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多くのシナリオの中でグローバル・ガバナンスが最も有望である。
我々は世界状勢について3つの事実から出発する。第1は国家の相互依存性であり,これは多くの領域で互いに弱点のあることによる。第2はグローバリゼーションで,流行からエレクトロニック・バンキングまで,国境を超越する多くの力がある。第3は,軍事力,経済力,政治力,文化的,力のピラミッドである。21世紀の初め,世界は単極構造である。一つの超大国とそれに続く,大国,中位国,地域国,新興国が重なっている。
6つのシナリオ
沢山の未来が考えられるが,6つに絞ろう。我々は各シナリオを一つの事実として描き,こうなり得る,こうなるだろう,こうなるべきだ,とはしない。第1のシナリオは現在の力のピラミッドから出発する。
T.安定的単極構造
アメリカのヘゲモニーは弱体化の徴候を見せない,有形,無形の資産に基づいている。単極の世界が何十年も続く。それは人類の歴史上最も平和で豊かな時期であることを実証した。それはほとんどの国が世界的相互依存の中で行動し,相互に利益を生む世界である。国際的に行動するものは,攻撃的利益追及や寄生的行動に出るのでなく,相互の利益になる価値創造に努力している。カナダ,メキシコ,アメリカの関係は,インド,スリランカ,パキスタンのトライアングルとは異なっている。単極のほうが多角的均衡や二極より平和に貢献していることが示されている。しかし,それは小国や「失敗した」国の間の混乱を防いではいない。大国以外はしばしば国連の保護を受け,紛争の一部を調停するが,全ての争いを止められるわけではない。
アメリカは世界のステージにおける新しい種類のヘゲモニーである。ある方法が形作られる。ワシントンは権力を乱用せず,ほかの国も徒党を組んでそれに逆うことはしない。唯一の超大国はめったに単独では動かない。ワシントンはその主要目的にほかの国の支持を求め,通常それを獲得する。このことは,1990年代のイラクと北朝鮮に対する封じ込め政策を見ても明らかである。
世界の多くの国にとって,経済的見通しは有望である。世界は充分富んでいて,永続的発展の経路がよく分かっている。世界銀行は,各国がGDPを拡大し,その人類発展指標を改善するガイドラインを作っている。幼児死亡率は多くの国で低下し続けている。ロシアはその経済的可能性を実感し始めている。中国,ブラジル,アルゼンチン,インドネシアといった新しい大国が生じている。しかしこれら諸国は,いずれも世界的ヘゲモニーにチャレンジする意思も方法も有していない。
ヨーロッパと日本は依然有力な通商国家である。しかし,ヨーロッパはせいぜい連合にすぎない。実質の統合は言語,文化及び経済の相違のため実現不可能である。アメリカとの同盟は日本の安全のくさびとなっている。この国は厳しい制約に直面している。この列島は依然として混雑している。人口はより高齢化し引退者を支持する働く人がより少なくなっている。韓国その他の隣国がより低い価格で同じ需要を満たすようになって,日本の外国市場は縮小している。権威主義的支配がシンガポールと香港のかつての躍動的成長を萎縮させている。環太平洋諸国の経済は,労働,資本,エネルギーの新規投入がより高価となり,その猛烈な成長ペースを鈍化させている。
U.破壊的混乱
20世紀末期の相対的平和と繁栄からの外捜は間違っていたかもしれない。どうして混乱が安定にとって変わったのであろうか。システムのどのような部分での重大な変化も全体に波及しえる。第1に,1990年代において豊かだったいくつかの場所で生物圏が人間の生活を支えられなくなる。豊かな環太平洋地域は生命と財産を破滅させる災害の輪(火山と断層)の上に位置している。嵐と干ばつは気候の変化と森林伐採のため増加している。環境上及び経済的障壁がいずれも成長を妨げている。「持続的発展」を言うことは,実行よりもやさしい。HIV伝染のようなものの流行は肉体的,財産的健康のいずれをも害する。
第2に,繁栄の拡大から生じた合理的な平穏さは,烈しい要求が満たされない人達には共有されていない。多くの国の失業中の若者は,持てる者と持たざる者の間のギャップに憤慨している。宗教また民族主義的狂者は暴力に走りがちである。いくつかの国はそうなってしまった。
第3に,大量破壊兵器がより入手し易くなっている。機械の故障,人の間違い,あるいは設計ミスで起こる,都市の近くでのたった一つの核爆発は,チェルノブイルやオクラホマ市の事件を子供の遊びのように見せてしまう。イラクが病原菌で満たされた弾頭を何時でも発射できるという報道は,イランやイスラエルでパニックを引き起こしている。
目覚めた大国中国が身震いすると世界中に反応を呼び起こす。経済成長が鈍化して何百万もの失業者が存在している。マルサスが言ったように中国は余りに多くの農地を犠牲にして工業化した。辺境の人民はより反抗的になった。権威主義的支配は民主的改革者や地方の有力者に反対されている。独裁からの移行は世界の平和を危うくしかねない。
アメリカは,指導したり,その力を強く示したりすることがうまくできなくなっている。自分に従う者に敵意を示したり,また追随者を失うようになっている。ワシントンは,何もしない自己満足と傲慢な権力誇示の間を揺れ動いている。アメリカの国内活動は,民族的そして階級的分裂の増大により,劣悪化している。ヒスパニック,その他のエスニック・グループは,アメリカを長く支配してきた文化を拒否している。銃の支配が一部街路と多くの学校に及んでいる。議会と人民は,科学,公共衛生と社会基盤に投資するのを拒んでいる。
多くの国はアメリカの指導に従っているので,彼らの民主主義は,マスメディア技術による洗脳に悩まされている。じゃがいものファースト・フードの盛況とドラッグへの依存が頭脳と肉体的健康を害している。寄生虫のような生き方は,犠牲を伴う。多くの人がただ乗りしようとしている。ますます多くの人が「blow
alone」になり,そのうちの何人かはサイバースペースで失われる。人類は世界的に困難な時をむかえている。
V.覇権へのチャレンジ
いかなるものも長続きしない。アンクル・サムが弱いか負担が多すぎるように見えると,新興勢力が覇権を狙う。ほとんどの中国人は依然貧乏だが,同国の巨大なGDPは北京政府に実に巨大な軍事力を建設するのを可能にする。中国の技術者は同国を技術先進国にしようとしている。中国の石油需要は,中央アジアに進出し南シナ海を制圧する動きを強めている。
中国は,ウイグル,カザフ,及びチベットによりつらくあたる。日本に対し,ミサイル防衛網の建設をやめるよう強く主張する。台湾に,中国本土の連合に参加するよう要求する。これらにより問題は複雑化する。ワシントンは再び台湾海峡に航空艇を送る。平和への危険はオーストリア大公(皇太子)がサラエボで死去した時より遙かに大きい。
ここで道は分かれる。一つの道は,アメリカが力を示す前に中国が引き下がることである。しかし,1911年と1962年のロシアの指導者と異なり,中国の指導者は敵対勢力からは決して退かないであろう。中国は軍事支出を増し,今後10年も20年もの対立に備えるであろう。
ほかの国もまた紛争を起こす。ワシントンはこれを押さえ込もうとし,北京は台湾を統合しようとする。中華人民共和国はその時,隣国に脅威を与える。ベトナム,韓国,日本,ロシア,インドである。ワシントンは中国を封じ込もうとするが,硬軟両様の態度を採ってしまう。中国は勇気づけられて衝突に向かい,覇権を弱体化させ,次のラウンドでは勝つと信ずるであろう。
W.二極の協力
中国とアメリカの国内総生産は,2025年には同じ位になるであろう。両国の経済は競争的というよりは補完的となろう。北京とワシントンはお互いに領土的要求を持っていない。協力的プロジェクトは,人民に,あらゆる分野でお互いの利益になることを納得させた。
台湾問題はもはや中米関係を困らせなくなる。中国は,北京の思想家たちのモデルに代えて,テクノクラートの台湾モデルに適応したからである。中国本土と台湾は経済的に結合するが,政治的には分かれる。彼らは,政治的に合意しないことに,合意する。
中国は20世紀後半の国境を維持し,国内の問題に集中する。中国は多くの著しい経済的,環境的問題に悩まされている。しかしほかの国は食糧その他の物資を供与するか,売却して不足を埋めている。中国は国連において積極的に行動しないが,他国の平和活動に反対することもほとんどない。
X.多極的協力
力の極は分かれているが,補完的である。民主主義と平和がその各々を強化している。多くの政府は,通商やその他の協力的行為で結ばれた,議会制民主主義である。サイバースペースが科学者,文化人,企業家,関係者を結びつけ,eメールが世界中を飛び交っている。
2025年以前にも,モスクワとワシントンはその核兵器を600の戦略核弾頭に減らすかもしれない。他の核兵器保有国とその核弾頭の数をこの数字以下に抑えるであろう。国連憲章第43条から47条に定められた軍事的要請は満たされることになる。国連の安全保障会議は軍事参謀委員会を持っていて,国連加盟国の多くは安全保障理事会の利用に供すべき軍事力を用意している。集団安全保障は現実のものとなりつつある。1990年代サダム・フセインに対し採った強硬姿勢は集団的安全保障の信頼を高め,開発途上国への不正攻勢を無力なものとしている。イスラエルとその隣国の多くはいかに共存し,通商を行うかを学んでいる。
南北の相違は縮小した。より多くのアジア,アフリカ,中東及びラテンアメリカ諸国が急速で持続可能な発展経路に入っている。小麦,コメ,とうもろこし,その他の作物における新しい品種は,ほとんどあらゆる地域に,大規模な灌漑や化学肥料の大量投与をせずとも自給できる機会を与えた。今だに単一の作物に依存している国はほとんどない。開発途上国も工業国も資源を国防から開発が必要とするものに移している。アマゾン地帯やその他の熱帯地域での生物の多様性は守られ,利益を生み出しつつある。
Y.世界政府無しでのグローバル・ガバナンス
国を越えた市民社会が,多くの国や地域を越えて展開している。政治的選択,自由市場への信頼,人権尊重といった共通の価値が人類の4分の3以上で共有されている。領土ということが組織原理として弱くなっている。超国家的権威を持つ世界政府は存在しない。各国政府は依然存在しているが,企業グループ,労働グループ,NGOといった様々な非政府組織と力を分かちあっている。それらは合わさって,広範囲な人類の必要をみたすように作られた機構の拡大しつつあるネットワークを形作っている。
各国政府は互いに,国際機関及び超国家機関からの確固たる専門家と連絡している。これは大規模な官僚組織である。意思決定に関する情報提供と運営は専門家によって行われ,選挙による政府の代表者によって調停され監督される。例えば伝染病に対処するため,政府の専門家は各国の薬務局,世界保健機関,赤十字国際委員会及び最近作られた国際保健科学アカデミーから選ばれた委員会を作っている。通貨の変動から商品価格に至る経済問題に対処するため,政府の専門家はOECD,世界銀行,国際通貨基金,主要商業銀行,及び最近作られた経済社会科学者の国際アカデミックから選ばれた委員会を作っている。
平和と安全保障に対する危険への対処に,各国政府は,国連の安全保障理事会と国連事務総長に大きく依存している。一部政府は核弾頭を温存しているが,安全保障理事会は,多くの国連加盟国から提供される国連用に指定された軍隊によって,固有の迅速な対応兵力を持っている。国連の事務総長は,誰でも討論者に提言できる調停者のパネルを持っている。ノーベル平和賞受賞者から選ばれた長老委員会は安全保障理事会や事務総長に助言している。
2005年までに,アメリカの大学で会ったアラブ人とイスラエル人が設立した中東大学が,いくつかの政府と団体から援助を受ける。2025年までに,この大学は,党派的感情よりも平和的発展に関心の深い,1世代分の男女に教育を与える。2025年までに,彼らはイスラエルとその隣国をお互いの利益になるよう結ぶいくつかのプロジェクトを始める。
ワールド・ガバナンスは、グローバリゼーションに伴なう危険と機会に対応するためのグローバルな公共政策である。
どのシナリオが最良か?どれが最も実行可能か?
どのシナリオが最も悪いというのはやさしい。シナリオU及びVは多くの生命を破壊し,価値ある資産を無駄にする。賢明なプランナーはこのような方向に行くことを阻止しようと行動するであろう。
平和と繁栄を促進するいかなるシナリオも受け入れられる。しかし,シナリオY(グローバル・ガバナンス)が優位性を有している。第1に,それは真に国家を越えた社会の発展を要請している。このような社会がなければ国家制度は結局崩壊するであろう。
第2にグローバル・ガバナンスはNGOと政府が共に複雑な問題に対処する有力な新しい組織を作り上げる。このようなチームワークが必要な措置のための柔軟性と必要とされるものの調達を可能にする。
屋根の崩れる前に学習が可能であろうか。グローバルな相互依存に根ざしたビジョンが,将来計画立案において,現実主義や理想主義によるよりも広い枠組みを供与する。各当事者は過去の慣例が地球温暖化のような,はっきり分からない問題に対処するに充分でなかったことを認識しているであろう。反対者すら,より良い解決を交渉する相互依存で非難されることが分かろう。
相互依存の概念は,グローバリゼーションに内在する危険と機会を明瞭にした。政策指針として,人類は善良とか邪悪とかを予め決めてはいない。望んでいるところは明らかにされた自己の利益が,政府組織やその他の参加者を,みずからの一方的利益でなく,相互の利益になる価値を創りだすよう導くことなのである。
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