|
DAVID ANTHONY
MANAGER,COUNTRY RISK, ECONOMIST INTELLIGENCE UNIT*
「権力志向が優っているときは,理想が高いほど結果は劣る」道徳経。
ここ10年間,「持続可能な開発」の概念―マクロ経済の安定・貧困の減少・環境再生を急速な成長と結び付ける―が,主要な多国間組織の主目標として,「市場改革」に取って代わっている。政策の変化およびGDP成長自体は開発途上世界の状況を改善するための必要条件の複雑なパッケージの一部にすぎないとの認識は,歓迎するべきものである。ワシントンにおけるコンセンサスから生まれた単純な「一つのサイズで全部間に合う」式のアプローチからは,明らかに相異なる影響が生じた。特にアジア危機を契機とした批判や反省から多国間機関において再考が促された結果,協力の改善が推進され,いくつかの革新的なイニシアティブが出現した。このようなイニシアティブとしては,HIPC(重債務貧困国)債務救済プログラム,データ基準および提供に関する協力,また,最も新しくは,国連,OECD,IMFおよび世界銀行が発表した開発目標に関する7項目共同中間報告―A
Better World for All―などが上げられる。
最新の作業で検討された目標は,今後の10年間において開発を評価するための基準としての役割を果たそう。これらの目標は意欲的で,多分楽観的にすぎるものであろう。しかし,目標に弱点があったとしたら,楽観的にすぎるという点よりも,国際経済および地政学的条件は今後15年間引き続き良好で,かつ,援助供与国および援助受領国の双方が責任をもって行動するとの暗黙の前提である。
グローバルなリスク
石油価格を要因とする国際経済の景気後退,アメリカ経済のハードランディング,アジア/ロシア/ブラジル経済ショックに類似する広範な新興市場危機といったグローバルな経済リスクは,先進国が開発途上諸国に振り向けることができる,または振り向ける意欲がある資金を抑制することにより,開発目標の達成を妨げる可能性がある。例えば湾岸やバルカン諸国における紛争の再発のようなグローバルな政治的リスクも,関心をそらせ,資金供与を阻害する可能性がある。
更に,他のリスクもある。IMFや世界銀行の資金供与が不十分である場合やこれらの機関の目標,方法および影響力に左右されて主要援助供与国の支援に問題がある場合は,今後,開発途上国に対する融資を増加させる能力を制約する可能性がある。一方で援助疲れはなお顕著で,選挙民が往々にして国内社会サービスの改善の代償として高い税金を納めるのをますます嫌がっているように思われ,かつ対外援助プロジェクトには注意を払わない(欧州主要国における最近の燃料抗議危機に留意のこと)ような援助供与国,他方でその多くがなお構造改革のために悪戦苦闘しており,重要な社会分野(教育,ヘルスケア,インフラストラクチャー)に対する大規模な投資を行う余裕がないような援助受領国の限られた実施能力にかんがみて,残念ながら,各国政府首脳がついこの9月国連ミレニアム・サミットにおいて再確認した目標の達成は難しい可能性が高い。
先進国および開発途上国の双方で民営化により公共部門が縮小しつつある中で,これらの目標を達成するためには民間部門の参加が必要である。カントリーリスク―政治的な不安定性および非効率性,誤った政策運営,構造的制約要因および流動性不足―は,すでに開発途上国への民間資本の流れを阻害している。利益志向のグローバル市場において,Better
World報告書を作成した諸機関が―多大の債務を自ら引き受けるかないしは受領国が引き受けることなしに,また,(なかんずくラテンアメリカにおいて)1990年代の成長の大部分を推進した急速で環境を損なう可能性がある天然資源の利用を加速することなしに―貧困を軽減するのに必要な大規模なインフラ開発に協力し,寿命を延ばし生活の質を向上させ,環境を保護するよう企業を説得できるようなインセンティブをどのようにして設けるつもりなのかはっきりしない(次の記事参照)。
債務と一層自由な貿易
いやしくも国際開発政策に対する信頼を保つとすれば,高い理想は,立派な言葉と同様,行為によって裏付ける必要がある。アジア危機の後,約束されたグローバルな金融構造の確立に向けての進展の欠如(およびその結果としての信頼の喪失),環境保護に関する国際的コンセンサスの達成に向けての熱意のない不承不承の試みや,債務不履行に陥った新興国家との共同負担に対して民間国際債券債権者が示した抵抗に注目されたい。開発政策に対する信頼を保つとすれば,2つの分野―国際債務救済・再編成および国際貿易自由化―において迅速かつ大幅な進展が緊要である。開発途上国の多くは,往々にして,国民所得の伸びよりも多い額を非生産的な債務償還として支払っているので(債務返済額/GDPとして評価),国内貯蓄能力,したがって社会部門に投資する余力は,債務再編成ないし債務救済により債務負担が軽減されない限り,限られたものとなる。このことは,ブラジルやアルゼンチンなどの中規模の中所得途上国にも後発途上国にも妥当する。先進国における貿易障壁は,比較優位が低付加価値一次産品にある多くの開発途上国の輸出能力を阻害する。国際貿易自由化は,輸出,したがって国内貯蓄を増加させるのに役立ち,一番うまく行った場合のシナリオにおいては,各国に債務を減らす余地を与え,資金を投資のために解放するだろう。更に重要なのは,これら2つのイニシアティブは,開発途上国およびその国民の所得支配力および稼得力を高めることにより,彼等の能力を強化する見込みがあることである。
A Better World for Allの作者は,開発の目的は人間の幸福を高めることであり,その不可欠の要素は幸福を自ら規定する権利であると確信しているが,当然そうあるべきである。7つの目標を基準として幸福を規定することができるのであれば,計画の不可欠の要素は,これらの目標をいかにして達成するかを自ら決定する能力を開発途上国に与えることでなければならない。多国間機関は,少なくとも,自分たちの役割が政府,企業,労働および市民社会を含むローカルな組織と十分なパートナーシップを組むことにあるということを理解しなければならない。理解しない場合は,過去の誤った介入策が繰り返されることになり,統計的には進展が見られても,開発の最終目標には近付かないといったことになりかねない。■
*本記事の見解は筆者のものであり,必ずしもEIUまたはその関連会社の立場を反映していない。
目次
|