは経済を成長させることはできない。政策が適切でないと,民間部門で成長を開始させることはできない。アメリカの景気拡大の力と持続性の鍵は,民間部門の活力がすぐれた金融政策に反応し,また,財政節度を保ちつつ人と技術に投資するという政府の政策に反応したことである。手短に言えば,成長の化学反応が適切だったということだろう。

 1970年代および1980年代のアメリカにおいては,所得不平等の拡大が重要な懸念事項であった。不平等の問題は今でもある。他方,勇気付ける兆候が出てきている。1973年から1993年までの期間は,最貧困層の実質所得の成長が止まり,更には低下さえしたが,これと対照的に,1993年から1998年までの期間は,すべての所得層で所得が着実に増加し,しかも最下位5分の1の層が最も高い増加率を示した。貧困率は急激に低下し,また,多くの層について失業率がこれまでで最低の水準まで低下した。この経験は,技術が変化し,グローバリゼーションが進む中でも,成長がすべての層に経済的繁栄をもたらし得ることを実証している。完全雇用経済,教育・訓練プログラムおよび所得支援(勤労所得税額控除など)は,このような好結果をもたらすのに寄与した。

 政策に関する筆者の最後のコメントは,最終消費者の重要性についての前述の言葉に立ち帰る。技術に対して投資を行うことは重要である。事業の可能性を判断し,小企業に対するリスクを引き受ける金融機関があることも役に立つ。しかし,このようなやり方をニューエコノミーに押し付けることはできない。この分野での政策は,最終消費者から需要が出てくるのでなければ,十分とは言えない。ニューエコノミーに最も適した強壮剤は,旧来の経済における開放的で競争的な市場であろう。


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