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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版 > No.223


 OECD Observer 日本語版

教育:その質もまた問題に

JACQUES HALLACK,
ASSISTANT DIRECTOR-GENERAL FOR EDUCATION, UNESCO

目標:2015年までにすべての子どもを小学校に入学させる

知識を得るための負担

 開発途上諸国で普遍的な初等教育を実現することはいまでも非常に大きな挑戦課題である――同時にそれは巨大なチャンスでもある。教育の成功は何百万人という人々に貧困から抜け出すための技能を与える。しかしその失敗は,この先10年間の教育上の――そして社会的な――危機の火に油を注ぐ結果となる。開発途上諸国では,子ども3人に1人が5年間の学校教育を修了していない。この数字を改善することは,課題のごく一部にすぎない。実際,就学率はほとんどの地域で上昇している。しかし,教育の質に問題が残っている。すべての人に教育機会を与えることは非常に重要である。だが,すべての人に高い質の教育をとなると,これはまたまったく別の問題となる。2000年4月の世界教育フォーラムで国際社会は,質の良い教育を行うことが最優先課題であることで合意した。

 これは,教師の訓練や,施設の改良,教材の提供,教育内容の充実などに投資することが重要であるという意味である。それは,家庭と地域社会の参加を拡大し,女子教育の妨げとなっている男女差別を廃止することを意味する。


教師の給料はすでに公共教育予算の95%を占めている。改善のためには資金の増額が必要とされよう。


 バングラデシュのアブ・シャラフ・ヒフズル・カデル・サディクエ教育相は,2000年2月のE9(人口大国9カ国)の会議で,自分の国では「数を急ぎすぎて,質がおろそかになった」ことを認めた。バングラデシュは識字率の向上ではめざましい進歩を遂げたが,質の面での困難は残っている。中国も同じ問題を認めている。同じE9の会議で,ル・フユアン教育次官は「学校教師の全体的な質が今後の重大な課題である」と述べた。彼は,遠隔地の教員確保の困難を指摘した。問題はバングラデシュと中国に限られるわけではない。ブラジル,マラウイ,メキシコなども,全員教育へ向けて大きく前進したほかの諸国とともに,現在では質の向上に関心を向けるようになっている。それは,いくつかのステップからなる仕事である。

 まず,教師の訓練が必要である。初等学校の就学率が96%に達したブラジルは,現在は教育の質の向上にその努力を集中している。生徒の半分近くが学習に1年の遅れを出して,1学年ないしそれ以上の再履修が必要になっているためである。最近の全国調査の結果によれば,大学卒業レベルの教師はそうでない教師よりも生徒の学習を遙かに早く進めることができた。しかし,現在のブラジルの公立初等学校教師150万人のうち,高等教育資格を有しているのはわずか半数である。現在,ブラジル政府当局は,教師の就業中訓練の推進に力を入れている。

 もちろん,訓練を終えた教師の再訓練も必要である。逆説的ながら,一部諸国で教師の訓練の高度化が進む一方で,ほかの国では資格のある有能な教師がコンピュータや観光などのほかの高収入職へと流出している。社会的地位の低さと低報酬のゆえに,教職からの頭脳流出が生じているのである。教師や教育者の道徳的,物質的な価値を回復して,彼らに社会的なふさわしい地位と認識と尊敬を与えることが必要である。これまでは,財政的な制約と政治的な事情がこのことを困難にしてきた。しかし,いまや変化が求められている。問題は,開発途上諸国の多くにおいて,教師の給料がすでに公共教育予算の95%をも占めていることである。教師の雇用条件を改善するためには,明らかに財源の拡大が必要である。


常に新しく

 設備と教材の改善も重要である。良好な学校環境は出席率や成功率に好結果をもたらす。残念ながら,逆もまた真実である。UNESCO/UNICEFのある調査によれば,アジアとアフリカの最も開発の遅れた14カ国では,学校の少なくとも35%(しばしばこれよりもずっと多く)が修理ないし建て替えを必要としている。その多くには家具も水道もない。開発途上諸国の多くは,適切な教科書や,数学用器材から地図にいたる教材の生産と配布においても深刻な困難に直面している。ここでも問題は,政治的な意志と資金源である。教材の場合は,健全な国家的戦略が欠如していることが多い。アフリカ語による出版が最も急速に発展しているナミビアや南アフリカ,ナイジェリア,ガーナといった諸国は,出版社と政府,そして全国の出版協会の間で緊密な協力関係を樹立することに成功したという点で模範的である。

 もう一つの問題は,教育システムが多くの国で時代遅れとなっていることである。学校で教えられていることが必ずしも役に立っていないのである。教育プログラムが,周辺社会の労働市場や地方文化を考慮していない場合,それは遅かれ早かれ「顧客」を失う。適切な教師訓練がこの問題の解決に役立つ。適切なカリキュラムを制定し,教科書その他を用意することも重要である。

 最後に,生徒の社会的地位や健康状態をはじめとする多くの外的なファクターが教育の質に影響する。結局,質の高い教育は,優秀な教師や適切な教材をそろえるだけの問題ではない。それは学習者の質の問題でもある。子どもは,健康で十分な栄養をとり,いつでも学習できなければならない。


特権的な行動

 今日,1億1,300万人の子どもが学校に行っていない。その大半が女子である。このうちの1億1,000万人は開発途上諸国に住んでいる。学校に行っていない子どもは,ストリートチルドレンだったり,ゲリラに徴募された南アメリカの山岳民族の子どもだったり,アジアのスラムでセックスワーカーにされている少女だったりするかもしれない。しかし,これらは極端なケースである。結果は同じくらい破滅的であるが,もっとありふれた事情で学校に行けない子どもたちが多数いる。例えば,収穫を手伝ったり,水を汲みに行ったり,年少の兄弟姉妹の世話をしたりするために家庭内にとどめおかれるアフリカの子どもたち――普通は女の子――である。家族が学校の費用を賄えないためという場合もある。

 社会文化的,経済的,物理的な諸要因の複雑に絡まった網の目が,子どもを教育から遠ざけている。学校が,パートナーとして家族を歓迎しないことによって。教育官僚が,教師を適切に支えないことによって。政府が,子どものためを思った政策を実行しないことによって,である。政府が非公式な教育を取り込むことに消極的であるため,NGOが放置された子どもたちの学校教育の大部分を引き受けている。しかし,真の前進を実現するためには,NGOと政府の間でより効果的なパートナーシップを築くことが必要である。

 人口動態も息抜きの暇を与えない。出生率の低下は,今後15年間で世界の学齢期人口の増加をわずか900万人に抑えるだろう。しかし,これには地域的な格差が大きい。東アジアでは,出産率の低下の結果として,学齢期人口は2,200万人減少する。しかし,サハラ以南アフリカでは3,400万人増える。このことは,1998年に学校に行っていなかった4,600万人を加えれば,今後15年間に8,000万人の子どものために学校を建設し,教師を養成し,教科書を供給しなければならないことを意味する。南アジア,中東,北アフリカも同じような問題に直面している。

 以上のような展望は,教育システムの効率の改善をこれまでにもまして緊急の課題としている。今日,南アジアとサハラ以南アフリカでは,5年級まで修了できるのは生徒3人におよそ2人の割合にすぎない。効率という意味では,学校システムに向けられる資源の3分の1は,留年したり落第した生徒に使われている。事実,1995年に初めて学校に入った9,600万人の生徒のうち4分の1が5年級修了前に学校を辞めてしまう可能性がある。学校を真に開放的で,誰でも入学できるようにするためには,ごく普通の,成績の良くない多数の生徒の必要にもっと敏感になることが求められている。■


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