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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.223


 OECD Observer 日本語版

韓国:経済の活性化に向けた社会政策の改善

WILLEM ADEMA, PETER TERGEIST AND RAYMOND TORRES
DIRECTORATE FOR EDUCATION, EMPLOYMENT,
LABOUR AND SOCIAL AFFAIRS
ELS.CONTACT@OECD.ORG

 韓国は労働法の改革に向けていくつかの措置をとったが,労働組合の団体交渉権を強化する方向で,更に前進することが必要である。

 韓国の今日を語ろうとするとき,危機――どのような危機にせよ――という言葉がつい口をついて出てくる。経済はふたたび急速な拡大をはじめており,失業率は4%を下回っている――これはどのような基準からしても低い。1997年暮れの金融危機の痛手は多くの人の記憶から消えようとしている。

 その結果,あの危機は強力な成長の途上における不愉快な一時的断絶にすぎなかったと考えたくなるのも当然である。しかしそれは,あまりにも楽観的にすぎる見解であろう。本当のところ,韓国の発展を支える社会的な支柱はいまだに脆弱で,このことが深刻な経済的危機をもたらしかねない。金大中大統領の言葉を借りれば,「まだシャンパンの栓を抜くときではない」のである。

 例えば雇用である。ふた桁の成長率にもかかわらず,雇用のほとんどは非常に不安定である。1999年に終身(期限を定めない)雇用契約を結んでいたのは労働者の30%未満にすぎない。実際,韓国は終身雇用の職をもつ労働者の数が最も少ない国である(トルコが韓国に次ぐ)。他方,非常に多数の雇用が有期契約,場合によっては日雇い契約であるために,韓国の労働者の圧倒的多数は深刻な雇用不安に直面しており,相対的に少数の労働者だけが安定した雇用状態にあるにすぎない。

 社会的安全ネットもまた,公共事業の導入や社会的扶助プログラムの拡大といった最近の改革にもかかわらず,いまだに多数の抜け穴を残していて,国民の多くが保護を受けられないでいる。例えば,失業給付を受けている失業者は9人に1人にすぎない。しかも失業給付を受けているこのわずかな失業者の受給額は多くなく,以前の賃金の50%にとどまっている。しかも最大受給期間は3カ月から8カ月である。受給期間が終わろうとしている失業者にとって不安の種は,社会的扶助プログラムが不十分で,貧困ライン以下の給付しか支払われないことである。しかも,貧困のうちに暮らす人々の半分近くは,社会的扶助プログラムによる給付をまったく受けていない。受給資格の要件が極めて厳しいためである。

 もう一つの問題は,公的年金システムの未熟さである。その恩恵に浴しているのは退職年齢人口の4分の1にすぎない。しかも,現在の平均年金額は最低賃金の3分の2,1日平均3〜4ドルにすぎず,最近導入された貧しい高齢者向けの給付金にいたっては1日1ドル未満である。

 事態を更に悪化させているのが,韓国の社会的パートナー間に相互の信頼が存在しないことである。危機の時には,労働組合と雇用者は,経済的,社会的に重要な改革プログラムに合意した。この合意には,社会的安全ネットの強化,労働市場のフレキシビリティの向上,失業の増大を防ぐための賃上げ抑制などが含まれる。しかし,急速な成長が復活し,失業率が低下すると,昔の対決姿勢がふたたび前面に出ている。正当な労働組合戦術と考えられるべき行動を理由とした労働者の逮捕と投獄が一般的となった。これは,OECDにとっても国際労働機構(ILO)にとっても重大な懸念材料である。逮捕は,労働者の基本的な権利の行使を妨げるだけでなく,良好な労使関係の構築に不可欠な信頼の醸成を妨げる。このことが,賃上げの抑制や雇用条件と労働慣行の改善といった,基本的な目標についての社会的パートナー間の合意を,極度に困難にしている。

 こうした冷たい社会的環境はまた,生産性向上の妨げともなっている。これは,韓国経済のアキレス腱の一つである。実際,1990年代の成長は設備投資を原動力としていたにもかかわらず,全体的な生産性は実質的に停滞を続けた。1990年代に実施された設備投資の多くは非生産的で,このことが1997年の危機の基本的な背景要因となった。韓国の経済体系のこの裂け目を修復するためには,何にもまして,より充実した職業訓練(経験が示すところ,これは雇用期間の延長と手を携えて進行する)とより効率的な社会的安全ネットが必要である。言い換えれば,政策決定者は社会問題と経済問題の間に存在する相互関係を過小評価してはならない,ということである。この関係の過小評価は,危機再発の危険性を高める。


プログラムの改善

 韓国政府は,この2年間に労働市場プログラムの範囲を大きく拡大してきた。それでも,いくつかの基本的な欠陥が残っている。特に,しばしば小企業は社会保障拠出金を支払っていない。その従業員が失業手当や公的年金を確実に受給できるように,こうした状態は是正されなければならない。更に,真に必要とする人々をカバーできるように,積極的労働市場政策が拡充されなければならない。プログラムの数の多さにもかかわらず,現実はそうなっていない。実際,景気回復の早さを考えれば,公共事業プログラムを段階的に縮小し,その一方で特定のカテゴリーにある労働者の技能向上のために訓練プログラムを強化することが適切であろう。

 すでに,失業者を労働市場に復帰させるために,公共職業紹介サービスが非常に拡大されている。この点では,カウンセリングの質が重要であることが明らかになっている。スタッフ訓練の改善も必要である。政府は,こうしたサービスの利用可能性を拡大するために最大限の努力をなすべきである。そのための一つの方法は,公共職業紹介機関が国内の広範な民間職業紹介組織を利用することである。一部のサービスを民間に下請けに出すこともその一つである。

 社会的扶助の拡充は,最終的には,退職手当や別居手当のような企業ベースの給付制度の一部を縮小させる道を開く。こうした企業給付はおもに終身雇用労働者を対象とし,その存在のゆえに雇用主は,有期契約ないし日雇い契約を,終身雇用契約に転換することに消極的になる。

 改革された新しい社会的扶助システムが2000年10月に発足した。この新システムは「生産的福祉」という概念を基礎とし,社会的扶助の受給者の権利と責任をバランスさせることを目的としている。第1に,社会的扶助の受給資格を持つ人は,それを権利として受給することができ,給付の水準も引き上げられる。こうした努力にもかかわらず,複雑な受給資格を反映して,貧困のうちに暮らす人々の多くが極めて低額の給付しか受けられず,あるいは給付をまったく受けられないでいる。第2に,こうした扶助と引き替えに,労働能力のある受給者は,職を探すことが義務づけられる。また,職業訓練を受け入れ,公共事業で働くことや自立を促進するために地方福祉機関が提供する授産所で働くことを義務づけられる。更に政府は,社会福祉機関の職員を増員しているが,これら職員が受給者の職探しを援助できる手段(あるいはそのための技術)をもっているかどうかは明らかでない。こうした諸問題にもかかわらず,新しい法律は,全体としてみれば正しい方向への1歩である。

 この10月政策は,適切に実施されれば成功の可能性がある。問題はその資金をどうやって調達するかである。さしあたり政府は,GDPの20%少しまで増税することを考えるかもしれない。これはOECDの基準からすれば税負担率としては軽い。しかし,増税という困難な政治的針路を取る前に,公共事業その他のプログラムから流用することによって多少の資金を確保することができよう。また,資源を最も費用効果の高いところへと回すように,諸プログラムを適切に評価し直すことによって節約を追求することもできる。


国際的な基準へ

 1995〜96年にOECD加盟交渉が進められていたとき,韓国の労働法や労使関係法は,かつての権威主義的な政治体制の遺産を反映して,国際的に受け入れられている基準からは外れていた。当時,韓国政府は労働法を改正して,結社の自由や団体交渉などの基本権を保障することを約束した。1996年以降,法令改革によって韓国の労働法は国際規範に近くなった。しかしそれでもいくつかの面でさらなる改革が必要とされている。

 例えば,労働組合複数主義の問題をとってみよう。つい数年前まで,ただ一つの全国労働組合組織(FKTU)が,従業員の利害代表として,事実上の独占権を享受していた。これは,結社の自由と団体交渉権に関するILOの基本条約に反していた。韓国政府は1997年に法令を改正して労働組合複数主義の原則を承認し,こうして競合しあう労働組合全国センター,具体的にはKCTUの結成と承認に道を開いた。これとは対照的に,この法律は会社レベルではいまだに(2002年まで)複数の労働組合の存在を禁止している。

 もう一つの問題は,失業者ないし解雇された労働者の組合加入が認められていないことである。この法律の背後には,部外の急進派が浸透することに対する不安があることは明らかであるが,交渉は基本的に会社レベルで当事者によって進められるべきだとする企業内組合の発想があることもまた確かである。だが,ほかのOECD諸国の事実上すべてにおいては,組合員資格は労働組合自身によって決定されている。

 公共セクターの労働立法にも問題がある。1999年になってやっと,公立(および私立)の学校教師に結社の自由と団体交渉の権利が認められ,公務員に職場における協議組織の結成権が与えられた。これはそれなりに評価できる措置ではあるが,韓国は更に進んで,公共サービスにおいても交渉権をもった労働組合を結成する自由を認めなければならない(ほかの国と同じように,たとえ公務員の賃金協定の法的な位置づけが民間セクター従業員のそれとは違っていても,である)。

 一部OECD諸国と同じように,韓国でも中央および地方の政府機関でのストライキは禁止されている。しかし韓国の法律は,強制的仲裁を義務づけることによって,「不可欠のサービス」における争議行為をも事実上禁止している。これは銀行や運輸,石油供給といったサービス産業を含む,ほかに例のない広い定義である。韓国はこの定義を狭めるよう国際的な圧力を受けていて,すでにその作業を開始しているが,包括的なストライキ禁止に代わる別の規定――例えば「骨格的」サービスの維持といった――を考えなければならない。

 OECDは2002年に韓国における労働市場と社会的安全ネットをめぐる政策の追跡調査を行う予定である。これは,雇用の不安定性が解消されつつあるか,社会的安全ネットの抜け穴がふさがれつつあるか,労働法の改革が進行しているかを再点検する機会となろう。南北の「和解」の兆候が現れつつある現在,経済・社会政策を適正化する必要は,ソウルの政府にとってそれだけ差し迫ったものとなるだろう。■


*
本記事は,Jaehung LeeおよびElena Stancanelliと共同で執筆された大部の研究の結果を要約したものである。


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