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Home OECD Tokyo > OECD Observer 日本語版> No.223


 OECD Observer 日本語版

頭脳訓練

 頭脳は,政策当局による教育制度改善に貢献できるだろうか。科学者はできるという。

 「老人に新しいことを教えることはできない」という諺は,もはや通用しない。少なくとも神経科学者は,頭脳科学の分野でそう主張するようになっている。つい最近,1997年までは,形成的学習は生まれてから3年以内にしかできないと一般に考えられていた。しかし,科学技術の飛躍的な発展に助けられた新しい研究により,そうではないことが示されている。実際,40歳後のニューロン喪失は,常時,頭脳を刺激することにより補うことができるとのデータがある。言い換えれば,筋肉の場合と同様,一定の運動により,生涯のいずれの時点でも学習の利益を引き出せるということである。この頭脳可塑性,すなわち生涯学習能力は,認知科学者にとって極めて興味深い発見であり,教育政策立案に影響を及ぼし始めている。

 学習の研究と応用との間のギャップについては,学習科学および頭脳研究についてOECDが新たに開始したプログラムの一環として,2000年6月に行われた会議で検討された。その目的は,神経科学者と政策当局に話し合いをさせることにあった。これは,いずれの分野についてもたいへんなことである。OECDの教育研究技術革新センター(CERI)のオーガナイザーBruno Della-Chiesaは,「科学者は,政策当局が尋ねる必要がある問題に対する回答を持っている」と述べた。「また科学者は,政策当局がどの研究を利用することが可能で,どの種の研究に資金を供与する用意があるかを知る必要がある」。

 最近10年間に,脳の研究に目覚しい進歩があった。これは,機能磁気共鳴像(fMRI)(電波を用いて作用脳領を測定する)や陽電子放射断層撮影法(PET)(高性能コンピュータを用いて脳エネルギー代謝を追跡する)などの技術のお陰である。以前の研究方法は,死体解剖や頭部損傷の治療に依存していた。今日では,fMRIやPETなどの技術を用いて,脳組織の血液循環を追跡し,ニューロンの興奮やシナプシスの回路を記録することができるようになったため,研究者は,空間的位置付け,視覚的表示,言語処理といった脳の作用を分離・測定することが可能になった。最近の遺伝学およびクローニング手法の飛躍的な進歩も,有益であると期待される。欠けていたのは,このような発見の意義を政策当局者に分からせることだけであった。これこそ,OECDが乗り出すことをDella-Chiesa氏が歓迎する理由である。

 「国際レベルで取り組むべき倫理的な問題や経済的問題があるので,OECDのような政府間機関の関与が重要である」と同氏は述べた。その中で同氏は,遺伝子操作や「学習ピル」の使用といった事態になったら一体どうなることかとの疑問を呈した。学習を加速する薬品が発見されたら,当該薬品はすべての者に利用可能にするのか。流通はどのように統制するのか。習得した知識から利益を得るのは誰だろうか。

 ニューヨークのSacler InstituteのBruce McCandlissは,失読症の分野において草分け的な研究を行った。失読症とは,10人に1人がこうむる特殊な言語学習・読解障害である。同氏の研究の結果,同障害を引き起こす脳の微小部分が特定されたばかりでなく,これを治す方法も示された。同氏が用いる方法は,この部分への血液の流れを刺激する一連の精神作用から成っている。基本的には脳を「揺すり」,ニューロンの結合を再活性化することである。まだ初期の段階ではあるが,ニューヨークにおける会議から判断すると,教育者も政策当局者も関心を持ち始めたようである。

 2番目の「頭脳会議」は,2001年2月にグラナダ(スペイン)で開催される。新しい発見は老人だけにかかわるものではないので,焦点は若者の学習に当てられよう。討議に予定されているテーマには,学習リズム,乱暴な行動,ホルモン変化,意思決定,更に,「EQ対IQ」,すなわち,情緒的知能対知的知能の比較などが含まれる。■A.B.


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